第86話 結依、覚悟を決める。
次の日からが大変だった。私の卒業についてたくさんの問い合わせが来たという。
「結依ちゃん人気あるね〜。」
「そうなんですかね…なんか事務所の人に申し訳なくて…。」
「それが仕事だからしょうがないね。そういえば例の件、秘密下に進めてるからね。」
「ありがとうございます。じゃあ、私大学があるので。」
「うん、頑張って。」
「あ!結依!なんか久しぶりだね。」
「ごめんね莉緒ちゃん、代返頼んだり課題送ってもらったりしちゃって。」
「いいのよ。親友のためなら。」
「ありがとう。お昼食べた?お礼に学食奢るけど。」
「ほんと!?ラッキー!ちょうどお昼食べようかと思ってたとこなの!」
「あ、なら良かった。学食行こっか。」
学食で2人ともから揚げ定食を頼み、席に座る。
「それにしても大変だねぇ。卒業するんでしょ?」
「もう知ってるの?」
「お父さんの買ってるスポーツ新聞に大きく載ってたよ。」
「そうなんだ…」
「でもこれからは一緒に居られるよね?」
「そうだね。授業もちゃんと出なくちゃね。」
「結依がいなくて寂しかったんだからね!」
「ごめんね…」
「いいよ!」
そう言って莉緒が笑う。その笑顔が可愛かった。
あっという間に授業が終わる。私は3限まで、莉緒は4限までなので、カフェテラスで待ってることにした。
「あ、あの!wonderの平塚結依ちゃんですよね?サインいただけませんか?」
「あ、はい…はい、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
「wonder、本当に卒業しちゃうんですか?」
「はい。卒業します。」
「寂しいなぁ。」
「でも頼もしいメンバーがいますから。」
「卒業公演絶対行きます!」
「お待ちしてます」
話をしていると莉緒が来た。女の子たちに別れを告げ、莉緒と合流した。
「また絡まれてたの?」
「友好活動だよ。」
「そっか、友好活動か。この後は?」
「卒業公演の打ち合わせなんだ。今度時間作るから、遊ぼうね。」
「うん!駅まで一緒に行こ!」
「そうだね。」
莉緒と他愛ない話をしていると、あっという間に駅前に着いた。莉緒とはウマが合うのか、話は尽きない。
「じゃあまたね!」
「うん。またね。」
レコード会社のある永田町に向かう。杏も多分いるだろう。
今日はセットリスト決めの会議である。公演会場は東京ドームらしい。規模が大きくないか?
レコード会社に着くと、もうセットリスト決め会議は始まっていた。
「お疲れ様です。早くないですか?」
「ちょっと早めに始めたよ。ごめんね。」
「まぁ構いませんけど…うわ、1曲目から攻めますね。」
ホワイトボードに書かれたセットリストはほぼ杏が決めたらしい。あまりにも攻めすぎている気がする。だって1曲目からworld wonder!だよ?
「結依の踊りが1番映え漊のはworld wonder!なんだから!」
ふんす、と鼻息を鳴らす。まぁ東京ドームだし、world wonder!は確かに映えるかもしれない。
「そういえばネットの評判はどうなってるんですか?」
「悲喜交々って感じかなぁ。悪評は飛んでなかったよ。」
「平塚がいなくなって清清した、とか書かれてなかったですか?」
「書かれてなかったね。良かったよ。杏ちゃんが暴れるところだったね。」
「結依への悪評は許さない!」
「はいはい、ありがとう。」
そう言って結依の頭を撫でる。嬉しそうだ。最近はそういうコミュニケーションも人前で出来るようになった。
それがいいのかは分からないが。
「ほんとに結依ちゃんは杏ちゃんを愛してるんだね。いいことだよ。」
「ありがとうございます…?」
「とりあえずセットリスト決め続けようか。」
「あ、はい。」
セットリスト決めは2時間にも及んだ。が、納得の行くセットリストが出来た気がしている。
「この結依スペシャルバンドって何やるんですか?」
「そのまんまだよ。いつもの演奏陣の演奏をバックに結依ちゃん1人で歌うんだよ。」
「セットリストは私が決めていいんですか?」
「そうだよ。決めていいんだよ。」
「ありがとうございます。」
その他諸々を決めて、杏と一緒に事務所を出る。永田町からは家の最寄り駅までは直通の電車が走っているので、とても楽だ。
最寄り駅で降りて、スーパーで買い物をして自宅に帰る。料理を作っていると、杏が抱きついてきた。私は手を洗い、杏の頭を撫でた。肩が震えているのが分かったからだ。
「大丈夫だよ、杏。大丈夫。」
抱きしめて、泣いている杏の頭を撫でる。私に出来るのはそれくらいだから。




