一話 雪の季節の幕切れに
最近暖かくなって、僕としては嬉しいです。
もう寒くならないで、迎えよう、新しい季節!
雨期。日本で言う梅雨が終わりかけている。
しかし、外は雨ではなく雪が降っていた。
これはシルフィの魔法のおかげ。
雨ではクエストがしづらくなる為、雨を雪に変えてくれた。
それが終わりかけている。シルフィを象徴する雪が降りやんでしまう。
それが少しだけ寂しい。
だが、数ヶ月すると、冬が始まり雪が降るとの事。
——俺とシルフィはベランダから外を眺めていた。
二人とも白い息を吐きながら、雪が積もっている住宅街をぼーっと眺めていた。
「今日も冷えるね」
「そうだな」
たった一言だけだが、全く気まずくならない。
それだけの信頼関係は築く事ができた。
厚着しているからかこの寒さが心地いい。
やっぱり俺は冬が好きだなあ。
そう思っているとシルフィが、
「コーヒーでもどう? 私、作ってくるけど」
「ん、ああ、頂こうかな。シルフィが淹れたの美味いし」
「ありがとう。じゃ、ちょっと待っててね」
そう言って教会の中に戻っていった。
こんな感じでほのぼのした生活も良いな。
若い頃に沢山稼いで、後はゆっくりしたい。
この世界は年金という制度はなく、ご老人でも何かしら職がある人が多い。
日本より過酷なこの異世界を生き抜く上で、稼ぎは欠かせない。
……フラムを倒してたら数億レア……。
いや、しょうがない。敵とはいえ、シルフィの昔からの知り合いだ。やめておけ。
俺が頭を振っていると、後ろのドアが、キイーと開いた。
シルフィが戻って……、
「あれ、イブキだけですか?」
……この声は
「ガブか。シルフィならコーヒー淹れにいったぞ」
後ろを向くと、金髪赤眼の盗賊娘がそこに立っていた。
「……そうですか」
ガブはそう言いながら、俺の隣でベランダの柵により掛かった。
その表情は……。
「どうしたガブ。何でそんなにしおらしく外を眺めてんだ。悩みがあるなら聞くぞ」
「殴って良いですか? ……私だって黄昏れる時ぐらいありますよ」
ガブはこちらを見ずにそう言った。
そうか。そんな口が叩けるなら、特に心配しないでも良さそうだ。
まだ、もう少し雪は降る。
雪が好きな俺としては、もうちょっとだけこの季節が長引いて欲しいと思う。それはわがままだとも思う。
すると、シルフィがコーヒー三杯をお盆に乗せて帰ってきた。
「あ、やっぱりガブリエルも居た。君の分も淹れてきたよ」
「流石シルフィ。ありがたく頂きます」
シルフィは当たり前のようにガブの分も用意して来た。
俺はそのコーヒーカップを手に取り、少しずつ啜る。
美味い。
ほう、と息を吐くとそれが白く染まる。
その息の先には天使の微笑みを浮かべるシルフィと、猫舌なのか未だにふうふうとしているガブ。
……平和だなあ。
「あ、イブキのその笑顔。腑抜けていて安心するよ」
「どうも。……褒められてんのか分からんけど」
その後は静かな時間が続いた。
とっくにコーヒーを飲み終えた俺は、もう一度フェンスに寄り掛かる。
するとまた隣にガブが来た。
なんだよコイツ。
最近よく俺の隣にいる気がする。
……その気があるんなら、もうちょい口を優しくしてくれ。
そのガブは俺の気持ちなど知る良さもなく、素っ気ない感じで、
「あの、イブキ。……エール家を知ってますか?」
そんな事を聞いてきた。
……? なんかの有名な家?
「分からない。ていうか、俺に常識なんか通用しないと思ってくれ」
「そうでしたね。相当な田舎から来たんでしたよね」
ガブにも異世界から来たとは言ってない。
彼女はだらんと腕をぶら下げて続けた。
「エール家とは、この王国御用達の暗殺家系です。その血筋は、王家が邪魔な隣国の重鎮や魔王軍の幹部級の敵など、この国にとって余計で邪魔な存在を消す役割を担っています」
澄ました顔でえげつない事を言うな。
めちゃくちゃ怖いよ。
まあ、確かに異世界だからこんな事があってもおかしくは無いだろうけど……。
暗殺者って事故に見せかけるという事も出来るらしいし……。
「さらに今、そのエール家の長い歴史の中で、最高の暗殺者が居ます。……『リグエル・エール』と言う人です。彼はどんな難しい依頼もそつなくこなし、数々の有識者を殺す。暗殺者として完璧な人です」
「それがどうしたんだよ。何か怖いから話すのやめようぜ。……もしかして憧れの人とか?」
前も言ったが、盗賊の上位職は暗殺者だ。
その俺の言葉を聞き、ガブは金髪を揺らしてこう言った。
「そう……ですね。私の父ですから」
「……マジで?」
さらっと衝撃事実を言い出しやがった。
て事は、コイツは最高の暗殺者の娘という事で……。
ヤバい、殺される。
そして彼女は……、
「私の名前は、ガブリエル・エール。リグエル・エールを父に持つ冒険者です」
暗殺者の娘とは思えない、澄み切った笑顔で自己紹介をした。
——俺の異世界での人生、いつの間にか終わってそうです。
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