八話 突風にカケル
大分期間があいてますが読んでいただけると嬉しいです!
ゴールデンウィークは勉強と執筆の二刀流を頑張ります!
ファイミーが『死神のウィンク』で脅してきた。
——忘れてはいけない事実がある。
水色髪のこの人は根は優しいかもしれないが、死神に気に入られた人。
まあ人の脅し方なんて弁えてるよな。長生きだし。
「……やれば良いんでしょ? 拒否権なんて、最初から無いと決まってますよね。……マジで嫌なんですけど」
「おお! 物分かりが良くて助かるよ! えらいえらい! ドラゴンを無事倒せたらお小遣いでもあげようかなあ」
渋々答えた俺にファイミーはガラッと表情を変え、天使のように微笑む。
俺は子どもかよ。……確かに、歳の差は200歳くらい違うからファイミーから見れば俺は子ども同然か。
でもお小遣いって言うくらいだから少量では…… ?
俺のしかめっ面を感知したのか、水色髪のボクっ娘が。
「そんなに渋い顔しなさんなって。今からボクはドラゴンスレイヤーになるんだよ? そうしたら、多額の報酬が入ってくる訳でボクの懐がホクホクになるのさ。だから、期待はして良いと思うけど?」
小さな手でお金のジェスチャーをしながら不敵に笑うファイミー。
……ドラゴンスレイヤーか。
簡単に言うと、ドラゴンを倒した者に与えられる称号。
こう言うのは異世界転生を果たした俺に回って来るものだと思うんだけどなあ。
……レアに初めて会った時から殴られるわ、転生したのに洞窟スタートだわ、風魔法しか使えなくなるわ……。
「……何でこうなったんだろう」
俺の異世界生活は出鼻から挫かれている。
——だけど、この異世界で守りたい存在が出来たのだ。
ドラゴンでビビっていたら、また魔王軍幹部とかが現れた時に目も当てられない状況になるかもしれない。
だから、やるしか無いのだ。
——囮を。
「……お、その顔は覚悟を決めたようですね。この間のミミュートの時は私が囮でしたからね、今度はイブキが美味しそうな雰囲気を醸し出してください」
……。
「それとこれとじゃ、問題の大きさが違えんだよ。分かって言ってるだろ?」
この毒舌盗賊娘、ミミュートの件をまだ根に持ってるようだ。
この前は火を吐くイノシシもどき。
今はとんでもない大きさのドラゴン。
「……それでファイミーさん、要するに俺を襲う為に下に来たドラゴンをユニークスキルで倒すって訳ですよね?」
ガブにツッコミながら、俺はファイミーに尋ねた。
ファイミーは夜空に羽ばたいているドラゴンを眺めながら、
「まあそういう事。十メートル以内にスチュープドラゴンが入って来たら、即死にしてあげるよ。……だから、お願いイーブ!」
今度は『天使のウィンク』で懇願してきた。
■■■■■
(ファイミー視点)
「おいドラゴン! そっぽ向かずにこっち向けえ!!!」
——イーブは空中を飛ぶドラゴンに叫んでいた。
ボクがウィンクをして以降、彼は人が変わったようにやる気を出している。
「今の俺はファイミーさんの笑顔で気合い十分だぞ! 俺に突っ込んでこい!」
おお、嬉しいこと言ってくれるじゃないか、良き良き。
今のイーブは『サイレント』や『隠密』スキルはかかっていない。
だから、ドラゴンに気づかれる筈なのだが……。
「……全然気づかれないんだけど、何で? 俺そんなに目立たない? ……いや、暗いからか?」
そのイーブの言葉通り、月明かりが有るとはいえこの森は明るいとは言えない。
ドラゴンにとっては地上の彼に気づくのは難しいみたいだ。
「じゃあどうすれば……。そこの茂みにファイミーさんが居るから、ここを動くわけにはいかないし……」
ぬうう……とか思ってそうな顔だね。あはは、意外に腑抜けてるじゃないか。
それにしても、どうやって地上のイーブをスチュープドラゴンに見つけてもらおうか。
ボクは顎に手をやり考えてみる。……思いついた。
自分の思考能力に惚れ惚れしながらボクはイーブへと車椅子を転がした。
「あーあー。……困ってるイーブ君よ! ボクの提案をひとつ聞くのはどうだい?」
「うわっ! い、いつの間に……!」
おっと驚かせてしまったみたいだ。ボクの接近に気づかなかったって事は、彼なりにこの状況を打破しようと考えてくれていたようだ。
ま、ボクの方が先に思いついたけどね!
