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紅残光 〜散りゆく花は神をも斬る〜  作者: 柚子胡椒
紅残光 一刀流 異聞録 第二章 城下町と残光の歴史

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第二十五話 影の主 九尾の狐 妖しく笑む

〜九尾の妖狐〜

城下町の一角にある、茶店。

以前、桜花たちが訪れたことのあるその店は、今日も変わらず店を開いていた。

店先には客の姿があり、甘い菓子の香りが通りに漂っている。何も知らなければ、そこが妖狐たちを利用していた者の隠れ家だとは思わないだろう。

「……ここだね」

店を見上げながら、白夜が呟いた。

「はい。子狐たちの話が正しければ、この店の中に命令者がいるはずです」

桜花は落ち着いた声で答える。

こはくは店の周囲を見回し、静かに頷いた。

「子狐たちが嘘をついているようには思えませんでした。ですが、相手がどのような妖怪なのかは分かりません。油断は禁物です」

「分かってるって。あたしだって、いつまでも子供扱いされるわけにはいかないからね!」

「ふふ。頼りにしていますよ、白夜」

「当然!」

白夜は胸を張る。

その様子を見て、桜花は小さく微笑んだ。

「では、参りましょう」

三人は店の暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませ」

店員が三人を出迎える。

店内には数人の客がいた。皆、名物菓子を楽しみながら談笑している。

以前と変わらない光景。

しかし、桜花たちの目的は菓子ではない。

「店主の方はいらっしゃいますか?」

桜花が尋ねると、店員は奥へ視線を向けた。

「店主でしたら奥におりますが……何かご用でしょうか?」

「少し、お話を伺いたいことがありまして」

「分かりました。呼んでまいります」

店員が奥へと下がっていく。

しばらくすると、奥から一人の女性が姿を現した。

「あらあら。これはこれは、以前のお客さんじゃない」

柔らかな声。

整った顔立ちに、艶やかな髪。以前と変わらぬ、店主の姿だった。

「また来てくれたのね。うちの菓子を気に入ってくれたのかしら?」

「ええ。以前いただいたお菓子は、とても美味しかったです」

「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない」

店主は笑みを浮かべた。

だが、その笑顔に温かみは感じられない。

「それで、今日は何の用かしら?」

「あなたに聞きたいことがあります」

「私に?」

桜花は店主の目を真っ直ぐに見つめた。

「子狐たちに商人の荷物を盗ませていたのは、あなたですね?」

その言葉を聞いた瞬間、店主の笑みがわずかに変わった。

店内の空気が、静かに張り詰める。

「……何のことかしら?」

「とぼけないでください。子狐たちから話は聞いています」

「そう。あの子たちが話したのね」

店主は小さく息を吐いた。

そして、店内を見渡す。

「困った子たちね。あれほど余計なことを話すなと言っておいたのに」

「やはり、あなたが命令していたのですね」

「ええ、そうよ」

あっさりと認めた店主。

その様子に、こはくが眉をひそめた。

「どうして、子狐たちに盗みをさせていたのですか?」

「どうしてって……私が自分で盗みに行くのは面倒でしょう?」

店主は何でもないことのように答える。

「それに、私自身が盗みを働いて捕まったら、もっと面倒なことになるじゃない。けれど、あの子たちなら話は別。捕まったところで、困るのはあの子たちだけだもの」

「……そんな理由で」

白夜の声が低くなる。

「子狐たちを利用していたってわけ?」

「そうよ。あの子たちは言うことを聞くしかなかったのだから、都合が良かったわ」

「ふざけないで!」

白夜が一歩前に出た。

店主は白夜を見下ろすように視線を向ける。

「あら、怖い顔。そんなに怒ることかしら?」

「当たり前でしょ! あの子たちがどんな思いをしていたか、分かってるの!?」

「さあ? そんなこと、私には関係ないわ」

店主はくすりと笑った。

その瞬間、桜花は店主の周囲に漂う気配の変化を感じ取った。

「……皆さん、離れてください」

桜花が店員や客へ声をかける。

「え?」

「ここは危険です。どうか、店の外へ」

店員たちは戸惑いながらも、桜花たちの様子と店主の異変に気づいたのだろう。

客たちも席を立ち、慌てて店の外へと逃げ出していく。

店主の身体から、妖気が溢れ始めた。

「ふふ……もう少し、楽しいお話をしていたかったのだけれど」

女性の頭に、狐の耳が現れる。

そして、背後には狐色の尾が揺れていた。

美しい女性の姿はそのままに、人ならざる存在であることを隠そうともしない。

「あなた……妖狐だったのですね」

こはくが警戒を強める。

「半分正解...私は玉藻前、妖狐が進化したのよ」

