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五話 一千万の使いみち

外、雪が凄い……!


 ——異世界でも日本と同じように日は登る。

 

 母なる太陽が父なる大地に、生命の息吹(イブキ)を吹き込んでいく。

 それはまるで、神の祝福が世界に溶け込んでいるかのようだ。


 その日の出をイグニスの街の宿から見ている少年が一人。


 彼もまた、風神の従者と言うユニークスキル(神の祝福)を吹き込まれた、名をイブキと言うのだが——



「うげええええ気持ち悪うううううう!!!」



 ——二日酔いに喘いでいた!



■■■■■



 ——冒険者登録をした次の日。


「………………はあ」



 俺はギルド内のテーブルで大きなため息をついた。


 昨日は夜遅くまで俺たちの冒険者登録祝いのパーティをしていた為、全員寝不足だ。


 俺に至っては二日酔いで今も大分気分が悪い。


「どうしたんですか、イブキ? そんな幸せが逃げていくようなため息をついて」

 金髪赤眼の盗賊職、ガブがなんだか眠そうな顔で聞いてきた。


 俺は重いトーンで二人に話しかけた。



「……お金が、もう、ありません……」



「な、何で? 1000万レアも貰ったんだよ? 1日で無くなるものなの?」

 雪のような銀髪を震わせたシルフィが、困惑した表情で俺に尋ねてきた。


 無理もない。一千万レアという大金を手にしたのだ。まさか一日で無くなるとは……。


 色々と確認したのだが、大体日本と貨幣価値は同じようだ。……そう考えると本当に大金だった。


「俺も他の奴らがあんなに飲むなんて……なんか言っておけばよかった……」


 そう、俺たちの冒険者登録初日の宴会で他の冒険者達が飲みまくった。

 安酒ならまだマシかもしれないが、高級酒を次々と開けまくった料金表が鬼のように流れ込んできた。


「でもイブキも馬鹿みたいに飲んでたじゃないですか。デロンデロンになったイブキを宿まで運ぶの、結構大変なんですよ?」

「ぬうう……反撃出来ねえ」


 それに関しては申し訳ないです。


「それに加えて…………なあガブ? そのダガーはいくらしたのかい? 怒らないから言ってごらん?」


 俺はガブの腰辺りにぶら下がっているダガーを指差して笑った。


 先程、『欲しい武器がある』と言われ鍛冶屋に行った際、買わされた代物である。


 正確に言うとガブが俺の財布で勝手に支払ったのだ。その時に金額は断固として教えてもらえなかった。


「イブキ……その引きつった笑顔、ゾンビより気持ち悪いんだけど……どうにかならない?」


 うっせ。


「なあどうなんだガブさんよ?」

「お、怒らないんですよね? え、ええと、六十万レアです……」

 

 ……………はあ?!


「高い!! 高すぎる! 六十万って何だよ、もっと安いのなかったのかよ!」

「滅茶苦茶怒ってる?! イブキ、一旦落ち着こう? ね?」


 思わず声を荒げてしまったがシルフィが猫を宥めるように声をかけてくる。


 なんてこった。六十万レアなんて何十泊できると思ってんだ。


「怒らないって言ったじゃないですか! ……あと、このダガーは高級品を多く使用した最高のダガーなんです! これは私たち冒険者には欠かせませんよ!」

 ガブが金額を妥当だと思わせる為か早口でまくし立ててくる。


 俺は深呼吸をして落ち着くと、

「そう言ってもなあ……限度があるだろ? 俺たちはまだ駆け出しなんだ。自分の身の丈に合った武器を使うのがベストじゃないのか?」


 規格外のシルフィを除けば俺たちはまだまだ弱い。しかも所持金がほぼないと言っても良い。


 複雑な表情をしたガブに対し俺は——


「——売り返すか」


 そう言ってガブのダガーに手を伸ばした。

 ……のだが、

「ッッ!!」


「……そこを少しでも動いたら、貴方をこのダガーの錆にしますよ?」


 一瞬でそのダガーは鞘から抜けられ、俺の首筋に向けられていた。

 ……こいつヤバい目をしてやがる。


 すると、隣にいたシルフィも、どことなく狂気じみた笑顔で、

「……イブキに何してるの? 流石にそれは見逃せないなあ」 


「——ッッ?!」


 シルフィの手からツララが出現した。そのツララがガブの首にピタッとついていて今にも刺しそうである。


 何だよこの三角関係……。互いの首を狙う仲間がいてたまるかよ。


 そう思ってると赤い顔をしたガブが、

「と言っても今日クエストを受けて、多少のお金を稼げば売る必要なんて無いじゃないですか!」

 ……ほう。

「知りたいか? ……今の所持金を」


 俺が尋ねると、シルフィとガブは共に首筋から武器を離して頷く。

 良いんだな?



「…………210レアだ……」

「「……」」



 だから言っただろ? ……もうお金が無いって。 


「そういう訳だ。だからそのダガーを売って俺たちの装備を整えてクエストに行くって事で………あっ! おい、逃げんな!!」


 ガブが全速力で逃げ出した!



