第87話 結依、卒業公演
曲のフリを覚えて、その間に大学の課題をやって、また曲のフリを覚えて…。という毎日をすごして、もう卒業公演である。東京ドームはファンの方々で埋め尽くされた。チケットは完売、当日券も完売したらしい。
「うわー、すごい人!」
「明日香ちゃんも志乃ちゃんも東京ドームは初めてだもんね。入ってすぐドーム公演だからすごいよ。」
「結依コールがすごいよ?」
「嬉しいね。第1部は私のソロでしたっけ?」
「そうだよ。結依ちゃんのソロの後、wonderだね。」
「分かりました。じゃあ、行ってきます。」
「今泉さん、三矢さん、結依のソロは絶対目を離さないようにね。結依のすごさをちゃんと感じるように」
「は、はい!」
「きゃああああ!!結依ちゃーん!!」
「結依ぃぃぃぃ!」
私のファンの歓声に私は手を振って答えた。第1部はバンド演奏、第2部はwonderである。
「えーと、みんな!来てくれてありがとう!」
「結依ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「最後まで楽しんでってください!お姫様ルール!」
「お姫様ルール」「私だけを見ていて」「夢のあと先」と3曲続けて激しい曲をやったが、45000人の観客が頭を振る感覚は私の心を満たした。
「みんなすごいね、ありがとう。次は優しい曲をやります。」
ギターの人がアコースティックギターに切り替えた。
「オアシス」「全部君のせい」「誘惑」「棘」と
4曲アコースティックver.で演奏をして、最後のMCをする。
「みんな、盛り上がってますかー!!!」
「きゃああああ!」
「盛り上がってますか!」
「ソロはこれで終了だけど、次はwonderだからね。準備出来てる?」
「出来てるよ!」
「ありがとう!じゃあまた10分後に!」
そう言って私は下手にハケた。10分後にはwonderである。切り替えなくては。
着替えてすぐにwonderのライブが始まる。スタートは、world wonder!だ。セットリスト通りである。
次の曲、誘惑はアコースティックで演奏したが、もともとはライブ映えする曲なのだ。
そこからはMCもせず、6曲を駆け抜けた。MCは杏が担当した。私は踊ったなぁ、と水を飲みながら杏のMCを聞いていた。
「…じゃあ…ごめんね…今日の…」
杏が泣いていた。私は思わず杏を抱きしめた。会場からは悲鳴に似た歓声と啜り泣きが聞こえた。
「大丈夫、大丈夫だから。」
号泣する杏の頭を撫でる。私は杏を優しく引き剥がし、マイクを取った。
「私は!!!wonderが!!!大好きです!!!皆さんはどうですか!」
「好きだよ!」「結依ちゃーん!」
涙声交じりの歓声を浴びる。心地よい。
「まだwonderは終わらないからね!杏がちょっと歌えないから、私が杏パートを歌います!みんな準備はいい?次の曲行きます!暗闇の中で!」
私が杏のパートを歌うとは言ったものの、杏のパートは比較的高いのだ、歌えるだろうか。前奏を聴きながら考えていると、杏が帰ってきた。
「行くぞ、東京ドーム!!」
涙声だが力強い煽りで暗闇の中でが始まる。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、本編が終了した。私たちは会場に手を振りながら上手に去っていく。アンコールの声が鳴り響く。各自水分と塩分を補給した後、またステージへと向かう。
「アンコールありがとー!」
会場に向かって手を振る。みんな歓声で答えてくれた。
私は続ける。
「今日はみんなにお知らせがあります!こちら!」
バックスクリーンに文字が映し出された。
「平塚結依完全プロデュース!!新規アイドルグループ計画始動!!」
会場が一瞬沈黙に包まれた。そしてまた歓声が上がる。
「私がwonderを卒業する理由はこれです。私は完全に裏方に徹します。アイドルとしての平塚結依は今日で終わりだけど、たまーには思い出して欲しいな、なんて。」
杏が聞いてないよ!という顔をしている。そりゃそうだ。会場から歓声と啜り泣きが聞こえる。
「泣かないで!私の新しい旅路をみんなに祝って欲しい。だから、最後にこの曲で終わりたいなと、思います。私たちが初めてもらった楽曲で、wonderにとって、大切な曲です。暴れる準備は出来てるかー!?」
今までに無いくらいの歓声が聞こえる。私はそれに応える。
「ラスト!world wonder!」
翌朝。私の新しい1日が始まる。杏が先に起きていた。そして杏が私を抱きしめる。
「寝起きの結依、暖かいね。」
「杏の心臓の鼓動早くない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。そういえば昨日の公演、びっくりしたけど、これからは結依と一緒にいられる時間が増えるってことだよね?」
「まぁ、そうなるね。」
杏が私を抱きしめながら続ける。
「私、嬉しいんだ。結依と長くいられるのが。だから、私は結依の決断を受け入れるよ。」
「ありがとう。そんな杏が大好きだよ。」
杏の体温を感じながら、私は言った。
「いつまでも一緒だからね。」
「…!うん!」
日差しが2人を眩しい位に照らしていた。




