四話 スパイダー・ハウス
やっと暖かくなりますね
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翌日。
「……凄え、ヘンテコな生物がどこかしらに居る……! ……やっぱ異世界なんだなあ」
俺は馬車や横手の窓から身を乗り出しながら呟いた。
——俺たち四人は馬車で王都へと向かっている。シルフィ、ガブ、トレニアさん、そして俺。
前を見ると御者台で豪快なおじさんがのんびりと手綱を引いて居る。
そう、貸切だ。一般人が馬車で移動する際、大抵は護衛も同行するのだが、腕の立つ冒険者なら不要だ。
ましてやシルフィという存在がチートな奴がいれば、護衛代という要らない出費など出さないで済む。
「ふふっ……風が気持ちいいね、イブキ!」
「ああ!」
カタカタと馬車が音を立てながら、モンスターが蔓延る異世界の平原を颯爽と走っていく。
その景色に感動して俺は身を震わせていた。
「……おいあれなんだ? でっかくて緑の豚が二足歩行で歩いてるぞ!」
「あ、オークだね。懐かしいなあ、魔王城にいたときに良く遊び相手になってくれてたんだ」
……。
「その話詳しく」
「別に詳しくも何も……。暇な時はオークにちょっかいかけてただけだよ。先代と一緒に」
いや絶対ちょっかいで済んでないだろそれ。
「……シルフィにはいつか魔王城の全貌を聞き出したいですね。未来の為にも」
と、ダガーを研ぐガブは静かにそう言った。
え……魔王城なんて行きたかないけど。
「ま、シルフィなら面白そうな話たくさん持ってそうだしそれも良いな。……それより今は……」
俺は大きく息を吐き、向こうの窓際でぐったりとなっている人に視線をやった。
「……うう、気持ち悪い……。レア様、先立つ不幸をお許しください……」
視線の先では、トレニアが死にそう(気持ち悪そう)にグッタリしていた。
「……乗り物酔いぐらいで死にませんよトレニアさん。ほら、これ飲んで下さい」
ガブはそう言って昨日買った乗り物酔いを軽減するポーションを飲ませた。
ピンポイントすぎるそのポーションだが、需要が有るのか割と高額だった。
ポーションを飲んだトレニアは顔の生気を取り戻していき、表情も少しだけ笑顔になった。
と、ガブが立ち上がりながら。
「それじゃあ、私はどきますのでトレニアさんは横になってて下さい」
「あ、ありがとう……。けど、ガブちゃんはどうするの?」
「私は荷台にでも……」
「ああガブ、それなら俺が荷台に座るよ。お前はここに座ってくれ」
「え、ありがとうございます。それにしてもどうしたんですか? イブキの癖に気が利きますよ」
……何故かディスられたがいつもの事だ。
「別に、外の風が浴びたくなったんだよ」
そう言いながら俺は外へと出た——
——俺は、ぼーっとしたい時は風を浴びる。日本にいた時もそうしてた。
その時はどうでもいい事ばかり考えてる……いや、考えてないな、それ。
風が吹き、雲は流れ、そして俺はぼーっとする。
そこで、ふと思う。
あの雲デカいなあ……とか、この草原広いなあ……とか。
「んー、いい天気だね、イブキ」
隣の女の子可愛いなあ……とか。
……ん?
「おわっ……! なんだシルフィか、ビックリした」
隣にはいつの間にか俺の天使がいた。
雪のような透き通る銀髪を靡かせて、彼女は笑顔を見せる。
「あ、ビックリさせちゃった? ごめんね」
シルフィはからかうように笑い、首を傾げた。
そして、再び景色を眺めながら。
「それにしても、みんなで旅行って楽しいね。昔は魔王城に篭ってたから外の世界がとても新鮮だなあ」
そう言って空を見上げ、昔を思い出していた。
昔か……。俺は家族とかと旅行とかいったなあ。
……シルフィの家族は……どんな人だろう。
——孤児院に雪だるまの作成を依頼された時の事。
家族の話題になった時、シルフィが少しだけ悲しそうな顔をしたのだ。それも一瞬だけ。
……シルフィとずっと一緒に居ると言ったのだ。聞かなくてはいけないと思う。
「……なあ、シルフィ。……聞きたい事があってだな……、うん」
……今更躊躇ってどうするフカミイブキ。なんでも言える仲じゃないか。
俺は恐る恐るその言葉を口にした。
「シルフィの昔の事……。魔王軍に入る前の事とか聞くのって野暮かな……」
一瞬、止まった。世界もシルフィと俺の動きも。
「……ううん、野暮じゃないよ。だけど、今じゃないかな。時期が来たら話すかな。……多分」
言いたくないのかそうじゃないのか。
分からないが、『その時を待って、時間は永遠にあるから』と言う事なのだろう。
ましてや俺も皆に明かしてない事があるのだ。それも、いつか話そう。
「おっけ。シルフィとなら永遠に待ってやるから、そうしよう」
「そうそう、君となら永遠も可能だしね! こんな旅行も何回でも行けるから! 何があってもこの力で向かう所敵なしだ!」
シルフィはそう言いながら空に向けて氷魔法を放った。
その後、日が暮れるまでシルフィと笑い合った、とある日——
——と、平和な感じで今日は終わると思うじゃん?
