第40話 オフの日②
今日は私の2箇所の傷痕の定期検診である。
「杏、メイクは過度にしなくていいよ。病院なんだから。」
「んー。」
生返事である。私は傷を見つめた。1カ所は杏のファンの方に刺され、もう1カ所は杏の母親からだ。杏の母親に刺された傷は、死んでも仕方ないくらい深かったらしい。出血が止まらず輸血も何パックも使ったらしい。もう献血はできない。密かなライフワークだったのに。
「杏ー、準備出来た?」
「出来た!」
「カジュアルでいいから…フリフリドレスは病院に合わない…」
「えー」
「着替えて」
「はーい…」
杏を着替えさせて部屋を出る。快晴だった。風が気持ちいい。
「行くよ、杏」
「うん」
病院へはバスで20分、スーパー銭湯の少し先にある。「病院入口」というバス停で降りる。
「スーパー銭湯の先だっけ?」
「そうそう。」
「じゃあそんなに歩かないか。
日傘をしまう。そういうところを徹底しているのはすごいと思う。
病院
受付を済ませ、形成外科の前で座って待っている。すぐ呼ばれた。
「うん、傷も綺麗に塞がってるし、綺麗だね。もう診察は大丈夫かな。」
「ありがとうございます。」
「これからも気をつけてね。」
「はい、気をつけます。ありがとうございました。」
「杏、診察終わったよ」
「あ、終わった?じゃあ帰ろう!」
「会計してからね。」
会計は740円だった。これも事務所が負担してくれるらしい。
「お腹空いたね。なんか食べて帰ろうか。」
病院近くのパスタ屋さんで食事を取ることにした。
「私はAランチ、紅茶で。杏は?」
「私はボロネーゼランチ、コーヒーで」
明日から杏は舞台で名古屋に10日間泊まり込みになる。行きたくないとずっとゴネている。
「せっかくのチャンスなんだから。私に会えないからとかそんな理由でしょ?」
「私には重要な理由なの!結依分補給出来ないなんて…」
「帰ってきたら私いなかったりしてね。」
「結依!」
「嘘だよ。待ってるから。頑張ってきな。」
「うん…」
パスタは美味しかった。お金を払って外を出ると、綺麗な青空が広がっていた。
「うわー綺麗!」
「明日から頑張ってって意味だよ」
「うん」
私は杏を抱きしめた。強く。
「ちょ、結依?」
「帰ってきたらいっぱい抱きしめてあげるから。」
「…うん!」
翌日。杏は高山さんと名古屋へ旅立っていた。ずっと泣いていたが、なんとか宥めて飛行機に乗せた。
1人の夜が始まる。




