第31話 レコーディング②
翌朝。今日は私はお休みの日。杏はもう出かけたらしい。台所が散乱していた。カーテンを開けて日光を取り入れ、台所を片付ける。小麦粉なんか何に使ったんだろ。
台所を片付けると同時に私の朝ごはんも適当に作る。提供された曲を流しながら。
食事を終え、私は本格的に暗譜作業を始める。音源を流し、ひたすら楽譜を見つめ、気になる点や「もっとこうしたい」という考えを楽譜に書いたりしていた。私に与えられたのは3曲。2曲は暗譜が終わった。いつでも歌えますよ。
「暇だなぁ。大学のレポートも終わったし、暗譜も2曲した。買い物も無いしなぁ。あ。」
思い立った私は私服に着替えて家を出る。途中のミスタードーナツでドーナツを買って向かうのはレッスン場である。レッスン場までは家から30分電車に揺られたところにある。
30分後。最寄駅に着いた。歩いているとたまたま持田さんを見つけた。
「持田さん?」
「おぉ、結依ちゃん。お出かけ?」
「暇なんでレッスンでも見に行こうかと」
「同じだね。俺もレッスン場に顔出そうと思って。これ、プリン。結依ちゃんの分もあるからね。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ一緒に行こうか」
「はい。」
レッスン場。ドアを開けた瞬間怒号が聞こえた。
「きゃっ」
「おっと、大丈夫かい?」
「ありがとうございます。びっくりした。」
「なんかやらかして導火線に火をつけたな」
杏たちが練習してるところに顔を出す。振付師のお姉さんが烈火の如く怒っている。そこを撮影するカメラ。
あ、初回限定はドキュメンタリーDVD付くんだ忘れてた。
「はいはいお疲れ様〜俺と結依ちゃんからの差し入れだよ〜」
「結依!」
一目散に駆けつけて来た。犬みたい。
「結依の好きなドーナツ買ってきたよ。」
「ほんと!!ありがとう!」
「みんなにもあるからね〜」
「はーい!」
ドーナツもぐもぐタイムである。結依が今日のレッスンの内容を愚痴ってくる。
「しょうがないよ。てっぺん目指さなきゃ。」
「うん…」
「ちょっとぉ!結依ちゃんなら私のレッスン着いてこれるわよ!経験値が足りないのけ・い・け・ん・ち・が」
「何おぅ!?」」
「落ち着きなよ杏…」
「うーす、おまえら…お、平塚か。ちょうど良かった。シングル1曲増えるぞ」
「げ、」
「げ、じゃない。これ音源な。あと楽譜。
「1週間で覚えろよ。」
「え、無理なんだけど」
「大丈夫。頼んだぞ」
「持田さん!」
「やるしかないね」
そう言って持田さんが稽古場から姿を消した。今度会ったら脛を蹴ってやろう。とりあえず楽譜と音源をかばんにしまい、レッスンを見ていた。
今日の鬼軍曹はいつにも増し怖かった。あの杏が泣き出す位だ。見てるだけで心臓がバクバクする。
レッスンが終わって、泣いてる杏に声を掛ける。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない…」
「もうレッスン終わりでしょ?一緒に帰ろ」
「帰る…」
レッスン場を出て帰路に着く。専ら今日のレッスンの内容についてだ。
「鬼軍曹、私の気にしてるところ付いてきた…」
「高音が出にくいこと?」
「そう。君のための唄がかなり高音連発するんだけど、歌えなくて。ひたすら高音出す練習させられてさ。辛かった。」
「そっか。マックでも行く?」
「行きたい」
「じゃあそこのマック行こっか?ね、元気出して。」
まるで小学生と母親の会話だな。その後も愚痴は続く。
「だいたいなんで私が浅倉さん大森さんのカバーしなきゃいけないの、私は私の歌唱練習がしたいの!」
「杏、声おっきいよ。バレちゃうから。」
「バレたっていい!むしろバラすか!」
最終兵器を手にし、杏にLINEを送った。落ち着いてくれるといいが。
「何?LINE…はわぁぁぁぁ!」
一気にテンションが急降下していく。送ったのは、そう私の小さい頃の写真(たぶん七五三)である。
「ン”カワイイッ」
「落ち着いた?」
「ありがとう…ありがとう…」
「ポテト冷めちゃうから早く食べよ」
累計滞在時間1時間30分。片付けをして帰路に着く。
「美味しかったねぇ。たまにはいいね。」
「そうだねぇ。あの写真宝物にするね。」
「いいよ。明日から頑張れそう?」
「うん!鬼軍曹を倒す!」
「その粋だよ杏!」
日差しが沈むのが少しずつ早くなってきた。もう冬も近い。




