第3話 復活①
「ねぇ、このまま電話してて…後ろから誰かに追われてるの…あ、やだ、走ってくる…いやあああ!!」
「はーい、カットー!いい演技だよ結依ちゃん!」
「あ、ありがとうございます。良かった…」
「大丈夫でしたか?血糊が顔にも付いてますよ。」
「あ、ほんとだ。ありがとうございます。」
という訳で、平塚結依、テレビデビューしました。引退したんじゃないのかって?そう、引退したんです。
でも高山さんが諦められなかったことと、引退した私がこうしてテレビ出演する事であんまり知名度の無い(監督談)原作をより引き立てられるという製作側の利害が一致して、今ドラマに出ています。
「ふぅ…」
「平塚良かったぞ。まだまだ出番はあるが頑張れよ。」
「高山さん嬉しそうだね。でも事務所に所属してないけど、お金はどういう風に落ちるんだろう?」
「え、平塚うちの事務所に所属してるぞ?」
「え?」
「ほら。」
高山さんがスマホの画面を見せてきた。そこには何故か私のページが出来ていた。
「えぇっ!」
「知らなかったのか?市川に伝える様に言っておいたんだが」
「聞いてない…誰が契約したの?」
「…」
「高山さん?」
「…」
目を逸らす高山さん。胸ぐらを掴んでやろうか。手が出そうになった瞬間、高山さんが自白した。
「市川に代筆頼んだんだよ…」
「勝手に…大体引退したのにまた帰ってくるって何か…」
「すまない。給料は支払うから…」
「当たり前だよ高山さん」
「結依ちゃーん!次テイク行くよー!」
「あ、はーい。高山さん後で詰めるからね。」
「…」
私が出ているのは、刑事と女子大生のバディ物である。さっきのシーンは、私が依頼者の恋人に逆恨みされて襲われるシーンである。
「疲れた…明日も大学なのに…」
「お疲れ様市川。送ってくよ。」
「ありがと。はぁ…」
「勝手にすまなかったな。」
「もういいよ。高山さんのメンツもあるでしょ。」
「すまない…」
「…い。起き…。」
「ん…?」
「着いたぞ、起きろ。」
「あぁ…寝ちゃってた。ごめん。ありがとう。」
「明日も収録だからな。疲れるかもしれないが、頼むぞ。」
「はーい。じゃあね。」
家に入ると、杏がすやすやと眠っていた。私は勝手にドラマに出ることになったのに、気楽なもんだ。
私は眠っている杏に覆い被さった。体温が暖かい。いい匂いもする。これが市川杏という18歳の女の子だ。
「おーい、起きないとキスしちゃうぞー」
「うーん…」
「5・4・3・2・1せーの」
唇を重ねた。少しディープな。すると、
「ん…ん!?」
「っ…はぁ…っ」
「んっんー!」
「お仕置きだからね」
キスを繰り返す。飽きるまで。飽きたのは20分後だった。
「何しゅるの!?」
「杏、私に許可得ず契約書書いたでしょ。お仕置きだよ。」
「それは謝るけど、あんなにキスすることなくない?!体が震えてるんだけど!!」
「キスに対する免疫付けなきゃ。」
「うぅ…結依の鬼…」
「ほら、ご飯作るよ。」
「立てない…」
「まぁいいや。今日は私が作るね。」
今日の夕飯はしょうが焼きとサラダとお味噌汁だ。しょうが焼きは昨日から下味を付けていたので、よく浸かっていた。
「今のドラマっていつやるんだっけ?」
「7月だったかな?」
「あー。平塚結依、復活!って見出しが出てるよ。」
「きっとどこかでは私が復帰したのを妬んでる人もいるんだろうなぁ。」
「そんなの私が許さない。」
「ありがとう。頼もしいね。」
頭を撫でる。杏は撫でられるのが好きらしい。
「さ、ご飯食べたし、お風呂でも入りましょうかね」
「今日私先に入っていい?汗だくで…」
「いいよ。洗い物しとくね。」
「ありがとー。」
さささっと洗い物を済ませて、テレビを見ていると、私のインタビューが流れた。そういえば、昨日インタビュー受けたな。テレビとはいえ自分が話してる姿とは恥ずかしいものである。
「はー、さっぱり…あー!結依のインタビュー映像!!撮り忘れた!!」
「撮らなくていいよ、恥ずかしい…」
「恥ずかしがらないでいいのに」
「じゃあここでwonderのDVD見ますか?」
「う…」
「でしょ?」
「…見る。」
「見るの!?」
という訳で急遽平塚結依卒コンDVDを見ることになった。復活したのに卒業コンサートを見るなんて何か新鮮だなぁ。
「うっ…うぅ…結依ぃ…」
「そういえばちゃんとは見てないもんね。ほら、結依は横にいますよ。」
「結依ぃぃぃ」
こりゃまたお風呂入るの遅くなるな。時刻はまだ19:45だ。杏はまだ泣いている。
「ひとりごとらめぇぇぇ」
「歌に泣いてるのね。まぁいいけど。」
最後の曲が終わった。メンバーがみんなハケた後、私だけステージに残された。そして、
「ありがとうございましたー!!!」
マイク無しで武道館に叫んだ。
「結依ぃぃぃぃ」
こちらもボルテージマックスだ。ひたすら頭を撫でて宥める。パジャマ洗わなきゃだな。
「うー…もう見ない…悲しくなるから…」
「また見ようよ。私はこの卒コン誇りに思うよ。」
「じゃあ見る…」
「ね。私お風呂入るね。」
「うん…」
1時間後、お風呂から出ると、杏がドラマの台本を読んでいた。
「面白い?」
「脚本が下手ね。まぁ、結依が演じるからいいんだろうけど。」
「放送をお楽しみにね。私明日も大学の後収録だから少し遅くなるよ。」
「分かった。私も明日テレビの収録だから帰り同じくらいかも。」
「あら。じゃあ録画しなくちゃね。」
「しなくていい!」
リモコンを自分の近くに隠す。可愛い。
この市川杏という生き物はプライドの塊なのだが、私の前で人懐っこい犬のようになるのである。杏も気を許せる人だと分かったらすぐに懐柔してしまう。そこがまあいい所だ。
「分かったよ。録画しないから。」
「…でも、結衣には見て欲しいかな…」
「どっちだよ!じゃあ録画しとくね。」
「うん。」
録画予約をして、お布団の支度をする。杏はまだ台本に夢中だ。
「面白い?」
「私もお芝居したくなってきたなー。」
「結構楽しいよ。」
「高山さんに直談判してみようかな」
「いいんじゃない?」
「じゃあ今度してみる!」
「そうだね。じゃあ私は明日朝早いから先寝るね。」
「うん。お休み。」
明日は1限から3限までだ。その後は収録。忙しい1日がまた始まる。




