第19話 芽吹き
ダンフェスまで残り3日。
この25日の間に、精霊の遊庭は大きく変わった。
モンスターが増えた。ホブゴブリンの小隊長が生まれた。シャドウバットが影に潜んで索敵するようになった。ブレイブは2度目の侵入者戦でも壁として踏ん張った。ラット隊の偵察範囲が広がって、素材の収集量が増えた。
エリンも変わっていた。
名前をつけてから、エリンは明らかに動きが変わった。他のピクシーが木の陰から光弾を放つだけのところ、エリンだけ一瞬止まって、周囲の魔素を感じ取ってから放つ。その光弾は壁の角を曲がり、遮蔽物を避け、まるで意思を持っているように飛んでいく。
「コアさん、エリンのステータスって今どのくらい?」
「他のピクシーと比較して魔力量が1.8倍、魔素感知・初級を習得、精度補正が常時発動しています」
「……かなり差がついてるな」
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その日の午後、また侵入者が来た。
3名。
今日はエリンが早い段階から動いた。木の陰から出て、通路の空中に浮かんだ。周囲の魔素が揺れる。
光弾を放つ。
1発目が侵入者の剣を弾いた。2発目が足元に当たって体勢を崩させた。3発目がホーンラビットの突進と重なって、侵入者が転倒した。
「……連携してる」
エリンが指示を出したわけじゃない。でもタイミングが合いすぎていた。
侵入者3名が撤退した。
管理画面に通知が来た。
《エリン》
《進化条件を達成しました》
《進化しますか?》
「……え」
思わず声が出た。
「進化先は?」
「スプライトです。能力向上:魔力量増加・魔素操作・飛行速度上昇」
ルナリアはしばらく画面を見つめた。
スプライト。ピクシーの上位種だ。魔素操作が使えるようになる。今まで光弾を放つだけだったエリンが、魔素そのものを操れるようになる。
「……する」
承認する。
エリンの体が光に包まれた。アルスの時より静かな光だ。でも周囲の魔素がエリンに向かって集まってくるのが分かった。洞窟の壁から滲み出ていた魔素の光が、エリンの方へ流れていく。他のピクシーたちが一斉に距離を取った。
しばらく時間がかかった。
光が消えた。
エリンは少し大きくなっていた。羽が二対になっている。体の輪郭が少し鮮明になって、淡い光を帯びているように見える。
エリンはゆっくりと羽を動かして、宙に浮いた。
それから洞窟の壁の魔素の光の前に向かった。いつもの場所だ。手を伸ばす。
光が揺れた。
今度は揺れ方が違った。エリンの手の動きに合わせて、光が形を変えていく。丸くなって、細長くなって、また丸くなる。エリンの意思に応えているように動いていた。
「……コアさん、今のって」
「魔素操作・初級です。魔素の流れを直接操作しています」
「自分でやってる?」
「はい。スキルとして習得しています」
ルナリアはしばらく黙って見ていた。
エリンが光を操っている。遊んでいるのか、練習しているのか、確かめているのか。でも楽しそうに見えた。鈴の音のような声で、小さく鳴いた。
「……良かったね、エリン」
エリンはこちらを振り返らなかった。でも羽が一度だけ、大きく広がった。
その時、アルスがエリンの方を見ているのに気づいた。
いつもと違う目だった。驚いた様子はない。ただ、静かに見ていた。まるでこうなることを知っていたかのように。
「……アルス、やっぱり知ってたでしょ」
アルスは低く喉を鳴らした。
肯定とも否定とも取れない返事だった。
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夜、ルナリアは3層目の住居エリアに戻った。
ダンフェスまであと3日。
ランキングが発表される。他のダンジョンマスターの顔が見える。担当神というのが何者なのかも分かる。
何もかもが初めてだ。
「……緊張するな」
アルスが入口で待っていた。
「……一緒にいてくれるの?」
アルスは低く喉を鳴らした。
「主」
「そう、私が主。……ありがとう、アルス」
洞窟の奥で、エリンの鈴の音がした。
進化前より、少しだけ音が変わっていた。
澄んでいて、少し遠くまで届くような音だった。
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