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紅残光 〜散りゆく花は神をも斬る〜  作者: 柚子胡椒
紅残光 一刀流 異聞録 第一章 紅い残光の噂

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第十一話 影に潜むもの狂乱の兆し

〜噂の広がる村〜

女郎蜘蛛が逃げ去ってから、数日が過ぎていた。

緋月桜花、白峰こはく、白夜の三人は、逃げた女郎蜘蛛を追い、街道を進んでいた。

廃村で救助した人々は、近隣の村へと向かっている。女郎蜘蛛に関する情報を伝えていたこともあり、村人たちは事情を理解し、彼らを保護することを受け入れてくれていた。

ひとまず、救助した人々の身を案じ続ける必要はなくなった。

しかし、女郎蜘蛛が再び人を襲う可能性は残っている。

傷を負ったあの妖怪が、今どこで何をしているのか。それはまだ分からなかった。

「桜花さん。もうすぐ、次の村に着きそうですね」

隣を歩くこはくが、前方を見ながら言った。

「そうですね。女郎蜘蛛がこの先へ向かったのであれば、何か手掛かりが見つかるかもしれません」

「ふーん。あいつ、まだどこかで元気にしてるってことか。しぶといねぇ」

白夜は不満そうに耳を動かした。

「白夜、油断は禁物ですよ。傷を負っていたとしても、何をするか分かりませんから」

「分かってるって。ちゃんと警戒してるよ」

そう答えた白夜だったが、その声には、いつもの快活さとは少し違う響きがあった。

こはくは一瞬、白夜の横顔に目を向けた。

何かを気にしているように見えたものの、今はまだ尋ねず、歩みを続ける。

やがて三人は、街道沿いの村へとたどり着いた。

村の入口では、何人かの村人が集まり、不安そうに話をしていた。

「……また出たらしいぞ」

「女郎蜘蛛か?」

「ああ。姿を見たって話だ」

その言葉を耳にした桜花たちは、顔を見合わせた。

「女郎蜘蛛の噂が、ここまで広がっているのですね」

「廃村で逃げた個体のことかもしれませんね……」

こはくの表情が引き締まる。

三人は村人たちに近づいた。

「すみません。少し、お話を伺ってもよろしいでしょうか」

桜花が丁寧に声をかけると、村人の1人が振り返った。

「ん? ああ、旅の人か。何が聞きたいんだ?」

「女郎蜘蛛が現れたというお話を耳にしました。どのような様子だったのか、教えていただけますか?」

「ああ、それなら……」

村人によれば、最近、村の周辺で人が襲われる事件が起きているという。

妖怪らしき姿を見た者はいるものの、はっきりとした目撃情報は少ない。人が突然姿を消したという話もあり、村人たちの間では女郎蜘蛛の仕業ではないかと噂されているのだそうだ。

