第45話 ライブ前日
その日もレッスンだった。今日はフォーメーションの確認。wonderの曲は難しい曲が多いので、フォーメーションの確認が重要なのである。
「ここ難しいなぁ。」
「練習するしかないね。もう一回今のところやってみようか。」
「そうだね。」
「世界は光で満ちている」の話である。world wonder!の次に振り付けが難しい初期の曲だ。
「うーん…しっくりこないな。Aメロの振り変えていいかな?」
「ちょっと簡単にしようか。難しいよね。」
「ここで浅倉さんと結依が入れ替わって…で、私と結依が激しいパートを担当して…」
こうして振り付けが完成していき、あっという間にライブ2日前である。この日と翌日はリハーサルの日だ。
「じゃあ歌唱リハーサル行きます。1曲目から通しで行きまーす。じゃあ1曲目…アネモネですね。同期流します。」
サビで違和感に気づく。全体的に音がズレてる。
「ちょっといいですか?全体的に音がズレてる気がするんですが。」
「あー、ギターのチューニングずれてました。すみません。」
「アネモネもう一回行けます?」
「行きましょう。同期流します。」
歌唱リハーサルは半分まで終わり、休憩に入った。会場を見渡しながら水を飲んでいると、杏が話しかけてきた。
「結構広いんだね、LINE CUBE SHIBUYAって。」
「1956席だからね。それも満席だって言うんだからすごいよね。」
「地下アイドルだった時が嘘みたいだよね。」
「そうだねぇ。こんな未来があるなんて思ってなかった。」
「頑張ろうね。」
「うん。」
今日の杏は表情が柔らかい。私の事も下の名前呼ぶようになったし。私と暮らすようになってから刺々しい部分が無くなった気がする。
「ソロパートリハ行きます!」
「はーい」
「最初は杏ちゃんからです。次に莉緒ちゃん、皐月ちゃん、結依ちゃんの順番で。」
「はい。」
浅倉さんっていい名前してるよなぁ。皐月ちゃんも可愛いけど。
杏のソロパートはIn the air、nowhereの二曲だ。私たち3人は座席で座って見ている。
「キレッキレだね。」
「よくIn the air踊れるなって思う。私もう多分踊れないもん。」
「そんなこと言って。結依ちゃんなら踊れるよ。」
「そう?ありがとう。」
杏パートが終わった。次が莉緒ちゃんパートだ。
「結依、どうだった?」
「あんな難しい曲踊れるんだからすごいよ。」
「へへ。頑張ったもんね。」
「そうだね。頑張った。」
「ありがとー!」
莉緒ちゃんはあの葡萄を取ったのは誰だ?とひとりよがりの2曲。歌唱メインだ。
「浅倉さん歌上手くなってきたよね。」
「そうだね。結構練習してたからね。ってか杏が人を褒めるの珍しいね。」
「たまには褒めますよ私だって。」
「そうだね。偉い偉い。」
「んぅ…」
莉緒ちゃんパートが終わり、皐月ちゃんパートを経て、私のパートに入った。
私の曲はお姫様ルールと花になってだ。花になってはカバー曲である。
「やっぱり結依ちゃん可愛いな。」
「結依は可愛いよ。努力家だしね。」
私のパートが終わった。杏が駆け寄ってきた。
「花になってかっこよかった!結依の声質にすごい合ってたよ。」
「ほんと?ありがとう。」
「やっぱり結依はかっこいいなぁ。」
「杏の方がかっこいいよ?In the air踊れるんだから。」
「そ、そうかな?」
「いつもの杏らしくないじゃん。自信満々の杏じゃない。」
「た、たまにはいいでしょ!」
リハーサルはつつがなく終わった。
「いよいよ明日がライブです。気を抜かないようにね。」
「はーい。」
持田さんに送られて自宅に帰る。お風呂を沸かしていると、杏が抱きついてきた。
「杏、不安なの?」
「…うん。」
「最近の杏は杏らしくないね。」
「…うるさい」
「大丈夫だよ。成功するから。絶対。ね?」
「うん…」
東名阪の時はこんなに弱気じゃなかったのに、どうしたんだろう。今日のリハがあんまり満足が行かなかったのかもしれない。
「今日満足いかなかった?」
「私のパートが上手くいかなかった。」
「良かったよ?ちゃんと踊れてたし、歌えてた。」
「…」
「今日は早くお風呂入って柔軟体操して寝よう。緊張してるだけだよ。」
「お風呂入る…」
「入ろう!」
お風呂に入って柔軟体操をしたところで、いつもの杏に戻ってきた。
「明日、何としても成功させようね。」
「そうだね。何としても。」
戦いが、始まる。




