七話 死神のウィンク
お久しぶりです!
少し期間が空きましたが、読んでくれたら幸いです!
カーテンを開けるとドラゴンと目が合いました。
「——ドラゴンはねえだろおおお!!」
どうやら優しい気持ちを持っていたとしても、世界は俺に優しくないらしい。
目を凝らすと、ドラゴンの周りは木が薙ぎ倒されている。
—— グォアアアァアァアァアアアア!!!!!
またドラゴンが雄叫びをあげて空気を震わせた。
正直ちびりそう。
「えっ、ドラゴン?! 凄い凄い! イーブ、ちょっと車椅子に乗せてくれない? 近くで見てみたいよ!」
「そ、そんな流暢な事言ってる場合なんですか? 乗せますけど!」
ファイミーを車椅子に乗せてあげると、子供のように窓の方へ行ってしまった。
「おお凄い! 久しぶりにドラゴンを見たよ、しかも自分の家で! イーブ、キミはドラゴンを見るのは初めてかい?」
「初めて! 初めてだから早く逃げたいです!」
逃げ腰の俺に対しファイミーは危機が分かってないのか、それとも分かった上で楽しんでいるのか、ドラゴンをキラキラした目で眺めている。
無邪気なのは良いから!
外を覗くと、ドラゴンが巨大な体で周りの木を薙ぎ倒しながら動き回ってる。
「知ってるかい、イーブ。ドラゴンってのは元々頭の良い生物なんだ。だけどあれを見て。とてもそうとも思えないよね?」
そうファイミーに言われ、もう一度まじまじと見てみる。
……なるほど。確かに頭が悪そうに体をよじりながら咆哮している。
俺の知識だと、ドラゴンって言うのは博識で人間の言葉を喋り、悩める者にを与える的な存在なんだけど。
異世界で初めてのドラゴンがこんな感じだと拍子抜けは……しないな。デカすぎるし、存在感ハンパねえ。
「あの特徴的なクルクルしたツノは『スチュープドラゴン』。偉大な竜族の中でも最底辺に位置するドラゴンさ。……でも、頭が悪いだけで単純な戦闘能力は高いよ! だってドラゴンだから!」
「でしょうね! ああもう! こんな時にシルフィが居れば大体一発なのに!!」
頭が悪いって事はこの家にも無条件で突っ込んでくる可能性がある訳で……!
俺もファイミーさんも使いにくすぎるユニークスキルだから反撃のしようが無い。
「ガブとか強者を目の当たりにするとビビるし、使いもんにならないしどうしたら!」
頭を抱える俺を気にせずのほほんとしていたファイミーが急に真剣な顔になった。
「ハッ! もしアイツがボクの書庫に攻撃したらまずい事に……。イーブ! アイツをここで倒しておかないと!」
「気づくの遅いし、どうするんですか! ……攻撃役が居ないですよ。先言っておくけど俺無理です」
それに、倒すより追い返す方がまだ現実的な気がする。一応俺にも奥の手が無いことは無いし。
「ふむ、ひとまずガーブと合流しよう。あの子は他の部屋に居るはずだよ。あの叫び声で起きているだろうね」
俺は頷くと廊下に出ようと部屋のドアを——
「強い奴を目の当たりにするとビビってしまうガブちゃんは……ここに居ますよ……! イブキ……!」
開けた所で笑顔のガブと目が合った。
■■■■■
——ひとまず外に出てみたのだが。
「間近で見ると威圧感が凄え……! こんなの倒さずに追い返しましょうよ!」
ドラゴンは何か機嫌が悪いのか、周りの樹木を薙ぎ倒したり翼で浮かんだりと統一性の無い動きをしている。
「分かってないなあイーブ。こんなの追い返すより殺す方が楽だよ。ま、本当は使いたく無いボクのユニークスキルでね」
あのドラゴンが頭が悪いと言う事は、話が通じない。
それ故に倒すしか無い……!
