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『その日、僕は行方不明になった』3
「うん。話した方が良いと思う」
「やっぱりそう思うか」
「うん。紅葉ちゃんが生きていた事だけでも伝えないと。それに、意外と近くに居たって事も」
「そうだな。明日、学校で真白に伝えるか」
「そうした方が良いと思う」
信一郎と美代はアイスを食べ終え、そのまま家に帰った。
翌々日、月曜日。信一郎と美代が一緒に学校に行くと、真白が一人で黙々と勉強をしていた。他の生徒はまだ登校していなかった。それは都合が良かった。
「おはよう、真白」
「おはよう、真白君」
「あぁ、おはよう、信一郎、美代」
「あのさ、真白……」
「ん?何だ?」
「あの、その……」
信一郎はいざあの事を真白に話そうと尻込みした。すると、美代がすかさず言った。
「実は一昨日、紅葉ちゃんに会ったの」
「何だって!?」
その言葉に、真白は目を丸くし、詰め寄った。
「どこで!?今どこにいる!?」
「私じゃないのよ。シン君が会ったの」
「信一郎!冗談じゃ済まないぞ!本当なのか!?」
「あ、あぁ、本当だ」
「どこで!?」
「カミヤシロ山だ」
「カミヤシロ山……!?まさか、あの電波塔か!?」
「そうだ」
真白は冷や汗を垂らしながら、信一郎の肩を掴んだ。
「あの電波塔に近付いたのか?」
「あぁ。しかも、近付いただけじゃない」
「どういう事だ?」
信一郎は美代の時と同様に事のあらましを真白に説明した。
信一郎の話に真白は頭を抱えた。
「……それは本当の話か?」
「あぁ、事実だ」
「信じられない」
「まぁ、普通はそうだろうな」
「悪ふざけなら許さないぞ、信一郎」
「そんな事する訳無いだろう。僕は真実を話したまでだ」
「……そんな馬鹿な……」
真白は席に座り、またも頭を抱えた。
「……聞いた事はある。あの電波塔の話は」
「どういう事だ?」
「我が家に伝わる噂だ。あの電波塔に近付いた者は、神隠しに合うと。そして、歳を取らないと」
「まさにその通りだった。僕は昔の紅葉を写真でしか知らないが、三年前に失踪した彼女には見えなかった。どう見ても、今の僕達と同じ中学生のままの姿にしか見えなかった」
「……同じ時間を歩めない者が行く場所……だから近付いてはならない。そう言い伝えられている。そして掟が作られた」
「掟を破ってしまった事は本当に申し訳ない。でも、まだ向こうの世界に紅葉は元気に過ごしている。その事実だけでも伝えておきたかったんだ」
真白は黙り込んだ。無理も無い。家に伝わる掟が、本当の事だったとはにわかには信じられないだろう。しかし真白は立ち上がり、窓の外を見た。その先には、カミヤシロ山があり、頂上にはあの電波塔が聳え立っていた。
「今、カミヤシロ山に、あの電波塔があるな……」
「まさか真白君、行くつもりじゃ……?」
「姉さんがあそこにいるなら、僕も行くしかない」
「危険だよ!いつまたあの電波塔が現れるか分からないんだから!」
「大丈夫だ。あの電波塔は、夏の間に頻繁に現れるんだ。遅くても、三日以内には帰って来れるだろう」
「それでも、真白君まで居なくなったら……!」
「美代、僕は真白に賛成だ」
「シン君!?」
「行くなら、今しかない。行こう、真白」
「あぁ、行こう、信一郎」
信一郎と真白は荷物を纏め、教室から出ようとした。すると美代は頭を抱えた。
「あぁ!もう!何で男の子ってそうなの!?」
「美代はここで待っててくれ。僕は真白と行くから」
「いいえ!私も行くわ!」
「えっ?」
「私だって紅葉ちゃんに会いたいもの!私も行く!」
「でも危険だぞ?いつ戻って来れるか分からないんだぞ?」
「二人だけに任せておけないわ。保護者が必要でしょ」
