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終末のシュレディンガー  作者: 狛犬 らんが


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3/3

第3話 観測されるまで

黒き閃光が、街を呑み込もうとしていた。


 


 虚獣第二形態。


 その口腔に集束した黒いエネルギーは、周囲の魔力すら喰らいながら膨張していく。


 


 空気が軋む。


 地面が崩れる。


 


 放たれれば、この区画一帯は消し飛ぶ。


 


「結界が持たない!!」


「避難を急げぇぇ!!」


 


 騎士たちの怒号。


 泣き叫ぶ子供。


 崩壊する街。


 


 その中心で。


 


 黒瀬ユウだけが、黒い光を見上げていた。


 


「…………」


 


 怖かった。


 


 身体が震えている。


 足も、うまく動かない。


 


 なのに。


 


 頭の奥では、“別の感覚”が広がっていた。


 


 生きている。


 


 死んでいる。


 


 その両方が、自分の中に存在している感覚。


 


 理解不能。


 なのに、妙にしっくりくる。


 


 ――観測されるまで、結果は決まらない。


 


 黒月から流れ込んできた知識。


 


《シュレディンガーの猫》


 


 箱の中の猫は、

 観測されるまで「生」と「死」が同時に存在する。


 


 なら。


 


 今の自分も同じだ。


 


「……俺は、まだ“死んだ”って決まってない」


 


 その瞬間。


 


 虚獣が咆哮した。


 


 ――轟ッ!!


 


 黒き閃光が放たれる。


 


「ユウ!!」


 


 レイの叫び。


 


 だが回避は不可能。


 


 漆黒の奔流が、ユウを真正面から呑み込んだ。


 


 爆発。


 衝撃。


 


 街が揺れる。


 


 誰もが目を覆った。


 


 終わった。


 


 そう思った、その時。


 


 ――煙の中に、人影が立っていた。


 


「……っ、はぁ……ッ!!」


 


 ユウだった。


 


 だが無傷ではない。


 


 左肩が焼け焦げ、血が流れている。


 呼吸も荒い。


 


「どうして……生きてる……?」


 


 騎士のひとりが呆然と呟く。


 


 ユウ自身にも、完全には分からない。


 


 ただ。


 


 “死んだ結果”と、“生き残った結果”。


 


 その両方が、一瞬だけ重なっていた。


 


 そして。


 


 “観測される前”に、生存側へ偏った。


 


 それだけだった。


 


「全部は防げねぇのか……」


 


 ユウは焼けた肩を押さえる。


 


 万能じゃない。


 


 もし直撃の瞬間、

 誰かが「ユウは死んだ」と確信していたら。


 


 あるいは。


 


 自分自身が“死を受け入れていた”ら。


 


 結果は死へ固定されていたかもしれない。


 


 つまりこの能力は――。


 


 絶対無敵じゃない。


 


 “観測”に左右される。


 


 その時。


 


 レイが険しい顔で呟いた。


 


「なるほど……」


「お前の能力は、“可能性そのもの”を揺らしているのか」


 


 レイの蒼い瞳が、ユウを見据える。


 


「確定していない結果を維持して、生存側へ傾けている……」


「だが、それには限界がある」


 


「……限界?」


 


「お前が強く“死”を認識した瞬間、能力は崩れる」


 


 ユウは息を呑んだ。


 


 つまり。


 


 恐怖。


 絶望。


 諦め。


 


 そういう感情が強まれば。


 


 “死”が確定してしまう。


 


「面倒な能力だな……」


 


 ユウが苦笑する。


 


 その瞬間。


 


 虚獣が再び動いた。


 


「ギァァァァァァァァァァッ!!」


 


 巨大な黒腕が振り下ろされる。


 


 ユウは咄嗟に飛び退く。


 


 だが避けきれない。


 


 脇腹が裂けた。


 


「がぁっ……!」


 


 血が舞う。


 


 痛みで視界が揺れる。


 


 強くない。


 


 今のユウは、

 身体能力も魔力も普通の人間と大差ない。


 


 能力だけが異常なのだ。


 


 そして、その能力も不安定。


 


 レイが前へ出る。


 


《ラプラス演算》


 


 蒼い魔法陣が展開される。


 


 未来予測。


 最適行動。


 


 レイは虚獣の猛攻を紙一重で避けながら、斬撃を叩き込んでいく。


 


 だが。


 


「再生が速い……!」


 


 切断された黒腕が瞬時に戻る。


 


 押し切れない。


 


 その時。


 


 ユウの視界に、“赤い光”が映った。


 


 虚獣の胸部。


 


 黒霧の奥で、核のようなものが脈動している。


 


「レイ!! あそこ!」


 


 レイが目を見開く。


 


「核か!」


 


 だが近づけない。


 


 虚獣の攻撃が激しすぎる。


 


 そこで。


 


 ユウはふらつきながら、一歩前へ出た。


 


「おい、何する気だ!」


 


「……観測を、ズラす」


 


「は?」


 


 ユウは、自分でも確信がないまま虚獣を睨む。


 


 まだ理解しきれていない。


 


 でも。


 


 この能力は、“結果が決まる前”に干渉する力だ。


 


 なら。


 


 攻撃が当たる瞬間。


 


 ほんの少しだけ、“当たらない可能性”を残せばいい。


 


「ぅ……ぐっ……!」


 


 頭痛。


 


 視界が歪む。


 


 次の瞬間。


 


 振り下ろされた黒腕が、一瞬だけブレた。


 


 ズレたのだ。


 


 本来なら直撃していた軌道が。


 


「今だ!!」


 


 ユウが叫ぶ。


 


 レイが飛ぶ。


 


 蒼い閃光。


 


「《蒼刃解放》――!!」


 


 光剣が、虚獣の核を貫いた。


 


 絶叫。


 


 黒い巨体が崩れ始める。


 


 騎士たちが歓声を上げた。


 


 だが。


 


 ユウはその場に膝をついた。


 


「はぁ……ッ……!」


 


 限界だった。


 


 能力を使うたび、脳が焼ける。


 


 まるで。


 


 “世界の矛盾”に、人間の身体が耐えられていないように。


 


 レイがそんなユウを見下ろし、静かに言った。


 


「やっぱり危険だな、その力」


 


「……だろうな」


 


 ユウが苦笑した、その時だった。


 


 空に浮かぶ黒月が、不気味に脈動する。


 


 そして。


 


 ユウの脳裏に、知らない声が響いた。


 


 ――観測者を壊せ。


 


「っ!?」


 


 瞬間。


 


 黒月の奥で、“巨大な眼”が開いた気がした。

第三話を読んでいただきありがとうございました!


今回は、


* 《シュレディンガーの猫》の能力詳細

* “観測”によって結果が固定される危険性

* ユウとレイの共闘


を中心に描いた回でした。


また次回からは、

王国側や《矛盾魔法》を巡る組織も動き始め、

世界観がさらに広がっていきます!


感想・ブックマーク・評価などいただけると、とても励みになります!


次回、

『王国魔導院』


よろしくお願いします!

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