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『その日、僕は行方不明になった』6
「僕もそう思うな。ここじゃ、自由だ。紅葉も、今の生活から逃れたくて、この世界に来たのかもしれないな」
「そうだよね。この村の次期、当主になる事が生まれた時から決まってるなんて、重すぎるもんね……」
「あぁ。だからここに逃げ込んだのかもしれないな」
信一郎と美代の間に沈黙が流れた。信一郎と美代は黙々とチョコバナナを食べていった。やがてチョコバナナは残り一本になった。
「このチョコバナナ、紅葉ちゃんに渡そうか」
「そうだな」
そこへ、紅葉が現れた。
「どうも、おふたりさん。お邪魔だったかしら?」
「いや、そんな事は無い」
「紅葉ちゃん、本当に、もう帰る気は無いんだよね?」
「えぇ。さっきも言ったでしょ?」
「そう……」
美代は紅葉にチョコバナナを渡した。
「これ、さっきのお礼」
「何もしてないけど?」
「この世界の事を教えてくれたお礼。そして、さよならの挨拶」
「……ありがとう、美代ちゃん」
美代と紅葉は抱締め合った。後ろ姿の美代は肩を震わせていた。紅葉もまた、頬に一筋の涙を流していた。やがて二人は離れ、紅葉は懐中時計を見た。
「もうここで二時間くらい過ごしたね。外じゃあもう二十時間くらい経ってるわね」
「え?」
「言ったろ、美代。ここでは外の時間の流れと誤差が生じているんだ」
「本当にそんな事が……?」
「出てみれば分かるさ。なぁ、紅葉?」
「えぇ、そうね。じゃあ行きましょう」
信一郎と美代は紅葉に連れられて、あの電波塔の所へと向かった。すると、霧が発生した。
「さっきと一緒だ……」
「僕も前に同じ事を言った」
「じゃあね、美代ちゃん、信一郎君」
「あぁ、じゃあな」
「さよなら……さよなら、紅葉ちゃん。最後に話せて良かった」
「そう……」
紅葉は霧が濃くなる寸前、微笑みながら手を振っていた。信一郎と美代は手を振り返そうとすると、もう元の世界に戻っていた。
「……なんか、朝みたいだね」
「あぁ、僕達がさっきここに来たのは昨日の午前十時過ぎだから、今は多分、翌日の午前六時頃だろう」
「なんか訳分かんない説明だね」
「僕だって自分で何言ってるのか分からない。でも、そういう事だから仕方ない」
信一郎と美代は山を降ると、捜索隊の人達に見付かり、保護された。そして二人の家族が待ってる信一郎の家に連れて行かれた。信一郎は勇夫に殴られた。
「信一郎君!いくら親公認でも、二人して山で過ごすなんて事を認めた覚えは無いぞ!まだそんな歳でも無いだろう!」
また殴ろうとする勇夫を、美代は止めた。
「止めてお父さん!シン君は悪くないの!私が悪いの!」
「お前まで何言ってるんだ!そんな不良娘に育てた覚えは無いぞ!」
「違うの!私があの電波塔に行こうってシン君に言ったから!」
「何っ!?」
信一郎と美代を除く、家族や捜索隊、警察、村民が言葉を失った。そして勇夫は信一郎と美代に話しかけた。
「美代、お前、体は何ともないか?」
「う、うん……」
「信一郎君、君は?」
「大丈夫です。殴られた所以外は」
「それは……済まなかった。でも君も悪いんだ。村の掟に二度も背くから」
「すみません……」
「まぁ、怪我が無いなら良い。二人共、よく無事で戻って来てくれた」
勇夫は信一郎と美代を抱き締めた。
その後は村長、警察、学校から厳重注意された。結局、あの電波塔の事は何も分からないままだった。
数年後、信一郎は都内の高校、大学まで行き、村に戻って役場に就職した。その後、美代と結婚し、二人の子供を授かった。
時折、あの電波塔が現れ、それには触れないように過ごした。あの電波塔は一体何なのか。それは今でも分からない。あの日の出来事も、何なのか分からない。でもこの村に訪れる人達には
「あの電波塔に近付いてはならない」
そう言って警告している。
真白は、今でも紅葉が帰ってくるのを待っているらしい。
―――BAD END