「保護者って……僕の方が年上なんだけど……」
「僕は同い年なんだが……」
美代も荷物を纏め、教室の出入り口に立った。
「ほら、行くんでしょ!早く行こうよ!」
「あ、あぁ。行こうか、真白」
「お、おう……」
三人はカミヤシロ山に向かい、山頂へと向かった。
「本当にここで、姉さんと会ったんだな?」
「あぁ」
「にわかには信じられないけど……」
すると、霧が立ち込めてきた。
「これは!?」
「言っただろ!この霧の先に、異世界に繋がってる!」
「何か怖いよ、シン君……!」
「大丈夫だ、美代。怪我とかは無いはずだ!」
霧が三人の辺り一帯を包み込み、三人は消えた。やがて霧が晴れ、そこは信一郎が前に来たあの異世界だった。
「何だ……ここは……?」
「変な街……」
「前に来た時と同じ場所だ。ここに紅葉が居る」
「どこにいるんだ?」
「確かこっちだ」
信一郎は美代と真白を連れて、紅葉の住むアパートの前に向かった。
「ここだ」
「変なアパートね……」
「なんかこう、グニャッとしてるというか……」
「まぁ確かに変な建物だよな。さ、この二階だ」
紅葉の住むアパートの部屋の前に着き、ドアをノックした。すると、中から紅葉が出てきた。
「はぁい?」
「やぁ」
「あら、貴方また来たの?何か用?」
「とても大事な用さ」
「何よ……」
紅葉は真白の姿を見て固まった。
「真……白……?」
「姉……さん……?」
「どうしてここに……?」
「信一郎に聞いて来たんだ。姉さん、本当にあの頃のままだ……」
「……とりあえず、中に入る?」
「うん、姉さん」
四人は部屋に上がり、信一郎と美代と真白は卓袱台の前に座り、紅葉は四人分のお茶を用意して席に着いた。
「で、何しに来たの?」
「『何しに来たの?』はないだろう!?姉さん、一緒に帰ろう!」
「嫌よ。私はもうこの世界の住人。後戻りは出来ないわ」
「何でさ!?今ならまだやり直せるだろ!?」
「私はもうここで過ごし過ぎた。今更戻っても、居場所なんか無いわ」
「居場所ならある!」
「えっ?」
「僕が作る!僕が姉さんの居場所になる!それじゃ駄目かい!?」
「…………気持ちは嬉しいけど、私はもう……」
「なぁ紅葉、たった三年だろ?長い人生で考えたら短い期間じゃないか。まだやり直せるんじゃないか?」
「ハッ!知ったような口を。良い?私は真白の姉なのよ?その姉が、いつの間にか歳が逆転してましたって、世間がどう受け止めるって言うの?」
「それは……」
「また中学生からやり直せって言うんでしょ?無理ね。私にはもう居場所なんか無いのよ」
沈黙が流れた。重たい空気だった。しかしその空気を打ち破るように美代は言った。
「紅葉ちゃん、居場所ならあるよ」
「えっ?」
「私達だよ。私と、シン君」
「それが?」
「また一緒に中学二年生からやり直すなら、今度は私達が同級生だよ。それじゃ、駄目?」
「…………」
「紅葉、僕は紅葉の事を何も知らない。だから、美代と同等に接する事が出来る」
「私は紅葉ちゃんを今まで通りに接する。それに、同級生だから、一緒に同じ勉強が出来る。分からない事があれば、真白君に聞けば良いんじゃないかな」
「……私は……」
「姉さん?」
「私は、戻っても良いのかな……?」
「良いに決まってるだろ。姉さんは姉さんだ。それはこれからもずっと変わらないよ」
「真白……」
「友達なのも、変わらないよ」
「美代ちゃん……」
「僕っていう新しい友達もいるぞ」
「信一郎君……」
紅葉は涙をポロポロと流した。それを見て美代は紅葉を抱き締めた。そして二人を真白は抱締めた。
「私、帰っても良いのかな……」
「勿論だよ、紅葉ちゃん」
「やり直そう、姉さん」
「うん……うん……!」
美代と真白と紅葉は離れ、紅葉は窓の方を見た。
「電波塔が消えてる……」
紅葉は懐中時計を見た。