「お、お客さーん! 前方に巨大なモンスターが!!」
……。
「帰りたい」
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御者のおじさんの叫び声を聞き、外を見てみると確かに。
「……なんだありゃ……え! 蜘蛛じゃねえかよ! ききき気持ちわるっ!! ……おじさん迂回! 早く離れてえ!」
そこには一軒家ほどの大きさの蜘蛛がのさばっていた。
別に俺は虫が苦手とかでは無いが、流石にアレはデカすぎる!
「あああ、あれは『スパイダー・ハウス』!! 家のようなデカさとその特性からそう名付けられたモンスターです!」
ガブが几帳面に説明してくれたが今はそれどころでは無い。
「説明はいいから逃げるぞ……あれ、シルフィはどこ……っておいシルフィ?! 別に良いって! 別に倒しにいかなくていいんだってえええ!」
銀髪の魔女っ子は颯爽と巨大蜘蛛に駆けて行った!
そして……。
「私とイブキの日常を壊すくらいなら、死ぬ勇気は出来てる筈! 喰らえ! 『アイス・カーニバル』——ッ!!
氷属性の最強魔法は、化け物蜘蛛を一瞬にして氷漬けにした。シルフィのかっこいいセリフと共に。
その後、シルフィはすぐにドヤ顔で帰って来た。
「いやあ、ちょっと気合が入っちゃったよ。イブキとの時間は大切だからね」
「それは嬉しいんだけど……あいつ倒したらどうなるとか知ってんの?」
「え?」
いや、え? じゃなくて。
「ガブの説明聞いてたか? 『スパイダー・ハウス』の名前はその見た目と特性って言ってたんだ。見た目は納得できる、家みたいに馬鹿でかいからな。じゃあ特性って? 家って名が付くって事は答えは一つ」
俺は凍ったスパイダー・ハウスに目をやると皆もそれに釣られる。
すると凍った体が小刻みに震え始めて……。
「その体に無数の蜘蛛を住ませてるって事だ!!」
俺の言葉と同時に大量の蜘蛛が飛び出して来た!
「お、おじさん馬車を!」
「おっしゃ任せとけ! ぶっ飛ばすぜこのヤロー!!」
「ウエップ……! ちょ、私がいるの忘れてない?」
若干一名は動かすのに反対しているがそんなのはお構いなく、馬車をぶっ飛ばした。
しかし。
「数が多いですよ! 大波のようにこちらに迫って……ああ気持ち悪っ!」
大きな波が蠢くように蜘蛛の大群が馬車に迫って来る。
日本の蜘蛛とは違い、異世界の蜘蛛はとんでもない速さで移動できるみたいだ。
「シルフィ頼む! 地面を凍らせるヤツ頼むよ!」
俺は最強の『氷雪の魔女』に頼んだのだが……。
「あわわわわわわわわわわわわわ」
「て、テンパってる! た、頼むよシルフィ! お願いします!」
「おおおおおおおおっけい! 『アイス・スピア』!」
シルフィは慌てながら魔法を放った……が、それは氷の矢を飛ばす魔法で、俺の頬を掠めた。
「あっぶねえ!! シルフィちゃんと見て狙い定めてくれえ!! そもそも魔法違うし!」
「わ、分かったよ……うわあ……。ふ、『フリーズ・アイスバーン』————!!」
しかめっ面で放たれた魔法で、無数の蜘蛛は地面もろとも氷漬けになった——
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