「実際に女郎蜘蛛だと確認されたわけではないのですね?」

「そういうことだ。だが、人が襲われているのは確かだ。何とかしてほしいもんだよ」

「分かりました。教えてくださって、ありがとうございます」

桜花は礼を述べ、こはくと白夜に視線を向けた。

「どう思いますか、こはくさん」

「人が襲われているのは確かなようですが、女郎蜘蛛の仕業だと断定するには情報が足りませんね。まずは現場を確認した方がよさそうです」

「だね。噂だけで決めつけるのは危ないもんね」

白夜も頷いた。

三人は村人から現場の場所を聞き、すぐに向かうことにした。

女郎蜘蛛を追うという目的は変わらない。

しかし、目の前で人々が危険にさらされているのであれば、見過ごすわけにはいかなかった。

〜現場に残された違和感〜

村の外れにある林へ入ると、人の往来が少ないのか、地面には草が伸び、木々の間には濃い影が落ちていた。

桜花たちは周囲を警戒しながら、村人から聞いた現場へと向かった。

やがて、地面に乱れた足跡が見つかった。

土が深くえぐれ、草木が踏み倒されている。人間が争ったような跡も残されていた。

「……ここで何かが起きたのは間違いなさそうですね」

桜花は足を止め、周囲を見回した。

こはくもしゃがみ込み、地面の痕跡を確かめる。

「争った跡がありますね。でも、繭のようなものは見当たりません」

「そういえば、女郎蜘蛛って人間を糸で捕らえるんだよね?」

白夜の言葉に、こはくが頷いた。

「はい。私たちが遭遇した個体は、繭に人を閉じ込めていました」

「なら、ここに残っている跡はちょっと変じゃない?」

桜花は周囲の木々に目を向けた。

枝に糸が絡みついた様子はない。人間を捕らえるために使われたと思われる繭も見当たらなかった。

もちろん、それだけで女郎蜘蛛ではないと断定することはできない。

しかし、目撃情報も曖昧なままだ。

「もう少し調べてみましょう。噂と、実際に起きたことは分けて考える必要があります」

三人は現場をさらに調べた。

そのとき、白夜が不意に足を止めた。

「……ねえ。あそこ、何か変じゃない?」

彼女が指したのは、木の根元だった。

地面に落ちた影の辺りに、奇妙な違和感があった。

桜花は慎重に距離を保ったまま、その場所を観察する。

すると、影の奥から低い唸り声が聞こえた。

「グルルル……」

三人の視線が、一斉にそちらへ向く。

次の瞬間、木の陰から巨大な妖怪が姿を現した。

牛を思わせる異形の頭部。太い四肢。そして、人間を見下ろす巨体。

その姿は、女郎蜘蛛とは明らかに異なっていた。

「……牛鬼、でしょうか」

こはくが息を呑む。

牛鬼は三人を見据え、低く唸った。

「なるほど。人が襲われていたのは、あなたの仕業だったのですね」

桜花が静かに告げる。

牛鬼は答えない。

ただ、三人を獲物と認識したかのように、身体を低く構えた。

「女郎蜘蛛じゃなかったってことか。でも、こいつも人を襲ってる。放っておくわけにはいかないね」

白夜が身構える。

「ええ。まずは、この牛鬼を止めましょう」

桜花は桜蕾の柄に手をかけた。

女郎蜘蛛を追うために訪れた村で、別の妖怪と遭遇することになるとは。

しかし、今は目の前の脅威に対処するのが先だった。

牛鬼が地面を蹴る。

三人も同時に動いた。

戦闘が始まった。

〜影より立ち昇る毒と瘴気〜

牛鬼の巨体が、勢いよく迫ってくる。

桜花は相手の動きを見極め、桜蕾を抜いた。

「紅残光 一刀流――壱之型:紫雲の時」

一瞬の静寂。

次の瞬間、桜花の刃が牛鬼を捉えた。

斬撃を終えた桜花は、静かに刀を納める。

納刀の音が響いた頃には、牛鬼の身体に傷が刻まれていた。

牛鬼が体勢を崩す。

しかし、倒れるには至らなかった。

牛鬼は再び桜花へ向き直ると、大きく口を開いた。

その瞬間、こはくが声を上げた。

「桜花さん、気をつけてください!」

牛鬼の口から、毒と瘴気が吐き出された。

桜花は素早くその場を離れる。

続いて、牛鬼の足元に広がる影からも、同じように毒と瘴気が立ち昇った。

「口だけではないのですね……」

桜花は距離を取り、牛鬼の周囲を観察した。

牛鬼の妖術――双影瘴毒。

獲物の影と自身の影から毒や瘴気を発生させる妖術だ。

獲物の影から発生した毒や瘴気は、相手を苦しめ、動きを封じる。

さらに、牛鬼自身の影からも毒や瘴気が発生するため、倒そうと接近する者も容易には近づけない。

牛鬼自身は、自分の毒や瘴気によって害されることはない。

「厄介な妖術だね……!」

白夜が距離を保ちながら呟いた。

こはくも警戒を強める。

「毒や瘴気を吸い込まないようにしてください。無理に近づくのは危険です」

桜花は小さく頷いた。

「分かっています。ですが、ここで逃がすわけにもいきません」

牛鬼が再び突進する。

桜花はその動きを見定め、正面から迎え撃つのではなく、攻撃の軌道を見極めながら身をかわした。

牛鬼の巨体が通り過ぎる。

その隙を逃さず、桜花が踏み込んだ。

「紅残光 一刀流――参之型:朝日を羨む宵の花」

刃が閃く。

一瞬のうちに繰り出された鋭い斬撃が、牛鬼にさらなる傷を与えた。

牛鬼が低く唸り、身体を揺らす。

それでも、牛鬼は戦意を失っていなかった。

口から毒と瘴気を吐きながら、桜花を遠ざけようとする。

だが、桜花は冷静だった。

牛鬼の動き、攻撃の間合い、毒と瘴気が広がる位置。それらを見極めながら、無駄のない動きで攻撃をかわしていく。

一方、こはくと白夜も、牛鬼の動きを注視していた。

「桜花さん!右側です!」

こはくの声が響く。

桜花は即座に反応し、牛鬼の攻撃を避けた。

