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終末のシュレディンガー  作者: 狛犬 らんが


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第2話 未来を視る少年

虚獣の絶叫が、崩壊した街へ響き渡る。


 黒い血液が石畳を溶かし、紫色の煙を上げていた。


 


 騎士団も、魔術師たちも、誰一人動けない。


 


 あり得ないのだ。


 


 虚獣は通常魔法を喰らう。


 王国最上級魔術ですら、まともなダメージは通らない。


 


 なのに。


 


 目の前の少年――黒瀬ユウは。


 


 ただ触れただけで、虚獣の腕を消し飛ばした。


 


「なんだ……あれは……」


「矛盾魔法……?」


「いや、あんな力……聞いたことがない……!」


 


 騎士たちが震える。


 


 一方でユウ自身も混乱していた。


 


 心臓が異様に速い。


 身体の奥で、何かが脈動している。


 


 世界の輪郭が、少しだけズレて見えた。


 


 壊れた建物。


 逃げ惑う人々。


 炎。


 


 その全てが。


 


 “存在している”のに、“存在していない”。


 


 そんな感覚。


 


「……気持ち悪ぃ……」


 


 ユウは額を押さえる。


 すると。


 


 城壁の上に立っていた銀髪の少年――白峰レイが、静かに目を細めた。


 


「もう能力が世界と干渉し始めているのか」


「……?」


 


 次の瞬間。


 


 虚獣が再び咆哮した。


 


 失った腕を黒い霧が覆う。


 すると。


 


 ――再生した。


 


「なっ……!?」


 


 騎士たちが絶望する。


 


 虚獣はただ強いだけではない。


 学習し、進化する。


 


 だから“終末の怪物”と呼ばれている。


 


 そして。


 


 虚獣の赤い瞳が、完全にユウを捉えた。


 


「ギィィィァァァァァァァァッ!!」


 


 轟音。


 


 地面を砕きながら、虚獣が突進する。


 


 速い。


 


 騎士団長ですら反応できない速度。


 


「ユウ!!」


 


 誰かが叫ぶ。


 


 だが。


 


 その瞬間だった。


 


「右に避けろ」


 


 静かな声。


 


 ユウは反射的に身体を動かした。


 


 直後。


 


 虚獣の爪が、数センチ横を通過する。


 


 風圧だけで地面が抉れた。


 


「……は?」


 


 ユウは目を見開く。


 


 今の声。


 


 レイだ。


 


 城壁の上から、一歩も動かずに指示した。


 


 だが、それだけでは終わらない。


 


「三秒後、左後方」


 


 ユウが振り向く。


 


 直後。


 


 虚獣の尻尾が、先ほどまでユウがいた場所を粉砕した。


 


「未来が……見えてんのか?」


 


 レイは淡々と答える。


 


「正確には、“未来演算”だ」


「お前がどう動き、敵がどう反応するか」


「数百万通りの未来から、生存率が最も高いルートを選んでいる」


 


 その瞳が蒼く輝く。


 


《ラプラスの悪魔》


 


 空気が震えた。


 


 瞬間。


 レイの姿が消える。


 


 いや、違う。


 


 速すぎて見えない。


 


 次の瞬間には、彼は虚獣の頭上にいた。


 


「――断て」


 


 蒼い魔法陣が展開される。


 


 光の剣。


 


 圧縮された魔力が、一閃となって振り下ろされた。


 


 ――ズガァァァァンッ!!


 


 轟音。


 


 虚獣の巨体が吹き飛ぶ。


 街の外壁まで叩きつけられ、大地が崩壊した。


 


「すげぇ……」


 


 ユウは思わず呟いた。


 


 だが。


 


 レイの表情は険しい。


 


「まだ死んでいない」


「……え?」


 


 次の瞬間。


 


 崩れた瓦礫の奥から、“黒い霧”が溢れ出した。


 


 それは先ほどより濃い。


 禍々しい。


 


 まるで。


 


 怒っている。


 


「まずい……!」


 


 レイの顔色が変わる。


 


「こいつ、進化する気だ!」


 


 虚獣の身体が変形を始める。


 


 骨が軋む。


 肉が膨張する。


 


 そして。


 


 背中から、無数の黒い腕が生えた。


 


「第二形態……!?」


 


 騎士たちが絶望する。


 


 通常、第二形態へ進化した虚獣は“都市災害級”。


 


 王国軍でも討伐は困難。


 


 そんな怪物が。


 


 今、この街の中心にいる。


 


「全員避難しろ!!」


「結界班は住民を守れ!!」


 


 騎士団が叫ぶ。


 


 だが。


 


 間に合わない。


 


 虚獣の口に、黒い光が集まり始めていた。


 


 空間そのものが歪む。


 


「……終わる」


 


 誰かが呟いた。


 


 あれが放たれれば。


 


 街ごと消し飛ぶ。


 


 レイが歯を食いしばる。


 


 未来視の中で、無数の死が見えていた。


 


 回避不能。


 


 勝率――ゼロ。


 


 その時。


 


「……いや」


 


 ユウが前へ出た。


 


「まだ、決まってねぇだろ」


 


 黒月が脈動する。


 


 ユウの瞳に、黒い光が宿った。


 


 すると。


 


 世界が、再び軋み始める。


 


 生と死。


 存在と非存在。


 可能性と確定。


 


 あらゆる境界が曖昧になっていく。


 


 レイが目を見開いた。


 


「まさかお前……」


 


 ユウは、迫る終末を見上げながら呟く。


 


「だったら――」


 


「“当たらない可能性”もあるよな?」 


 


 次の瞬間。


 


 虚獣が、黒き閃光を放った。

第二話を読んでいただきありがとうございました!


今回は、


* 白峰レイの能力《ラプラスの悪魔》

* 進化する虚獣

* ユウの《シュレディンガーの猫》の片鱗


などを描いた回でした。


未来を“確定”させるレイと、

結果を“未確定”にするユウ。


真逆の能力同士だからこそ、

今後の戦いでは特別な関係になっていきます。


また、ユウの能力は決して万能ではなく、

精神状態や“観測”によって結果が左右される危険な力でもあります。


そして最後に現れた、

黒月の中の“眼”。


あれはいったい何なのか。


物語はここから、

世界の裏側へ踏み込んでいきます。


感想・ブックマーク・評価などいただけると、とても励みになります!

次回、

『観測されるまで』


よろしくお願いします!

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