エピソード23 あのキスの意味
校舎裏を出てから、どれくらい歩いただろうか。
体育祭の喧騒はもうほとんど消えていて、校庭から聞こえてくるのは後片付けをする部活の声くらいだった。
俺はただ、ぼんやりと歩いていた。
頭の中が、うるさい。
──さっきの。
いや、違う。
さっきのキスだ。
「……」
頬に触れた、あの感触。
思い出した瞬間、顔が熱くなる。
柔らかかった。
そして近かった。
近すぎた。
頬、だったよな。
頬だ。
でも。
あれはもう、ほとんど──
「いやいやいやいや」
思わず声が出る。
誰もいない帰り道で、俺は一人頭を抱えた。
何を考えてるんだ俺は。
相手は西園寺三奈美だぞ。
学年のマドンナ。
近寄りがたい。
綺麗で。
静かで。
完璧で。
そんな人が──
「……俺にキスした?」
口に出すと、余計に現実味が増す。
心臓がまた変な跳ね方をした。
しかも。
「好きです」
って言われた。
しかも。
ずっと前から、って。
「……」
思考が、まとまらない。
体育祭のアンカーを走ってるときより、今の方がよっぽど緊張している。
返事は今じゃなくていいって言われた。
考えてくれればいいって。
逃げないでくださいねって。
──いや逃げるとかじゃなくて。
どう返事すればいいんだよ。
「……意味わかんねぇ」
空を見上げる。
夕焼けが少しだけ残っていた。
体育祭は終わった。
でも。
俺の中では、何かが完全に変わってしまった気がする。
頬に触れる。
当然、もう感触なんて残っていない。
なのに。
思い出すと、また熱くなる。
「あのキスの意味って……」
好きだから。
そう言われた。
でも。
それだけじゃない気がする。
あの距離。
あの声。
あの目。
全部が本気だった。
だからこそ、分からない。
俺は。
どうすればいいんだ。
夕焼けの帰り道を歩きながら、同じことを何度も考えていた。
────────
その頃。
校舎裏。
「……」
西園寺三奈美は、その場から動けずにいた。
両手で顔を覆う。
耳まで真っ赤だった。
「……やってしまいました」
声が小さく震える。
数秒前までの自分を思い出す。
頬にキス。
耳元で告白。
好きです。
ずっと前から。
「……」
冷静な自分なら絶対しない行動だった。
でも。
今日は体育祭で。
悠翔がアンカーで。
本気で走っていて。
ゴールテープを切った瞬間。
胸の奥が、どうしようもなくなった。
「……かっこよかったんです」
小さく呟く。
あんな顔、初めて見た。
普段は目立たないようにしている人。
でも、本当は誰より速い人。
その姿を見た瞬間。
ずっと決めていた覚悟が、一気に現実になった。
「伝えよう」
ずっと思っていた。
いつか。
ちゃんと。
でも。
まさか本当にキスまでしてしまうなんて。
「……」
思い出した瞬間。
顔がさらに赤くなる。
「近すぎました……」
あれは頬だった。
でも。
本当に、ギリギリだった。
もし悠翔が少し動いていたら。
そう考えた瞬間。
「……っ」
また顔を覆う。
恥ずかしすぎる。
学年のマドンナ。
そう呼ばれている自分が。
校舎裏で。
こんな顔をしているなんて。
誰にも見せられない。
「でも……」
手を少し下ろす。
空を見上げる。
夕焼け。
体育祭は終わった。
でも。
自分の恋は、今始まった。
悠翔は今、何を考えているのだろう。
困っているかもしれない。
混乱しているかもしれない。
でも、それでいい。
「返事は、まだいりません」
小さく呟く。
逃げないでくれれば。
ちゃんと考えてくれれば。
それだけでいい。
「……でも」
頬に触れる。
さっきキスした場所。
「少しだけ、期待してもいいですよね」
マドンナの仮面は、もうここにはない。
ただ一人の恋する少女が、そこにいた。
そして。
静かな校舎裏で、彼女はそっと微笑んだ。
「あのキスの意味……」
その答えを、いつか聞ける日を信じながら。
うんうんうん。楽しくなってきましたね。我ながらなかなか面白いのでは?と思ってます笑笑まぁ、投稿はサボリ気味ですけど…(;´д`)トホホ…すみません。これからはもう少しずつ投稿頻度増やしていこうかなと思っております。皆さんこれからも不甲斐ない私をよろしくお願いします。




