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紅残光 〜散りゆく花は神をも斬る〜  作者: 柚子胡椒
紅残光 一刀流 異聞録 第二章 城下町と残光の歴史

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第二十四話 妖狐へと 命令せし者 影を出づ

〜明かされる命令者〜

子狐たちと出会ってから、しばらくの時が過ぎていた。

街道から少し外れた木々の陰。

そこには、身を寄せ合うようにして座る子狐たちと、彼らを囲むように腰を下ろした緋月桜花、白峰こはく、白夜の姿があった。

先ほどまで警戒心を露わにしていた子狐たちも、こはくが差し出した食べ物を口にしたことで、少しずつ落ち着きを取り戻している。

もっとも、完全に心を許したわけではない。

桜花たちが少し動くだけでも、子狐たちの耳や尾がぴくりと反応する。

それでも、先ほどまでのように逃げ出そうとはしなくなっていた。

「少しは落ち着きましたか?」

桜花が穏やかに尋ねる。

一匹の子狐が小さく頷いた。

「……うん」

「それならよかったです。無理に話す必要はありません。あなたたちの話せる範囲で構いませんから」

その言葉に、子狐たちは互いの顔を見合わせた。

やがて、一匹が恐る恐る口を開く。

「……あのね」

「はい」

「お姉ちゃんたちは、もうぼくたちを捕まえたりしない?」

「もちろんです。あなたたちを傷つけるつもりはありません」

桜花は迷いなく答えた。

白夜も子狐たちの目線に合わせるように、少し身を屈める。

「あたしたち、別に怒ってないからさ。盗みをした理由を知りたいだけなんだよ」

「……でも、話したら……」

子狐の声が小さくなる。

その表情には、再び恐怖が浮かんでいた。

「また、怒られる……」

「誰に?」

こはくが静かに尋ねる。

子狐はすぐには答えなかった。

小さな前足をぎゅっと握りしめ、視線を地面へ落とす。

「……ぼくたちに、盗みをさせたひと」

その言葉を聞き、三人は互いに視線を交わした。

ようやく、命令者について話す気になったのだ。

「その者の名前を教えていただけますか?」

桜花が慎重に問いかける。

子狐たちはしばらく黙り込んでいたが、やがて一匹が震える声で答えた。

「……玉藻前」

その名を聞いた瞬間、白夜の耳がぴくりと動いた。

「玉藻前……?」

「知っているのですか、白夜?」

「名前くらいはね。でも、まさか今回のことに関わってるなんて思わなかったよ」

白夜の表情から、いつもの軽い調子が消えていた。

玉藻前。

その名を知る者であれば、ただの妖怪ではないことくらい察しがつく。

「それで、その玉藻前はどこにいるのでしょう?」

こはくが尋ねると、別の子狐が小さく答えた。

「……城下町」

「城下町ですか?」

「うん。そこにある、お店……」

「お店?」

子狐は小さく頷く。

「甘いものを売ってるところ。あそこにいるの」

「……もしかして、茶店のことですか?」

その言葉に、白夜の耳がぴくりと動いた。

白夜の脳裏に、以前城下町を訪れたときのことが浮かぶ。

あの日、三人は街を歩いている途中で、一軒の茶店に立ち寄っていた。

そこで出された名物菓子は、思わず頬が緩むほど美味しかった。白夜もすっかり気に入り、また食べたいと思うほどだった。

しかし、店主の女だけは別だった。

客に対して横柄な態度を取り、従業員にも厳しい言葉を向けていた。その様子を見ていた三人は、名物菓子の味とは裏腹に、店主への印象を悪くしていた。

「……あそこ?」

白夜は、少し不満そうに頬を膨らませた。

「あのお店、名物菓子は本当においしかったんだけどね……」

「ああ、あのお店ですね」

桜花も思い出したように頷く。

「確かに、名物菓子はとても美味しかったですね」

「でしょ! あれはまた食べたいって思うくらいだったよ!」

白夜は嬉しそうに尻尾を揺らした。

しかし、すぐにその動きが止まる。

「……でも、店主は嫌な奴だったけど」

「そうでしたね」

こはくが苦笑する。

「お菓子はおいしいのに、あの店主だけは本当に気に入らないんだよね」

「白夜、今はその話よりも……」

「分かってるって。ちゃんと聞いてるよ」

白夜は少しだけ姿勢を正した。

桜花は子狐たちへと向き直る。

「その茶店の店主は、どのような方でしょうか?」

