第1話 黒月の夜
『終末のシュレディンガー』を読んでいただきありがとうございます!
この作品は、
* ダークファンタジー
* 異能バトル
* 哲学・思考実験
* 世界崩壊系
などを混ぜた、
“矛盾”をテーマにした物語です。
「もし、生と死が同時に存在したら?」
そんな思考実験から、この作品は始まりました。
主人公・黒瀬ユウが、
“終末”と“世界の真実”にどう立ち向かうのか。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
世界には、二種類の魔法が存在する。
一つは、人々が古くから使ってきた“理法魔術”。
火を灯し、水を操り、風を裂く。
自然界の理を借りることで発動する、王道の魔法体系だ。
そしてもう一つ。
黒月が現れた日から生まれた、禁忌の力。
世界そのものを歪める矛盾魔法――《パラドクス》。
それは、人の理解を超えた力だった。
死んだはずの人間が生き返る。
燃えた城が翌日には元通りになる。
未来が書き換わる。
存在そのものが消える。
だから人々は恐れた。
空に浮かぶ、あの“黒い月”を。
――黒月。
それは、終末の象徴だった。
◆
王国辺境都市ノアール。
灰色の石畳と巨大な城壁に囲まれた街。
夕暮れ時の市場は、今日も活気に満ちていた。
「焼きリンゴだよー!」
「東の森で採れた魔草だ! 安いぞ!」
人々の喧騒。
路地裏を駆ける子供たち。
魔導ランプの淡い光。
どこにでもある、平和な日常。
……少なくとも、昨日までは。
「……また、あの夢か」
黒瀬ユウは、街を見下ろす時計塔の上で呟いた。
黒いコートを羽織った十七歳の少年。
風に揺れる黒髪。
だが、その瞳だけはどこか虚ろだった。
最近、ずっと同じ夢を見る。
赤黒い空。
崩壊した街。
血に染まる大地。
そして――。
巨大な“何か”に胸を貫かれる自分。
「縁起悪ぃ……」
ユウはため息を吐き、立ち上がった。
その時だった。
――ゴォォォォォン……
重く、不気味な鐘の音が街に響いた。
ユウの顔色が変わる。
「警鐘……?」
次の瞬間。
空が、黒く染まった。
「……は?」
人々が足を止める。
誰もが空を見上げた。
雲ではない。
夜でもない。
空そのものが、黒い。
そして、その中心。
巨大な“黒い月”が浮かんでいた。
王国では誰もが知っている。
黒月が現れる時。
必ず“災厄”が起きる。
「虚獣だぁぁぁぁッ!!」
誰かの叫び。
直後。
街の中央広場が爆発した。
轟音。
炎。
崩壊。
石畳が吹き飛び、人々が悲鳴を上げる。
その中心から現れた。
黒い霧を纏った巨大な怪物。
歪な四足。
裂けた顎。
無数の赤い瞳。
まるで世界の悪夢そのもの。
――虚獣。
黒月から現れる、終末の怪物。
通常の魔法では傷一つつかない。
国一つ滅ぼした記録すらある化け物。
「逃げろ!!」
「西門へ向かえ!!」
王国騎士団が叫ぶ。
魔術師たちが詠唱を始めた。
「炎槍魔法!!」
巨大な炎槍が虚獣へ突き刺さる。
だが。
――喰われた。
虚獣の黒い霧が、炎そのものを飲み込んだのだ。
「なっ……!?」
騎士の顔が絶望に染まる。
次の瞬間。
虚獣が咆哮した。
轟音と共に衝撃波が街を薙ぎ払う。
建物が崩壊し、人々が吹き飛ぶ。
「……くそっ!」
ユウは咄嗟に近くの少女を抱え、瓦礫の下へ飛び込んだ。
爆風。
悲鳴。
熱風。
地獄だった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……」
少女は震えていた。
当然だ。
こんな怪物、誰だって恐ろしい。
だが。
ユウはそれ以上に、“別の何か”に寒気を覚えていた。
頭の奥が、ズキズキと痛む。
嫌な予感がした。
まるで。
この光景を“知っている”ような。
「……まさか」
その瞬間。
虚獣の赤い瞳が、ユウを見た。
空気が凍る。
次の瞬間。
巨腕が振り下ろされた。
「ユウ!!」
誰かの叫び。
視界が黒に染まる。
死ぬ。
そう確信した、その時だった。
――カチリ。
世界の音が止まった。
「……え?」
風が止まる。
炎が止まる。
瓦礫すら空中で静止していた。
動いているのは、ユウだけ。
そして。
空に浮かぶ黒月だけだった。
その黒月の中心から、声が響く。
『観測開始』
機械のような声。
男でも女でもない。
『適合者確認』
『黒瀬ユウ』
『矛盾値、基準突破』
ユウの心臓が跳ねる。
「なんだよ……これ……」
すると黒月の表面に、“巨大な眼”が浮かび上がった。
世界を見下ろす、神の瞳。
『矛盾魔法を付与』
『能力名――』
その瞬間。
ユウの脳内に、大量の情報が流れ込む。
生と死。
可能性。
観測。
未確定。
理解不能な概念が脳を焼く。
そして。
世界が、答えを告げた。
《シュレディンガーの猫》
瞬間。
止まっていた時間が動き出す。
虚獣の腕が、ユウへ直撃した。
轟音。
地面が砕ける。
周囲が吹き飛ぶ。
誰もが思った。
――死んだ、と。
だが。
「……あれ?」
ユウは立っていた。
無傷で。
虚獣が動きを止める。
騎士たちも絶句していた。
ユウ自身、理解できない。
ただ、頭の中で“理解”だけが浮かぶ。
死んだ。
だが、生きている。
両方が同時に存在している。
「なんだよ……この力……」
その時。
虚獣が再び咆哮し、ユウへ飛びかかった。
反射的に、ユウは手を伸ばす。
触れた。
その瞬間。
――虚獣の右腕が、消滅した。
「ギァァァァァァァァァッ!!」
絶叫。
黒い血が噴き出す。
騎士たちが凍りついた。
「虚獣を……素手で……?」
あり得ない。
この世界で、虚獣を傷つけられる存在などほとんどいない。
だが。
空から、静かな声が降ってくる。
「やはり現れたか」
銀髪の少年が、城壁の上に立っていた。
蒼い外套。
透き通るような瞳。
その目は、“未来”を見ているようだった。
「……誰だ」
ユウが睨むと、少年は静かに答える。
「白峰レイ」
「未来を観測する者だ」
そして。
彼は、確信したように言った。
「黒瀬ユウ」
「お前は――世界を終わらせる存在になる」
第一話を読んでいただきありがとうございました!
今回は、
* 黒月
* 虚獣
* 矛盾魔法
* 主人公の能力《シュレディンガーの猫》
など、世界観の導入回でした。
ここから、
* 未来を視る少年「白峰レイ」
* 世界を書き換える能力者たち
* 終焉機関ネメシス
* 黒月の正体
などが本格的に動き始めます。
この作品は、
「能力バトル」と「世界の謎」が大きな軸になっています。
少しでも続きが気になったら、
ブックマークや感想をいただけると励みになります!
次回、
『未来を視る少年』
よろしくお願いします!