「……やるしかねえのか。まあ俺はトドメを刺さないし、サポート役になるしか無いな」
自分の骨を生贄に十メートル以内に居る生物の命を終わらせる、それがファイミーのユニークスキル。
正直ほぼチートなのだが、近づかないといけない分かなりリスクが高い。
ここはガブのスキルが役に立つ! はず!
「じゃあガブ、お前のスキルの出番……だ……おーい? どうした?」
「ふん! 知りませんよ! どーせ役立たずの私です。私なんかあてになりません」
ガブが、めちゃくちゃ顔をツーンとさせて拗ねていた。
どうやら先程の俺の発言を聞いていたようだ。
にしてもコイツ面倒な拗ね方だな。
まあでも悪い事言っちゃったし、謝ろう。時間も無いし。
「悪かったよ、馬鹿にして。だけどさ、今は拗ねてる場合じゃないんだよ。お前の力が必要なんだ」
ガブがピクッと肩を揺らす。
そして深く俯いてこう言った。
「もうちょっと」
何がだよ。
と、次はファイミーが。
「そうだよ、ガーブ! キミは盗賊職だろう? キミの自慢のスキルを見せてくれよ!」
「もうちょっと」
「……めんどくせえ! お前、世界最高の暗殺者の娘なんだろ! あんな頭悪いドラゴンの目なんか欺いてみやがれ!」
「そーこまで言うなら、このガブリエル・エールがあのドラゴンを惑わせて見せましょう!!!!」
その赤い目を輝かせながら、腹の底から声を出した……!
ちょ、声がデカすぎるって——
——グォォ? ……グルァァアォォア!!!
またドラゴンが馬鹿デカイ咆哮を森中に轟かせた。
するとファイミーがこの場からスーッと去っていく。
「あれ、ファイミーさん? 何で無言でどっか行って……え? ……あああ! ドラゴンが突っ込んでくる!! 避けろおお!!」
ドラゴンの空中からかましてきた体当たりを、俺は体を投げ出してかわした。
受け身はギリギリ出来たが全身が痛む。
ガブは……無事か。……でも、
「『サイレント』……お前声デカすぎだコノヤロー! 『隠密』スキルで気配隠すのにバリバリ気配出してんじゃねえよ!」
「『隠密』!! あ、頭を揺らさないでください!! すみませんでしたああ!!」
「とにかく一旦離れるぞ! ファイミーさんは……あ、もうあんなとこまで逃げてる!」
先程倒すとか言ってたファイミーはそそくさと車椅子を転がしていた——
■■■■■
——ファイミーと合流した。
「やっぱり倒すのやめませんか? 確かにファイミーさんなら近づけばスキルの力で倒せますけど、近づいたらぶっ飛ばされますよ」
今度は空中を暴れ回るドラゴンを見つめながら俺はそう言い放った。
「うーん……。でも、このままだと森林がどんどん荒らされるし、ボクの家が壊されてしまうかもしれないじゃないか。何もして来ないなんて保証はどこにも無いし、殺しておくのが世界の為だとは思うけどなあ」
苦虫を噛み潰したような顔のファイミー。
その言葉通りなら、あの『スチュープドラゴン』はこの世界にとって害をなすという事だ。
一応俺も冒険者……。
世界の平和を守る為にも、やる時はやらないといけな……。
——グォアアォアォアアアォア!!!
ドラゴンが俺のやる気を削ぐように雄叫びを上げた。
無理じゃね?
……いやまあ、倒す方法は一応思いついてるんだけど。
それを言ったら俺が餌食になりそうで……。
と、ガブが澄ました顔で。
「それで、倒すと言っても誰かが囮になるしか方法はありませんよね。……その辺りはどうお考えですか?」
そんな恐ろしい質問をした。
脳筋ドラゴンの囮だなんて死んでも嫌なんですけど。
ファイミーは顎に手を当て数秒間考えると、
「イーブ……行ける?」
死神のウィンクをして俺に笑いかけた。
「囮になってくれるかな? 拒否権が有るかは自分で考えてね?」
断ったら殺される……!
死神の笑顔のファイミーとは対照に、俺は苦笑いを浮かべるしか無かった——
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