そのまま距離を詰め、再び刃を振るう。

牛鬼の動きが鈍くなっていく。

やがて、その巨体は大きくよろめいた。

「かなり傷を負っていますね……」

こはくが呟いた。

「ええ。ですが、最後まで油断はできません」

桜花が答えた、その直後だった。

牛鬼は突然、三人から背を向けた。

「……えっ?」

白夜が目を見開く。

牛鬼は傷ついた身体を引きずるようにしながらも、驚くほどの勢いで走り出した。

「逃がしません!」

桜花は即座に駆け出した。

こはくと白夜も、その後を追う。

通常の牛鬼であれば、このまま倒し切ることはできたはずだった。

しかし、牛鬼は逃げた。

そして、その先に何があるのか、三人はまだ知らなかった。

〜追いつけない背中〜

牛鬼の足は速かった。

重傷を負っているはずなのに、木々の間を抜け、地面を蹴り、距離を引き離していく。

桜花たちは全速力で追いかけたが、なかなか追いつけない。

「桜花さん、このまま村の方へ向かっているのでしょうか……!」

こはくが声を上げた。

「可能性はあります。急ぎましょう」

桜花は足を止めなかった。

牛鬼を倒すこと自体は難しくない。

だが、逃げた牛鬼がどこへ向かい、何をするのかは分からない。

もし人間のいる場所へ向かっているのなら、一刻も早く追いつかなければならなかった。

白夜も必死に走る。

その表情には、いつもの軽口を叩く余裕がなかった。

やがて、木々の向こうから人間の声が聞こえてきた。

「動くな! 荷物を置いていけ!」

「抵抗するなら容赦しねえぞ!」

桜花たちは、さらに速度を上げた。

木々の隙間から見えたのは、数人の人間だった。

落ち武者と盗賊が手を組み、逃げ遅れた村人を襲っていたのである。

村人は追い詰められ、逃げ道を失っていた。

そして、その場へ牛鬼が飛び込んできた。

「な、なんだ、こいつは!?」

落ち武者が振り返る。

盗賊もまた、迫り来る巨体を見て表情を凍らせた。

牛鬼は迷わなかった。

落ち武者と盗賊へと襲いかかり、二人を捕食した。

「ひっ……!」

目の前で人間が捕食される光景を見た村人は、恐怖に駆られて逃げ出した。

しかし、牛鬼はその背中を見逃さなかった。

村人が必死に走る。

だが、牛鬼はあっという間に追いついた。

そして、その村人も捕食した。

「――っ!」

ようやく現場へ駆けつけた桜花たちだったが、間に合わなかった。

救えるはずだった命が、目の前で失われた。

桜花は足を止め、牛鬼を見据えた。

こはくは言葉を失い、白夜もまた、目の前の光景に動けずにいた。

だが、牛鬼は三人の存在に気づいている。

その巨体が、ゆっくりとこちらを向いた。

そして――。

〜狂乱の兆し〜

牛鬼が再び動き出した。

先ほどまで傷つき、動きが鈍っていたはずの身体が、今度は勢いよく地面を蹴った。

桜花はすぐに刀を構えた。

「……様子が変わりましたね」

こはくが警戒しながら呟く。

牛鬼の外見に、誰の目にも明らかな変化が現れたわけではない。

しかし、その動きは先ほどまでとは違っていた。

重傷を負っていたはずなのに、身体能力が増している。

さらに、牛鬼の影から広がる毒と瘴気が、先ほどよりも広い範囲へと及んでいた。

「毒と瘴気の範囲が……!」

こはくが息を呑む。

狂乱化前の牛鬼が影を中心とした半径一メートル、上空五メートルまで毒と瘴気を発生させていたのに対し、今は地上で半径三メートルにまで広がっている。

そして、上空方向の範囲制限も失われていた。

毒と瘴気の効果も増している。

従来の頭痛、吐き気、身体の節々の痛み、目眩に加えて、吐血や幻覚まで引き起こすようになっていた。

牛鬼自身は、変わらず自分の毒や瘴気の影響を受けない。

「さっきまでとは、まるで違う……!」

白夜が声を上げる。

桜花は牛鬼から目を離さなかった。

「人間を捕食した直後から、力と妖術が変化しています。……警戒を強めましょう」

牛鬼が低く唸る。

その口から吐き出された毒と瘴気が、周囲へと広がっていく。

桜花は桜蕾を握り直した。

目の前で起きたことを、なかったことにはできない。

しかし、これ以上の被害を出させるわけにはいかなかった。

「こはくさん、白夜。ここからは、より慎重に行動しましょう」

「はい、桜花さん」

「分かった!」

二人が応じる。

牛鬼が地面を蹴った。

桜花は一歩前へ出る。

牛鬼の動きを見極め、刃を構えた。

通常の牛鬼を倒す戦いは、すでに終わっていた。

今、三人の前にいるのは、人間を捕食し、狂乱化した牛鬼。

その力も、妖術の危険性も、先ほどまでとは異なる。

桜花たちは、再び戦闘に突入した。

――そして、逃げた女郎蜘蛛の脅威も、まだ終わってはいない。

第十一話楽しんで頂けたでしょうか?

あとがきに書くネタがそろそろ無くなってきました。

妖術についての情報開示といたします。

まず妖術は妖怪も人間もひとつしか扱えません。

その代わりに妖術は進化します。効果量や範囲が変わったり追加で新たな効果が付与されたりなどです。

それと妖術と固有能力は別物として見て頂きたいんです。

妖怪の固有能力はわかりやすいんですが人間の固有能力とはなんなのかと言うと、職業と関係性があるんです。

例えば鍛冶師の固有能力は武器の錬成や耐久値の増大などです

職業によって固有能力有り無しが分かれているんです。

固有能力は進化するのかというとそれも種類によって進化するしないが分かれているんですがそこについてはまだ秘密ということで...

次回お楽しみに!

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