第43話 杏が帰ってくる日
あっという間に10日は過ぎ、杏が名古屋から帰ってくる日がやってきた。
「久々だな、市川に会うの」
「10日ぶりだからね。久しぶりだよね。」
高山さんと何気ない会話をしていると、降り口から杏が顔を出した。
「お、来たぞ」
「結依!」
「ぐえっ」
タックルしてくるかの如く私に抱きついてきた杏。私はカエルが潰れたような声しか出せなかった。
「お、おかえり杏」
私も杏を抱きしめ返す。久しぶりの温もりに顔が綻んでいくのが分かった。あぁ。私は杏の温もりを求めていたんだなぁ。
「お腹空かない?高山さん何か食べたい!」
「空港の食事くらいしかないけどいいか?」
「今はそれくらいがちょうどいいかな!」
空港内のレストランに入る。意外にもメニューは豊富だった。私は海鮮丼にした。杏は冷やし中華にしたらしい。そこから杏は名古屋であったことを話し始めた。監督がゆったりとした人だったこと、動員数が最高だったこと。楽しそうに話す杏が少しだけ羨ましかった。
「私も舞台とかやってみたいなぁ」
「結依演技上手いもんね。」
「ちょっと探してみるよ。」
「うん、ありがとう。」
食事を終え、高山さんの車に乗り込む。目指すはマイスイートホームだ。
30分後、車が自宅にに着く。
「高山さんありがとう。助かった。」
「おう。マネージャーだからな。じゃ、」
部屋に入った瞬間杏に抱きしめられた。
「結依分補給〜」
久しぶりの結依分補給である。私はしばらく杏の体温を感じていた。
「はー、疲れたー。」
「荷解きしなくちゃ。ほら。」
「あとでやる…」
そう言い残して眠りに落ちてしまった。しょうがないので私が代わりに荷解きをすることにした。
「着替えは後で洗濯するとして…お財布…」
荷解きは10分程度で終わった。着替えと必要最低限のものしか持っていかなかったらしい。洗濯物を全部洗濯機に入れ、私も杏の横に寝転がった。すぅすぅ寝息を立てる杏が愛しかった。
気がついたら私も眠ってしまったらしい。杏は先に起きていた。
「おはよ。夕飯お寿司にしない?お寿司食べたいの」
「別にいいよ。スシロー?」
「うん!」
「今着替えるね。」
スシローである。比較的混んでいたが、予約していたので実質5分で呼ばれた。
「はい、お茶」
「ありがと!はい、タッチパネル。」
「ありがと。何にしようかなー」
「私サーモンにしよ!あとまぐろ!」
「私もサーモンにしよ。あとは…」
一通り注文を終え、杏が名古屋の話をし出す。
さっきも聞いたよと思いつつ、嬉しそうに話をする杏を愛しく思った。
1時間後
「食べたね…」
「お腹いっぱい。帰ろっか。」
「うん。私出すよ。」
「いいよ、ここは私が出すから。」
「でも…」
「名古屋で疲れたでしょ?これくらいさせて。」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えるね」
「ちょうどでお願いします。あ、領収書ください。えっと交際費で。」
「経費で落とすんだ…」
「持田さん優しいから。」
外に出る。風が心地良かった。
「手、繋ぐ?」
「……うん。」
一瞬躊躇った杏の手を引く。杏の温もりは小さい子どもの体温と同じくらい暖かかった。
「あ、そうだ名古屋の舞台のDVDもらったから、あとで一緒に観よう?」
「そうだね。杏の勇姿見てみたい。」
「期待しててね。私の中での最高傑作だから。」
「楽しみにしてる。」
バスに乗る。流石に手は離した。ここから30分、バスに揺られて自宅へと帰っていく。杏はご機嫌な様子で鼻歌を歌っていた。聞いたことあるなと思ったら、wonderの花束だ。
「花束好きなの?」
「好きだよ。メロディも簡単だし歌詞が好き。」
「じゃあ次のライブは花束やろうね。」
「…!うん!」
バスが揺られていく。




