二話 ち、違うから!
前話からしれっと二章入ってます。
がんばります。
雪の中で、また一つ事実が明かされる。
「私の名前は、ガブリエル・エール。リグエル・エールを父に持つ冒険者です」
パーティメンバーが暗殺者の娘でした。
「……何で今更?」
このタイミングで明かすなんて、何か裏がありそうで……。
もしかして俺、狙われているのか……! 何か変なことでもしたっけ?
「そんな気分だからですかね。別に言わなくても良いかもしれないですけど」
そんな俺の不安を尻目に言われた。
「前もって言ってくれよ! 怖いって! 急に死んでも保険なんてかけてないからな!」
「それなら、早くイブキに冒険者保険掛けないと! これでぽっくり逝っても安心だね!」
「シルフィ、それ冗談だよね? 違う意味で安心できないぞ」
気分屋のガブにとって、このタイミングに意味は無さそうだ。
ひとまず狙われる事も無い筈。
「ま、そういう事なんでこれからも宜しくです。別に、私に何かしたら父が飛んでくるとかそう言うのではないので」
……まあ良いか。
元魔王軍幹部とずっと一緒に居ると決めたのだ。暗殺者の娘なんか怖くない。
「ねえ、ガブリエル。そのリグエルさんってよく魔王城に来てた?」
シルフィがそんな事をガブに聞いた。
ガブは少し首を捻りながら、
「えーと、確か行ってますね。何回も殺せない相手が居たみたいで、よくヤケ酒を呑んでましたよ」
「んー、それ先代だと思うよ。よく返り討ちにしてたけど、それガブリエルのお父さんだったんだね」
ガブが驚きの声を上げる。
て事は、先代『氷雪の魔女』は世界最高の暗殺者より凄いのかよ。
「えー……まさか、そこで繋がってるとは……。世界って割と狭いもんだなあ」
「そ、そうですね。シルフィがもっと強くなると仮定すると、とんでもない人とパーティ組んだみたいですね……。イブキは当然除きますが」
当たり前だから言わなくても良いよ。
「うんうん、私と先代が魔法の練習してると、結構な頻度で暗殺しに来たんだよ。律儀に殺気を殺して、気配も消して。だけど先代はそれでも隙が無くて……バレたリグエルさんが、泣きながら帰る事もしばしば……」
心なしかガブの顔が赤くなってる。
「……確かに魔王城から帰ってきた時、よく目頭が赤くなってました」
そんな恥ずかしそうなガブはそっちのけで、
「普通は暗殺しに来た人を帰らすのはあり得ないけど、リグエルさんは何回も挑んで来てたなあ。あとね、これは私と先代で魔王に悪戯しようと作戦を練ってた時なんだけど、そこにリグエルさんが……」
「もうやめましょう! 父のそんなの聞いてられません!」
「なあ、本当に凄い暗殺者なのか?」
「そうですよ! 本当に凄いんですから!」
叫ぶように否定するガブは初めて見る顔だ。
具体的に言うと少しだけ焦っていて、それでも平然を装う。
少しだけスッキリした俺は、
「……よし、結構長居したし、部屋に戻って本でも読むか。シルフィ、ごちそうさま! ガブ、秘密を打ち明けてくれてサンキューな!」
「あ、ちょっとイブキ! 父の凄いエピソードとか聴きたいですか? 聴きたいですよね! 何てったって、世界最高の暗殺者ですから!」
そう言って引き止めようとするガブ。
「寒いからいーわ」
夜飯の時はうるさいだろうな。
■■■■■
実際うるさかった夜飯が終わり、俺は自分の部屋でまた本を読んでいた。
この世界はゲームやテレビなど、日本での娯楽のほとんどが無い。
本が、この世界の少ない娯楽の一つ。
と言っても漫画はほぼ無くて、活字のみの本が主流だ。
まあ、前世の日本ではよく小説は読んでいたし、この世界の創作も結構面白い。
そこで本屋を覗いてみたのだが……。
『とある暗殺者は実は世界を裏から操っていて、世に蔓延る悪を人知れず始末している』とか、『魔王が転生したら勇者でした』とか、見たことありそうな内容の物が有った。
日本では異世界ファンタジーの内容だが、この世界では現代小説の位置にあるようだ。この世界でもウケてる様子。
頬杖をつきながら、パラパラと読んでいく。
すると、背中を這うようなゾクリとした気配を感じた。
その気配の正体は……、
「おいガブ、別に殺気を放ちながら近づかなくて良いんだぞ」
「そうですね。イブキが私の殺気に耐えきれず、失神してしまうかも知れませんね」
いや、失神は流石に……。
そんな見栄を張るガブだが、何故ここに来たのか。
まあ、理由は大体分かる。何となくだろう。
「俺の部屋に来るくらい暇なのかよ。俺の国のお前くらいの歳のやつはな、SNSでバンバン誰かと……いやまあ、スマホ無いから出来ないんだよな」
「確かに暇なんですけど、何ですかスマホって。……そういえばイブキはどこの出身何ですか? 聞いておきたいです」
分からないだろうけど、一応言ってみるか。
この発言で異世界から来た事は分からないだろうし。
「日本。東にある、小さな島国だ」
「ほうほう。大陸の海の向こうの国って事ですね……まあ、聞いたことありませんが」
やっぱそうか。
でもニホンという国がこの世界にあったらあったでややこしい。
するとガブが俺の手にある本を見て、
「あれ、イブキって本を読むんですね、意外……では無いですね。陰キャっぽいし」
そんな事を……
「陰キャ言うんじゃねえ! 本はな俺の最大の娯楽なんだ! お前も活字読め、そしたら本の素晴らしさが分かる筈だ!」
殆ど反射で大きな声を出してしまった。
「きゅ、急に大きな声を出さないでくださいよ……。でも、そんなに本が好きなら私、良い所知ってますよ?」
ガブは澄ました顔で提案してくれた。
理解が有るのは良い事だぞ。気持ち悪がらず、提案をするのは中々出来ない。
……何で俺は見定めてるんだろう。
「じゃあ教えてくれ、今度行ってみるよ。もしくは一緒に行くか? 俺は全然良いけど」
俺は冗談まじりにそう言った。
コイツと二人きりでどこかに行ったことがないので、一回くらいはそういうのも良いんじゃないかと……。
「行きません。シルフィと一緒に行って、イチャイチャでもして下さい」
……。お膳立てなのか嫌味なのか分かんねー。
「いや、確かにそうもしたいけど、普通にガブとも仲を深めたいんだよ。別に浮気とかじゃなくて、普通に」
俺がそう言うと、ガブは深いため息をついて、
「……分かりました、良いですよ。それじゃあ明日、デートでもしましょうか。では明日は早起きして下さいね」
ガブは言い終わると、ゆっくりと部屋から出ていった。
また部屋には静寂が戻る。
ガブとは、嫌でも(別に嫌ではない)一緒に居るんだから、明日は良いチャンスかも。
俺は読んでいた本を机の上に置き、ベッドに入る。
今日も怒涛の日々だったなあ。
アイツ、初めて会った時に暗殺者の娘ぐらい言っておけよ。まあ、それを知ってたらパーティ組むのを全力で阻止したし、今となってはいいのかも知れない。
そして俺はカッと目を見開いて、
「デートじゃねえからな!!!!」
誰も居ない虚空へと言葉を放った。
チキンラーメンを食べる時は、お湯をかけてまだ少しだけ硬いところがある時に食べる派です。
美味しいです。




