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第6話 十三年

テストと聞いて、少し期待していた。


自分がどこまでできるのか、一度ちゃんと知りたかったからだ。


今の勉強の仕方が効率いいのかも分かるかもしれないし、足りないところが見つかるならそれもいい。


なのに。


「九条未来さんですね」


「はい」


「今日はよろしくお願いします」


「お願いします」


母の隣に座って、机の上を見る。


紙と、積み木みたいなものと、よく分からない道具がいくつか。


問題集は?


もっと大量に問題を解くものだと思っていた。


「緊張してる?」


「してないです」


「そっか。じゃあ始めようか」


最初は簡単だった。


質問されて、答える。


また質問。


答える。


途中から図形が出てきて、これは少し面白かった。


並んでいる形から規則を探す。


次。


また次。


だんだん難しくなってくる。


少し考えないと分からない問題も出てきた。


やっと面白くなってきた。


「はい。今日はここまで」


「え?」


終わり?


「もう終わりですか?」


「うん。頑張ったね」


「まだできます」


「疲れてない?」


「少しだけ」


「じゃあ今日は十分だよ」


「でも――」


「未来」


母に呼ばれた。


仕方ない。


もっとやりたかったのに。


*


「どうだった?」


帰り道、母に聞かれた。


「短かった」


「そこ?」


「もっとやると思ってた」


「難しくなかった?」


「最後の方は面白かった」


「面白かったんだ……」


「結果いつ分かるの?」


「一週間くらいかな」


「遅い」


「普通だよ」


一週間か。


長い。


まあ、その間にできることはいくらでもある。


*


結果を聞きに行った日は、父も一緒だった。


なのに私は別室。


私の結果なのに。


意味が分からない。


持ってきた本を読んで待つ。


しばらくして呼ばれたので、父と母がいる部屋に入った。


「未来ちゃん、この前の問題は楽しかった?」


「最後の方は」


「もっとやりたかった?」


「はい」


「学校の授業はどう?」


「簡単です」


「どのくらい?」


「ほとんど知ってます」


「退屈?」


「はい」


先生は手元の紙を見ながら、いろいろ質問してきた。


家で何を読んでいるのか。


どのくらい勉強しているのか。


何が好きなのか。


「生物と化学をやってます。あと数学」


「英語も勉強してるって聞いたけど」


「英語はもう読めるので、今はそれを使って本とか読んでます」


「英語の本?」


「はい」


「どうして生物を勉強してるの?」


「老化を止めたいからです」


なぜか先生が黙った。


横から母のため息が聞こえた。


何。


本当のことなのに。


「……老化?」


「はい」


「どうして?」


「老けたくないので」


「未来……」


「だって本当じゃん」


「そうだけど……」


先生は少し笑っていた。


「じゃあ、お医者さんになりたいのかな?」


「別に」


「研究者?」


「それは興味あります」


「病気の人を治したいとか?」


「今は特にないです」


また会話が止まった。


なんなんだ。


「自分が老けたくないんです。だから身体のこと調べてます」


「ああ、なるほど」


「はい」


ようやく伝わったらしい。


*


帰り道、すぐ父に聞いた。


「で、私どのくらいだったの?」


「すごく高かったよ」


「何が?」


「いろいろ」


「いろいろじゃ分かんない」


「先生も言ってたでしょ。記憶とか、考える力とか」


「どこまでできるの?」


「それは、今日の検査だけでは分からないみたい」


「なんで?」


「未来が得意なところは、七歳の子の基準からかなり離れてるんだって」


「じゃあ、もっと難しい問題やればよくない?」


「そういうテストじゃないんだよ」


「ふーん」


思っていたより役に立たなかった。


七歳の中でどのくらい上なのかなんて、別に知りたくない。


今の私がどこまで進めるのか。


知りたいのはそっちだった。


家に帰ってから、改めて考えた。


普通に進めば十八歳で大学。


二十歳なら、まだ大学三年生。


もちろん、それくらいは知っている。


問題はそこじゃない。


私は二十歳で研究を始めたいわけじゃない。


二十歳までに終わらせたい。


「……普通に学校行ってたら無理じゃん」


今さら気づいた。


というより、今まで学校制度なんて真面目に考えていなかった。


前世では普通に学校へ行った。


大学に早く入りたいと思ったこともないし、研究室に入りたいと思ったことなんて一度もない。


飛び級の制度なんて、自分に関係がなければ調べない。


父にスマホを借りた。


まず日本。


飛び級。


早期卒業。


大学への飛び入学。


読む。


少ない。


条件も面倒。


そもそも、大学に早く入れたところで遅いかもしれない。


私が欲しいのは学歴じゃない。


研究環境だ。


だったら。


大学に入らず研究室に入る方法は?


検索する。


出てくるものを読む。


高校生向けの研究プログラム。


大学の研究室。


科学コンテスト。


研究機関。


違う。


もっと早く。


次。


英語で検索する。


アメリカ。


イギリス。


gifted education。


early college entrance。


大学ごとの入学条件。


研究プログラム。


国によって全然違う。


面白い。


「未来?」


母に呼ばれた気がしたけれど、それどころじゃない。


大学を早く卒業することしか考えていなかった。


でも別に、大学から始める必要もないのか。


研究室に出入りできればいい。


設備が使えて。


研究を教えられる人間がいて。


私がやりたいことを止められなければ。


それでいい。


「パパ」


「なに?」


「子供でも研究室入れる?」


「大学の?」


「どこでもいい」


「……普通は無理じゃない?」


「普通じゃなかったら?」


「未来、何するつもり?」


「研究」


「それは分かってるよ」


「じゃあ調べる」


父に聞いても分からないなら、自分で探した方が早い。


日本でできるなら日本。


無理なら海外。


場所にこだわりはない。


二十歳まで、あと十三年。


欲しいのは大学の卒業証書じゃない。


研究できる時間だった。


*


その日の夜。


ノートを一冊出した。


勉強のためにノートを取ることはほとんどない。


一度見たものは残るから、書き写す意味がない。


でも今日は、頭の中を整理したかった。


一番上に書く。


20歳 老化停止


じっと見る。


その前に、薬を完成させる。


当然、実験が必要。


そのためには研究環境がいる。


研究するには知識がいる。


じゃあ何の知識?


生物。


化学。


医学。


それだけ?


分からない。


そもそも、老化を止めるには何をどう変えればいい?


それもまだ分からない。


ペンが止まった。


逆算しようにも、ゴールまでの道が見えていない。


今の私には、計画を立てるための知識すら足りないらしい。


「……全然だな」


頭がいいと言われた。


英語も覚えた。


本もかなり読んだ。


それでも、二十歳までの道筋一本まともに引けない。


十三年。


前は長いと思っていた。


今は全然そんな気がしない。


ノートの端に一つだけ書いた。


最短ルートを探す。


具体的な予定は、その後でいい。


まず。


何を知らないのか。


そこから調べよう。

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