「あと二時間は現れないわね。それまで、この世界で待ってましょう」
「姉さん、すぐには帰れないの?」
「この世界でも電波塔は不定期に現れるらしい。だから暫くはここで待っているしかないんだ」
「なるほど……」
「暇つぶしに、最後にこの世界を見て回りましょうか」
「良いな。美代、真白、行こうぜ」
「でも良いのかな……?部外者の僕達が出歩いても……」
「大丈夫よ、真白。ここに来たらもうこの世界の住人だから」
「私、見てみたい!」
「よし、案内してくれ、紅葉」
「はいはい」
四人は部屋を出て、信一郎と美代と真白は紅葉に着いて行った。辿り着いた先は商店街で、まるで縁日のように賑わっていた。人が混雑して、活気に溢れていた。祭りの屋台もいくつか出ていた。
「何かの祭りか?」
「いいえ、この街はいつでもこうなのよ」
「へぇ」
「ねぇ、折角だから何か買おうよ」
「良いね。何か食べようか」
「買う必要なんか無いわ」
「えっ?」
「ここではお金を払う必要は無いの」
「でもそれじゃあなんだか申し訳ないなぁ」
「それがこの世界のルールなのよ」
紅葉は適当に屋台に向かい、たこ焼きと焼きそばを人数分受け取った。申し訳ないと思った美代と真白がお金を渡すと、
「金なんかいらねぇよ!」
と、江戸っ子のように明るく答えられ、戸惑ってしまった。一応形として、お礼にお金を渡した。すると、店主は非常に喜んでいた。
「おう、あんちゃん達、外から来たばっかりだな?」
「えぇ、そうです」
「ここじゃあ金なんかいらねんだよ!皆道楽でやってるからな!でもありがとよ!」
店主はお金をまじまじと見て、美代と真白に言った。
「これが今のお金かい?」
「そうですけど……」
「そうかいそうかい!こりゃあ良い土産だ!ありがとよ!ついでにおまけしとくぜ!」
「いや、そんな申し訳ないですよ……」
「子供がそんな事きにすんな!ほれ、持ってけ!」
店主は袋に何本かチョコバナナを入れ、真白に渡した。四人は店主に会釈し、公園へ向かい、ベンチに座って受け取った物を食べた。
「紅葉、あと何分くらいだ?」
「あと一時間くらいね」
「じゃあこれを食べ終わったら電波塔の所まで行って待とうか。ね?姉さん」
「そうだね」
四人は今の村の様子を紅葉に話しながらご飯を食べた。色々変わった外の世界では未だに本当に自分の居場所があるのかと何度も聞く紅葉だったが、その度に「僕達がいる」と信一郎が言った。やがて食べ終え、あと十分程で塔が現れる時間になった。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「うん」
「おう」
「あぁ」
紅葉に連れられて電波塔跡地へと向かうと、そこには電波塔が建っていた。
「これで元の世界に戻れる!」
「気を付けて。ここで約三時間過ごしたから、外では大体三十時間ぐらい経ってる事になってるわ」
「何を他人事みたいに言ってるのさ?姉さんも帰るんだよ?」
「えぇ、そうね……」
霧が発生し、辺りを包み込んだ。
「この霧を越えれば、元の世界に戻れるわよ」
「ん?うん」
「久し振りに会えて楽しかったわ」
「何を言ってるんだ?」
「じゃあね……」
紅葉は美代と真白を押し出し、霧の中へと追いやった。
「姉さ―――!?」
「紅葉ちゃ―――!?」
美代と真白は霧の中に消えていった。紅葉は懐中時計を見た。
「何をするんだ!?」
「貴方も早く行きなさい。もうすぐ、この電波塔も消えるわ」
「まさか、わざとギリギリまで僕達を……!?」
「ほら、次は何時になるか分からないわよ。さよなら、信一郎君」
紅葉は走り去っていった。
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追い掛ける→9