子狐の一匹が答えた。

「……たまも、って呼ばれてる」

「たまも……」

こはくがその名を繰り返す。

「それが、店主の名前なのですね」

「うん。でも、あの人は本当は……玉藻前っていうんだって」

「そうですか」

桜花は静かに頷いた。

店主の名は、たまも。

そして、その正体が玉藻前。

以前、何気なく立ち寄った茶店の女店主が、今回の事件を裏で操っていた存在だったのだ。

「つまり、私たちが以前訪れた茶店に、玉藻前がいるということですね」

「うん……」

子狐は小さく頷いた。

「でも、お願い……」

その声に、桜花たちの視線が集まる。

「もう、あそこには行かないで……」

子狐の身体が震えていた。

「どうしてですか?」

こはくが優しく尋ねる。

「だって……あの人に逆らったら、何をされるか分からないから……」

その言葉には、これまでの恐怖が滲んでいた。

白夜は子狐たちのそばへ寄り、そっと声をかける。

「大丈夫。もう、あいつの言いなりにならなくていいんだよ」

「でも……」

「あたしたちが行く。だから、もう無理して盗みをしなくていい」

白夜の言葉に、子狐たちは顔を上げた。

同じ狐の妖怪だからこそ、白夜には彼らの気持ちが分かる部分もあった。

桜花も静かに頷く。

「あなたたちがこれ以上、誰かを傷つける必要はありません。後のことは私たちに任せてください」

「……本当に?」

「はい。約束します」

桜花の落ち着いた声に、子狐たちは少しだけ表情を和らげた。

こはくは彼らの様子を確かめてから、穏やかに告げる。

「私たちは、これからその茶店へ向かいます。あなたたちはここで待っていてください」

「……うん」

「何かあれば、すぐに戻ってきますから」

そう言い残し、三人は立ち上がった。

子狐たちは不安そうにしながらも、今度は引き止めなかった。

木々の間を抜け、街道へ戻る三人。

城下町へ続く道は、夕暮れの光に照らされていた。

しばらく歩いたところで、白夜が口を開く。

「まさか、あの茶店だったなんてね」

「私も驚きました。以前訪れたときには、まさかそのような人物が関わっているとは思いませんでしたから」

「名物菓子は本当においしかったんだけどなぁ……」

白夜は少し残念そうに耳を伏せた。

「白夜さん、まだ名物菓子のことを気にしているのですか?」

こはくが尋ねる。

「だって、おいしかったんだもん! あれはあれ、店主は店主でしょ!」

「ふふっ、確かにそうですね」

こはくは小さく笑った。

桜花も穏やかな表情を浮かべる。

「店主のことはともかく、名物菓子の味は確かでしたね」

「でしょ! 事件が片付いたら、また食べたいくらいだよ!」

「そのときは、店主がいなければよいのですが」

「ほんと、それ!」

白夜は勢いよく頷いた。

しかし、すぐに表情を引き締める。

「……でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないね」

「ええ。玉藻前が何を企んでいるのか、確かめる必要があります」

桜花は城下町の方角を見据えた。

以前訪れた茶店。

そこで名物菓子を売っていた女店主、たまも。

そして、その正体である玉藻前。

何気ない旅の途中で立ち寄った場所が、今や事件の中心となっていた。

「急ぎましょう。子狐たちをこれ以上、不安なままにしておくわけにはいきません」

「うん!」

「はい、桜花さん」

三人は再び歩き出した。

夕暮れの街道を進みながら、やがて遠くに城下町の姿が見えてくる。

その賑わいの中に、目的の茶店がある。

そして、そこには玉藻前が待っている。

三人はまだ知らない。

玉藻前が子狐たちに何をしたのか。

そして、なぜ子狐たちがあれほどまでに彼女を恐れているのか。

その答えは、間もなく明らかになる。

玉藻前との対峙は、すぐそこまで迫っていた。

少し世界観についてのお話です。

八千代の国は日本で言うと江戸時代〜昭和初期までがごちゃ混ぜになったという世界観です。

この話で茶店や名物菓子についての記述がありましたがそれは実際に江戸時代で使われた名称です。

分かりやすく言うと茶店が甘味処の原型

名物菓子は和菓子のそれです。

以上世界観についてでした

次回もお楽しみに

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