第15話 変なダンジョン
楽勝だと思っていた。
新しいダンジョンが出たと聞いて、ギルドに調査依頼が出た。Gランク。駆け出し向け。俺たちにはちょうどいい案件だった。
「ゴブリンダンジョンらしいぞ」
パーティリーダーのカインが言った。4人パーティ。全員Gランク。ゴブリン相手なら数で押せる。そういう算段だった。
ダンジョンの入り口は岩肌の斜面に開いていた。特に変わったところはない。普通の洞窟だ。
「行くぞ」
松明を持って中に入った。
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最初の異変は入ってすぐだった。
「……ラットがいる」
通路の壁際、暗がりの中に灰色の影がある。ジャイアントラットだ。でも動かない。ただこちらを見ている。
「ゴブリンダンジョンにラット?」
「珍しいな。でもGランクだろ。気にすんな」
進んだ。
ラットはついてきた。壁際の暗がりを伝って、こちらを追いかけている。1体だけじゃない。気づけば3体いた。
「……監視されてる?」
「気のせいだろ」
でも全員が少し黙った。
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通路の中盤で、カインが足を止めた。
「待て」
前方の床を松明で照らす。一見何もない通路だ。でもカインは慎重だった。
石を拾って投げた。
どすん、と音がした。落とし穴だった。
「あったぞ」
深い。以前攻略したダンジョンの落とし穴より明らかに深い。壁の造りも違う。木材で補強されていた。
「……手が込んでるな」
迂回して進む。
次の曲がり角で、壁に手をついた仲間が声を上げた。
「痛っ」
毒針トラップだった。掌に小さな傷。大した傷じゃない。でも少しずつ体が重くなってきた。
「毒か」
「撤退するか?」
「まだいける」
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奥に進むにつれて、嫌な感覚が増していった。
何かに誘導されている気がする。でも何に誘導されているのか分からない。
天井からコウモリが降りてきた。思わず視線が上に向く。その瞬間、足元で何かが動いた。
ホーンラビットだった。角が足を引っかける。体勢が崩れる。
「っ」
転倒トラップを踏んだ。よろける。壁に手をついた。また毒針が走った。
「くそ、連動してる」
そこにピクシーが来た。木の陰から小さな光弾が飛んでくる。大したダメージじゃない。でも積み重なる。毒と疲労と、次々に来る攻撃。
「撤退だ」
カインが叫んだ。
振り返る。
通路の先に、さっき見たジャイアントラットがいた。
こちらを一瞥して、奥へ消える。
その先からホブゴブリンが現れた。
「待て」
カインが声を上げた。
「なんだ?」
「あいつ……俺たちじゃなくて通路を見てる」
全員が足を止めた。
ホブゴブリンはこちらを見ていなかった。通路の左右を、一度ずつ確認していた。それから退路を塞ぐように、中程に立ちはだかった。
「退路塞いでる」
「偶然じゃないのか?」
「……そう見えねぇ」
誰も動けなかった。
ホブゴブリンはただそこに立って、静かにこちらを見ていた。焦りもなく、興奮もなく。まるで、こうなることが分かっていたように。
「……走れ」
カインが低く言った。
4人で入り口へ向かって走った。ホブゴブリンは追ってこなかった。ただ通路の中程に立って、こちらが出ていくのを見ていた。
外に出て、全員で息を整えた。
「……なんだあのダンジョン」
カインがつぶやいた。
「Gランクだよな?」
「ギルドの記録はGランクだ」
「なんでモンスターの連携がああなってるんだ。なんであのホブゴブリンはあんな動き方をするんだ。なんで……」
誰も答えなかった。
「……報告書、どう書くか悩むな」
全員がしばらく黙っていた。
ダンジョンの入り口は、静かだった。
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