「ボクの家に魔光原石が有るからさ、それを使うのはどう? あれだったらドラゴンも気づくと思うよ」
「魔光原石……?」
「えっと、光を点ける魔道具があるよね。それの元となる石の名前だよ。何も加工してないから、ちょっとでも魔力を込めると凄い量の光を放出するのさ」
そう、加工品は使いやすくなってるけど、原石は扱いが難しいのだ。
……問題は放出する光量の事なんだけど……教えなくていっか! 教えたら実行してくれないだろうし!
「分かりました、それでドラゴンの目を引きますよ。魔光原石はどこにありますか?」
そんな事実を知らなそうなイーブは快く了承してくれた。嬉しいなあ。
「確か、ボクの部屋の机の棚に入っている筈。……スチュープドラゴンは思考が読めない。いつボクの書庫を狙ってくるか分からないから迅速に頼むよ!」
彼は頷くとボクの部屋に向かうため薄暗い森の中を慎重に、かつ素早く抜けていった。
「さて、ガーブのところへ戻ろうか。狙われにくいとはいえ隠密スキルの範囲内には居ておきたいしね」
その後、それほど時間をかけずにイーブは魔光原石を手に戻ってきた。
それじゃあ気持ちの準備でもしておこうか。
痛みは無いとはいえ、『サクリファイス』の影響で骨が無くなるのは少しだけ覚悟がいる。
それに、ドラゴンが突撃して来た時にタイミングを見計らうとイーブが死んでしまうかもしれない。
ボクは深く深く呼吸を繰り返す。
すると隣のガーブが。
「イブキも災難ですね、囮になるなんて。でもどうせあの人は死にませんよ。ドラゴンはファイミーさんが倒しますし、何よりシルフィを遺して逝くことなんてあり得ませんから」
「ふふ……そうかい。本当に羨ましいよ」
イーブが魔光原石を空に掲げた瞬間——
——グォアアアアァァアァァアア!!!
「ぎゃああああああああ!!!」
——とんでもない光と同時に、ドラゴンとイーブの悲鳴が聞こえてきた。
■■■■■
騙された……!
ただのライトぐらいの光だと思って魔力を込めた石が、まさか閃光弾だとは思うまい。
そのおかげで、自分で自分を目眩し中だ。
そして空中に浮かぶドラゴンはというと……。
「怖い怖い怖い! 何?! なんか木がなぎ倒される音が間近に聞こえるんだけど?! ファイミーさーん! 早く倒してえ!!」
当初の目的通り、俺の周囲に向かって体当たりをかましているようだ。あとはドラゴンがファイミーのユニークスキルによって倒されるのを待つだけなのだが。
「マジで早くして! ヤバいって、多分目が見えるようになったらドラゴンが突進してくるのが見えて『あっ……死んだ』とか思うやつだって!!」
目が見えない分、辺りの音が余計に耳に入ってくる。正直言ってめちゃくちゃ怖い。
そんな状況が五分ほど続き(運よく怪我をする事はなかった)、視力が回復してきた。
まずは状況を確認しようと目を凝らす——するとラドゴンが空中から滑空してくるのが見えた。
そしてそのまま俺に突進して来て……。
あっ……死んだ——
「ごめんね、イーブ! ……ドラゴンよ、死神の使いの我が命ず! ファイミー・レギュエートの名の下に、永き眠りにつくが良い!」
——間一髪の所で、ファイミーが颯爽と車椅子を転がしてきた。
いわゆる即死攻撃を受けたドラゴンは不恰好に地面に衝突し、そのまま俺の目の前で停止した。
「やったか?」
「ちょっとファイミーさん! そんなフラグになるような事を言わないで……! あれ、襲ってこない……。本当にやったみたいだな」
近くでマジマジとドラゴンを眺めてみると、ゴツい鱗や鋭利な牙などが見てとれた。こんな巨体が空を飛んでいたなんて……。
こんな怪物を自らの手を汚さずに始末できるなんて……。改めてこの人の恐ろしさを体感してしまった。
それでも隣のファイミーさんは少し申し訳なさそうに。
「それにしてもごめんね、イーブ。思ったより魔光源石の光が激しくてさ、ボク達も目をやられていたんだよね。……てへぺろ!」
「何やってんのこのロリババア」
……ちょ、車椅子ぶつけないで! 結構痛いから!
なんとか水色髪のロリババアを宥めることに成功した俺に、金髪の盗賊娘が近づいてきた。
「イブキ、お疲れ様です。怪我したとかないですか?」
「このボクっ娘さんのおかげで無事だよ。ひとまず、ファイミーさん家に戻ろうぜ。なんか緊張感が無くなったからか凄く眠くなってきた」
まだ時刻は夜中、ミミュートすら寝床につく夜も耽った頃。
何だか、一仕事やってのけた感がある。今日はよく眠れそうだ。
「そうしようか、まずは身体をを休めよう。色んな事は明日になってからだ」
そのファイミーの言葉に、俺たちは頷いた。
そしてその場を後にしようと踵を返し——
——グオア?
