第13話 エリン
ピクシーたちが2層目の森に慣れてきた。
最初は洞窟の天井近くをふわふわ飛んでいるだけだったのが、今では森の木々の間を自在に動いている。木の陰に隠れて、鈴の音のような声で鳴き交わしながら、自分たちで遊んでいるようにも見える。
管理画面で確認すると、戦闘時の動きも少しずつ変わってきていた。最初は指示を出さないと動かなかったのに、今はアルスの動きに合わせて自分で判断して動いている。
「……成長してるんだな」
数値には出にくい変化だ。でも確かに変わっている。
ただ、1体だけ少し違う動きをする個体がいた。
他のピクシーが木の陰に隠れているとき、その1体だけ魔素の光の多い場所に集まる傾向があった。洞窟の壁から滲み出る魔素の光の前に止まって、じっとしていることがある。他のピクシーが鳴き交わしているときも、少しだけ離れたところで独りでいることが多い。
「……あの子、なんか変じゃない?」
管理画面で確認すると、ステータスが他のピクシーと微妙に違った。魔力量が少し高い。なぜ高いのかは分からない。最初からそうだったのか、それとも変化したのか。
その個体が洞窟の壁に近づいて、魔素の光に手を伸ばした。
光が、ほんの少しだけ揺れた。
「……え」
魔素の光は風でも揺れない。それが揺れた。そのピクシーが触れた瞬間だけ。
「コアさん、今のって」
「……魔素への干渉を確認しました。この個体は魔素との親和性が他より高い可能性があります」
「親和性が高い……精霊系だから当然じゃないの?」
「精霊系の中でも個体差があります。この個体は特異的な反応を示しています」
ルナリアはしばらくそのピクシーを眺めた。
魔素の光の前に浮かんで、また手を伸ばしている。光が揺れる。また揺れる。遊んでいるのか、それとも何かを確かめているのか。
「……名前、つけようか」
管理画面でその個体を選択する。名前欄を開いた。
何がいいだろう。
魔素の光の前で、静かに光に触れている。他のピクシーとは少し違う。でも孤独というわけじゃない。ただ、自分のペースがある。
「……エリン」
入力して、承認する。
——名前「エリン」を付与しました。
エリンは振り返った。
ルナリアを見た。鈴の音のような声で、一声だけ鳴いた。
それから魔素の光の方へ向き直って、また手を伸ばした。
「……よろしくね、エリン」
エリンは答えなかった。
でも、魔素の光が少しだけ、また揺れた。
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