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『その日、僕は行方不明になった』8
「……クソッ!」
信一郎は霧に向かって走り出し、元の世界へと戻った。そこには、倒れている美代と真白の姿があった。
「二人共、大丈夫か!?」
「うん、私は平気……」
「僕も……」
ふと後ろを見ると、霧は晴れていき、同時に電波塔も消えていた。
「信一郎、姉さんは?姉さんは!?」
「……残念ながら、救う事は出来なかった……」
「何で……!何でなんだよ、姉さん!!」
「紅葉は、多分もうこっちに戻れないって悟ったんだと思う」
「何でだよ!?」
真白は信一郎に掴みかかった。しかし信一郎はそれを振り払った。
「僕達の話を聞いて、何もかも変わってしまった村や世間に自分は馴染めないと思ったんだろう。だから、あの世界に残ったんだ」
「そんな……」
泣き崩れる真白に、美代は肩を抱いた。すると、捜索隊の人達がやって来て三人は保護された。
三人はそれぞれの家族が待ってる真白の家に向かった。三人が到着すると、そこには家族の他に学校の先生も居た。そしてそれぞれの家族は三人を抱き締めた。
「良かった、無事で……!」
どの両親も、そして先生もそう言っていた。そして三人は事のあらましを説明した。掟を破った事に関しては叱責されたが、あの電波塔がいかに危険かが伝わったのか、あの電波塔を爆破する事にした。事は早急にしなければならないという事で、翌日、真白の家の命で警察を含め、爆破の準備を行う事になった。真白は最後まで止めたがっていた。あそこに紅葉がいるという事で、電波塔を爆破したらもう会えなくなると。しかし、その意見は却下された。またあの世界に行く事が許されなかったのだ。
翌日、電波塔がカミヤシロ山の山頂に現れた。警察の協力もあってすぐに爆破の準備が整い、遂に爆破された。電波塔は粉々に吹き飛び、破片は消えていった。その様子を信一郎、美代、真白は見ていた。
「姉さん……」
「紅葉ちゃん……」
「……紅葉」
もうこれで会えない。そう思いながら、学校生活へと戻った。
しかし、その翌日、信一郎が美代と地蔵の前で待ち合わせた時、真白が走ってやって来た。
「おーい!」
「あれ?真白君、どうしてここに?」
「あれを見てくれ!」
あの電波塔がカミヤシロ山の山頂に再び現れていた。
「何で!?」
「昨日爆破したのに!?」
「どういう事だ!?」
三人はまたカミヤシロ山に登り、電波塔の側へ行き、霧の中に入っていった。向こうの世界では、紅葉が待っていた。
「やっぱり来ると思ってたよ」
「姉さん、どういう事なんだ!?」
「向こうの世界であの電波塔を破壊しようとしたみたいだけど、それじゃあ問題は解決しないわ。こちらの塔も破壊しないとね」
「じゃあ紅葉ちゃんは、その為に……!?」
「さぁ、どうだかね」
紅葉は後ろを向いた。
「私はここで待ってるから、爆弾でも何でも持ってきなさい。こっちでは、私がやっておくから」
「紅葉、お前はそれで良いのか?」
「それが、私の使命だと思ってるから」
「そうか……」
信一郎は美代と真白の腕を引っ張った。
「おい、信一郎!どうするつもりだ!?」
「この電波塔を完全に破壊する。それをお前の家に伝えるんだ」
「でも、姉さんが!」
「誰かがここに残らなくちゃいけないんだ!そうしないと、また犠牲者が出る!」
「信一郎……」
「シン君……」
「さぁ、行こう……」
信一郎と美代と真白は再び元の世界に戻り、急いで真白の実家に駆け込んだ。事情を話し、再び爆破の準備に取り掛かった。現実世界での爆破のセットは完了し、後は向こうの世界での爆破作業だけが残った。
「後は、我々がやっておきます」
自警団の一人が志願し、向こうの世界に行く事となった。
「本当に良いんですか?」
「これでこの村の気味悪い噂が消えるなら、本望です」
「……分かりました。宜しくお願いします」
警察が敬礼し、爆破作業に戻ろうとしたその時、信一郎が自警団の男性から爆弾を奪い取り、霧の中へと走っていった。
「おい!信一郎!?」
「何するの、シン君!?」
信一郎は立ち止まり、振り向かずに答えた。
「紅葉を連れ戻せなかったのは、僕の責任だ。だからこの使命は、僕が果たす!」
「シン君!それは違うよ!」
「そうだ!お前のせいじゃない!」
「それでも!僕は!」
信一郎は振り向いた。その頬には、涙が溢れていた。
「真白、美代を頼む」
信一郎は霧の中に走っていき、消えた。
「シン君!」
「信一郎!」
信一郎の後を追おうとする美代と真白を、警察と自警団が止めた。
「シン君!シン君!!」
「馬鹿野郎ぉ!!」
向こう側の世界に行った信一郎は、爆弾を抱えて異世界へとやって来た。そこでは紅葉が待っていた。
「準備は出来た?」
「あぁ。後はこれをセットして、爆破するだけだ」
「そう。じゃあ私がやっておくよ」
「やり方分からないだろう?僕がやる」
「そう?じゃあ任せるわ」
「だから、紅葉は元の世界に帰れよ」
「えっ?」
「ここに残るのは僕だけで充分だ。お前は帰れ」
「嫌よ。私はここに残る」
「……意思は変わらないんだな」
「えぇ」
「じゃあ、僕が一緒にいるよ」
「はぁ?」
「独りぼっちは、寂しいだろ?」
「……勝手にすれば?」
「あぁ、勝手にするさ」
爆弾を設置した段階で、どこか遠くから爆発音が聞こえた。
「向こうの世界で爆発させたみたいね」
「じゃあこっちもやるか。離れてろ」
信一郎は爆弾のリモコンを持って紅葉と共に電波塔から離れ、スイッチを押した。電波塔は粉々に吹き飛び、跡形もなくなった。
「これで、良かったんだよな?」
「えぇ、これで良いのよ。これで……」
信一郎は肩を落とし、その場に座り込んだ。涙を流しながら。紅葉は信一郎の肩を抱き、囁いた。
「ありがとう。あの村を救ってくれて……」
「ハハッ……これで全てが終われば良いんだけどな」
「それでも、ね?」
「……あぁ」
「これからどうするの?」
「どうすっかなぁ……」
「とりあえずウチ来る?」
「えっ?良いのか?」
「お礼よ」
「そうか。じゃあお言葉に甘えて」
信一郎は立ち上がり、紅葉と共に紅葉の住むアパートに向かって行った。
数年後、現実世界。真白は一度東京の高校、大学に進学し、村に戻ってきて村長の補佐をする事となった。そして美代を嫁に貰い、六人の子供を授かった。
あれ以来、電波塔は一度も出現してはいない。行方不明になる者も、行方不明になった者が帰ってくる事も無くなった。今頃信一郎と紅葉はどうしているだろうか。それを知る者は、誰もいない。
―――BAD END