「……ん? ファイミーさん何大きなゲップしてるんですか。良い大人がやめてくださいよ」
「ち、ちち違う! イーブ、レディになんてこと言うんだい! 大体、キミがしたオナラなんじゃないの?!」
「もう、二人ともうるさいですよ! ギャアギャア言わなくても…………えっ」
「ん、どうしたガブ。そんな世界の終わりのような顔して…………は?」
つい俺も素っ頓狂な声を出してしまった。なぜなら、
「お、おい……ドラゴン生きてるじゃんか!」
ドラゴンが弱々しくも立ち上がろうとしていたのだ。
『ク○ラが立った! クラ○が立った!』に比べると、全く感動的ではなく、寧ろ絶望感が漂ってくる。
「えっ……! ボクのユニークスキルで死ななかった奴なんて一人も……いや、流石にドラゴンは一発では無理だったのか?」
「冷静に分析してないで早く逃げますよ! イブキ、ファイミーさんを押してください!」
「お、オッケー! 逃げ足だけは任せろ!」
ぶつぶつ言い始めたファイミーを連れて俺たちは逃げ出し、少しだけ開けた場所に避難した。
するとフラフラのドラゴンが、
——グォォォォォアア!!!
「ぎゃああああーっ! 火吹いてる! 何でだよ、さっきまでそんな事してなかったじゃないか!」
「きっと馬鹿だから忘れてたんでしょう! それにしてもマズイですよ! 森で火が放たれては、広がるのは時間の問題です!」
そのぐらい分かってる! このままだとファイミーさんの家もろとも炎の海の中に沈んでしまう!
——グォ………ァ…ォ……。
しかし、ドラゴンは炎を吐き終わると、そのまま地に伏せて動かなくなった。
どうやら最後の力で抵抗、いや、ただ苦しかっただけなのかもしれない。
ドラゴンが吐いた炎は周りの木々に燃え移ると、どんどん広がっていった。
……今日だけで何回『シルフィが居ればなあ』と思うんだろう。
あまり、隣のファイミーの顔色を伺いたくないのだが、そう言うわけにもいかない。
俺はそーっとファイミーの顔を覗きこむと、それはとても悲観していて……。
「よし、イグニスの街へ行こうか。ここに居たらいずれ燃えカスになってしまうよ。イーブ、案内してくれるかな?」
いや、そんな事なかった。
しかも、今なんて言った?
「え、何言ってるんですか? あの家と書庫はどうするんです?」
「これだけの火を消すことは出来ないし、何よりキミ達が危ないよ。……大丈夫、ボクは不老不死だからね。また気長に本を集め直すよ」
そういうファイミーの顔は人を安心させるような笑顔だった。
「……」
……なんでこう言う時は、俺たちの身を案じてくれるんだよ。
——意地でも言うことを聞きたくなくなってしまう。
さっきは俺のこと騙したからな。それのお返しだ。
「……実はですね、この状況を打破できる手が一つあるんですよね。やってみても良いですか?」
俺がニッと笑いながらそう言うと、ファイミーの眉が釣り上がった。
「……ほう、それはどんな……? いいよ、やってみてくれたまえ」
よし、じゃあ賭けてみようか——俺の、レアが作りし風魔法に!
「風神の従者の力、見てて下さいよ! あとガブ、俺の回収を頼む!」
「ええ?! どう言うことですか、イブキ! ……行っちゃいました……」
俺は火が燃え広がってる方へ駆けていった。
……一応、俺も最強の風魔法を覚えている。
それを使い、誕生日ケーキの火を吹き消すように、木もろとも吹き飛ばそう、と言うのが今回の算段だ。
『風神の従者』のおかげで覚える事が出来たその魔法。しかし、欠点として魔力が足りない。
本当にあの女神、肝心なところが抜けてやがる。
だが、そんな俺でもその最強の風魔法を使える方法を一つ見つけた。
それは足りない魔力を体力を使ってカバーする事。
要するに俺が最強の風魔法を使ったら気絶する。失敗したら焼け死ぬ可能性も否めない。
だけど、ファイミーさんを!
「あの人を悲しませるもんか!! やってやる!! 『ゲイル・オブ・ガーラ』!!!」
異世界チート能力野郎に近づく為に……!
俺は燃え盛る木々に向かって魔法を放った——
ここまで読んでいただき有難うございます!!
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