店主――玉藻前は、優雅に笑った。

「せっかく正体を隠して暮らしていたのに、あの子たちのせいで台無しね」

「子狐たちの親を殺したのも、あなたですか?」

桜花の問いに、玉藻前は一瞬だけ目を細めた。

「ええ。あの親たちは、私にとって邪魔だったのよ」

「邪魔……?」

「妖狐の中にも、いくつかの派閥があるのよ。あの親たちは、私の気に入らない者たちと関わりがあった。それだけよ」

あまりにも淡々とした口調だった。

「だから殺した。そして、残された子供たちは連れてきた。あの子たちには、私のために働いてもらったわ」

「……あなたは!」

白夜が怒りを露わにする。

「そんな理由で、親を殺して子供まで攫ったっていうの!?」

「ええ。それが何か?」

玉藻前は悪びれる様子もない。

その言葉を聞き、桜花は静かに刀の柄へ手を添えた。

「……もう十分です」

「あら。何をするつもり?」

「あなたを倒します。そして、子狐たちが安心して暮らせるようにします」

「ふふっ。威勢がいいこと」

玉藻前は片手を持ち上げた。

すると、店内の空気が揺らぎ始める。

周囲に浮かび上がったのは、幾つもの灯火。

小さな炎のような光が、玉藻前の周囲を漂っていた。

「それなら、相手をしてあげるわ」

次の瞬間、灯火が一斉に三人へと飛来した。

「桜花さん!」

「分かっています!」

桜花は刀を抜き、迫り来る灯火を受け流す。

こはくは御札を取り出し、白夜は横へ飛び退いた。

灯火は床や壁に触れるたび、炎を広げる。

「ちょっと! 店の中で火を使うなんて、何考えてんのよ!」

「ふふ。ここは私の店よ。どうなろうと、私の勝手でしょう?」

「そういう問題じゃないでしょ!」

白夜は玉藻前へ向けて狐火を放つ。

しかし、その炎が届く直前、玉藻前の姿が揺らいだ。

「えっ!?」

狐火は玉藻前をすり抜け、背後の壁へと飛んでいく。

「白夜、幻術です!」

こはくが声を上げた。

「分かってる!」

白夜はすぐに周囲を見回す。

玉藻前の姿は一つではなかった。

店内のあちこちに、同じ姿をした玉藻前が立っている。

「どれが本物か、分かるかしら?」

「厄介ですね……」

こはくは御札を構え、周囲の気配を探る。

一方、桜花は刀を構えたまま、静かに玉藻前たちを見据えていた。

「幻に惑わされる必要はありません」

「あら、強気ね」

「どれが本物であろうと、あなたを斬ればよいだけです」

桜花の足元に、わずかな動きが生まれる。

次の瞬間、桜花の姿が消えた。

「紅残光 一刀流――」

玉藻前の表情が変わる。

「壱之型――」

桜花の刀が、幻影の一つを捉えた。

「紫雲の時」

鋭い一閃。

幻影が掻き消える。

しかし、そこに玉藻前の姿はなかった。

「惜しかったわね」

背後から声が響く。

桜花が振り返るより早く、灯火が迫った。

「桜花さん!」

こはくが御札を放つ。

灯火の軌道が逸れ、桜花の脇を通り過ぎていった。

「ありがとうございます、こはくさん」

「いえ。お気をつけください!」

「助かったよ、こはく!」

白夜も二人のもとへ戻る。

玉藻前は少し離れた場所で、三人を眺めていた。

「なかなかやるじゃない。でも、私を相手にするにはまだ足りないわね」

「そうでしょうか」

桜花は刀を構え直す。

「あなたの妖術は厄介ですが、決して捉えられないわけではありません」

「あら、面白いことを言うのね」

玉藻前の尾が揺れる。

その周囲に、再び灯火が浮かび上がった。

「なら、もっと楽しませてもらおうかしら」

灯火が増えていく。

幻影もまた、店内だけでなく店の外にまで広がり始めていた。

「二人とも、気をつけてください。幻術の範囲が広がっています」

「うん!」

「分かりました!」

桜花は刀を握り直す。

玉藻前の妖気は、先ほどよりも強くなっていた。

九尾の狐。

その名に相応しい力を持つ相手であることは、疑いようもない。

しかし、桜花に退く理由はなかった。

子狐たちのためにも、ここで決着をつけなければならない。

「さあ、続けましょう」

桜花の言葉に、玉藻前は笑みを深めた。

「ええ。そうしましょう」

店内を埋め尽くす灯火が、一斉に三人へと向かっていく。

こうして、九尾の妖狐との戦いは本格的に始まった。

それでは玉藻前についてと妖狐についての深堀りです。

妖怪名:玉藻前

妖術: 傾国美変化

読んで字のごとく国を傾けることのできるくらいの美女に化けれる

能力: 狐火のような灯火を操って攻撃するや幻術を使い、複数の幻影を見せる。

妖狐は妖怪の中でも特別な妖怪であり、唯一と言っていいほど群れで活動する。妖狐の中には本編で触れたように幾つもの派閥が存在する。妖狐唯一のこととして分岐進化が存在する。ひとつは玉藻前、もうひとつはまだシークレット。

白夜は妖狐内でも特別ですが、ここはまだまだ先のお話。

次回もお楽しみに

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