第6話:違和感と揺れる記憶
第6話:違和感と揺れる記憶
朝。
クログネ家の訓練場に、金属音が響いていた。
キンッ――!
ユキの剣が空気を切り裂く。
無駄のない一撃。 鋭く、そして重い。
次の瞬間――
ドンッ!!
目の前の大きな岩が、真っ二つに割れた。
「すご…」 「ユキさん、強すぎだろ…」
周囲から小さなざわめきが起こる。
ユキは静かに息を吐き、 自分の手を見つめた。
(……この魔力……)
(普通じゃない……)
ふと、頭の奥に引っかかるものがあった。
(……そういえば……)
(ユウトが王女と付き合ってるって話……)
ちらりと視線を向ける。
そこには――
岩すら壊せない“普通の弟”。
(……やっぱり……ただの噂よね)
だが。
違和感は消えない。
(……7歳の頃……)
(誰かに……会った……)
ぼやけた記憶。
紙のようなものを被った人物。
そして――
『我は――』
「……っ」
ユキは眉をひそめる。
(……思い出せない……)
(でも……)
(あの“シャドウ”に……似てる……?)
彼女は剣を握り直した。
一方――
カンッ。
ユウトの剣が岩に当たる。
……何も起きない。
ユウト: 「……いや、これ石硬すぎだろ」
周囲: 「……」
(……よし)
(完璧なモブ)
ユキはその様子を見ていた。
(……弱い……?)
だがすぐに首を振る。
(……違う)
(あの人が……こんなはずない)
(……考えすぎね)
彼女は視線を逸らした。
午後――学園。
ユキはユウトを見つけて声をかける。
ユキ: 「ねえユウト、クラスどう?大丈夫?」
ユウト: 「普通。問題ない」
「姉さんは気にしなくていい」
ユキ: 「ちょっと待って!」
「なんでそんな冷たいの!?」
「お姉ちゃんだよ!?」
ユウトは一瞬だけ止まる。
ユウト: 「……あ、そうだ」
「ちょっと用事思い出した」
そのまま――歩き去る。
そして、
気づけば――いない。
ユキ: 「え?」
「ちょっと!?どこ行ったの!?」
一方――
ユウト: 「危な…逃げ切った…」
(……姉さん、質問多すぎ)
(めんどくさいな……)
「……あいつらでも探すか」
放課後。
レンジ: 「なあなあ、剣の大会あるらしいぞ!」
「出ようぜ!賞金出るって!」
シン: 「お前絶対弱いだろ」
ユウトは後ろで聞いていた。
(……大会か)
(……絶対出ない)
シン: 「ユウトも出ろよ!登録しとくぞ!」
ドスッ!
ユウトの拳がシンの腹にめり込む。
ユウト: 「やめろ」
「俺は無理だ」
「勝手に登録すんな」
シン: 「ぐはっ……!!」
レンジ: 「ははは!ノリ悪っ!」
ユウト: 「じゃあな」
(……面倒事は回避)
(これ基本)
その頃――
帰り道。
ユキは一人で歩いていた。
ユキ: 「ほんと逃げ足だけは一流ね……」
「次は捕まえるんだから……」
その時。
彼女の足が止まる。
一台の馬車。
そこに刻まれた印――
“ER”
ユキは瞬時に物陰へ隠れる。
盗賊たちの会話が聞こえる。
「例のガキ、覚えてるか?」
「ユキってやつだ」
「シャドウとかいう奴に助けられたって話だろ?」
「ギルスもやられたしな……」
「この任務、“あの方”直々だぞ」
「失敗したら終わりだ」
ユキの手がわずかに震える。
(……私……?)
(狙われてる……?)
その瞬間――
ドンッ……
黒い影が、音もなく降り立つ。
盗賊: 「なっ――誰だ!?」
次の瞬間。
ザシュッ!!
一瞬で、全員が倒れた。
そこに立っていたのは――
リマ。
無機質な瞳。 感情のない声。
リマ: 「……答えろ」
ユキは息を呑む。
(……なに……今の……)
(この強さ……)
(まるで……)
(シャドウみたい……)
一歩、後ずさる。
(……ダメ)
(ここにいたら……)
彼女は踵を返す。
走る。
学園へ。
(……英雄ヒコウ……)
(ER……)
(シャドウ……)
そして――
(……ユウト……)
一瞬、迷いがよぎる。
(……違う)
(……ただの弟よ)
だが――
(……でも……もし……)
彼女の瞳が揺れる。
(……ユウト……)
(あなたは……何者なの……?)
――第6話・終わり――