■■■■■



「——じゃあ絶対にそのダガー大事にしろよ! 俺たちのなけなしの金で買ったヤツだからな! 売ったとか捨てたとかしたらパーティから追放してやる! 分かったな?!」


「はい! ありがとうございます!」


 結局、ダガーは売り返さないという事になった。


 あの後、ガブを追い詰めると、まさかの毒魔法でダガーをコーティングしてちょっとでも当たったら即アウトという状況になった。


 流石に俺も仲間割れで死にたくはない。すぐに白旗を掲げた。 


 だが俺はあの時の勝ち誇った顔をしたガブを忘れない。

 ……いつか仕返ししてやる。


「それでクエストに行こうと思うんだけど……」

「何のクエストにするの? 魔王?」

「馬鹿言わないで下さい! ……まあシルフィの実力だったらあり得なくもないですけど、イブキが死んでしまいます!」


 おい。


 ツッコミは声に出さず、俺はあらかじめ持ってきたクエストの内容が書かれている紙を机の上に置いた。


「いや、今回はビッグミミュートの討伐だ」

「え」


 ガブが黙ってしまった。無理もないだろう。最初にこいつと出会った切っ掛けがミミュートに襲われていた所だったからだ。


 そして今回のクエストはその元締めのビッグミミュートだ。


 ミミュートというのは日本のイノシシに近いナリをしているが、炎を吐く。

 しかしモンスターではなく、ただの動物らしい。


 ちなみに、その肉は良い感じに脂が乗っていてなかなか美味かった。


「や、やめませんか? ビッグミミュートってアレの大きいヤツですよ?」

「大丈夫だ。こっちにはシルフィがいる。こいつがいれば百人力……いや千人力だ」

 隣のシルフィがエヘヘと照れている。……うん、可愛い。


「それに先立って確認しておきたい事がある。魔法ってどうやって覚えるんだ?」


 俺は魔法を使いたいから異世界に来たと言っても過言ではない。

 しかしその魔法の覚え方がよく分からないのだ。


「魔法だったらギルドブックの習得可能魔法・スキル一覧から覚えたいのをタップすれば覚えられるよ。その時にポイントを消費するんだけど……」


 そのページを開くと確かに表示されている。



《フリーズ》三ポイント 《ウィンド》三ポイント

《アイス・スピア》五ポイント……等々。


 強そうな魔法ほどポイントの量が多くなっている。


 すると、ガブが俺のギルドブックを横から覗き込む。


「覚えることが出来たら取得魔法のページに表記がされますよ」


 俺は試しに、昨日シルフィが使っていた『フリーズ』をタップした。

 そして取得魔法のページを見ると——


「——覚えてないんだけど……」

「え? ポイントが足りないとかじゃなくて?」

「いや……ポイントはなぜか滅茶苦茶あるんだけど……」

 そう、冒険者登録をした時から気になっていたのだが俺のポイントが素人目にもわかるぐらい大量にあった。

 その量は二百。


 聞いてみるとポイントはレベルが上がった時に溜まる物で、素質がある人は最初から溜まってると言う。


 多分俺の場合は、あのサイコ女神のせいだ。


 ちなみにシルフィは最初から魔法を覚えていたのだが、本来それはあり得ないらしい。

 魔法を使いたかったらとりあえずはギルドブックを貰うと言うのがこの世界の通例。


 しかし、シルフィの場合は『氷雪の魔女』が関係してるとは思うのだが……。


 いくつかタップしてみているものの、一向に取得魔法のページに表示されない。


「…………ん? 『ウィンド』は覚えられたぞ?」


「おかしいですね……。本来ウィザードなどの魔法使い職は様々な魔法を覚えられるのですが……」


 首を傾げるガブに対してシルフィが何かに気づいたような表情をした。


「もしかして固有スキルのせいじゃない? 『ウィンド』って風属性の魔法だし」


 ……。またアイツかよ。


 シルフィの言った通り、風属性の魔法しか覚えることは出来なかった。これもユニークスキル『風神の従者』の影響だと思われる。


 その後も手当たり次第魔法を覚えようとタップしていくが、当然の如く風魔法しか覚えられなかった。


 ……いやまあ、魔法は覚えれたけど。


 色んな魔法を使って冒険したいって言う俺の願いは音もなく崩れてしまった。


「本当にアイツ余計なことしてくれやがる」


 しかし意外な収穫もあった。


「この『コールド・ウィンド』と『ウォーム・ウィンド』って何なんでしょうね。初めて聞いた魔法ですよ」


 そう俺にしか使えないっぽい魔法があったのだ。


 その人固有の魔法というのは異世界チートの一つの条件であり、強いという代名詞である。

 隣のシルフィは置いといてやっと俺にも光が差してきた。


 ……期待して良いのかな。やっぱり不安だ。


「まあここでは魔法は使えないし、クエストに行った時に試そうか」


「そうしようか。……それでイブキ、お腹減ったんだけど……」


 お腹に手をやるシルフィは困った様に笑う。


「朝ごはんなら無いぞ? こいつのせいで金が無いんだ」

「「……」」


 顔を伏せるガブを尻目に俺は、


「当たり前だ。本来ならそのダガーを売って余裕を持ってクエストに行くはずだったのに。今日のクエストミスったら今日は野宿決定だ。……分かったな、ガブ」


「は、はい………」


 盗賊娘は蚊の鳴くような声で返事をした。




お金を大事にしましょう。


良かったらブクマなどして頂けると嬉しいです。


イブキくんが喜びます。

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