そうですか、ゲームの強制力ってヤツですか
読みに来て下さって、ありがとうございます。
さて、今日も張り切って頭を空っぽにして行きましょう!
大修道女たる大叔母様は、普段は猫を被っているふくよかで優しげな修道女様の仮面を脱ぎ捨てて、ニヤリと笑った。
「ふふん。お誂え向きに、明日は第一王子の13歳の誕生会。神聖国アルテアからの来賓として聖女様のお1人が来られている。
アルテアのぐちゃぐちゃ言う評議会をすっ飛ばして、直に聖女として認めて戴ければ、お前を他所の国に取られる事もないだろう」
ふむ、そう言うモノなのか。
「おっと、何処に行くんだい?」
「もう大丈夫そうなので、家に帰ろうかと」
「お前は、修道院に入ったんだろうが」
「あ、そうでした」
そう言えば、『ここに居させて下さい』と女神様にお願いしたんだった。
大叔母様は、むんずと私の首根っこを引っ掴み、黒い笑顔で私を部屋の隅にいた修道女に手渡した。
「マーサ修道女、この子に修道女の服を。それから、皆で聖女の部屋の大掃除だよ。
そう、あの聖女の遺物の物置きになってるあの部屋だ。その辺でボーッとしてる聖騎士共に手伝わせて、いらない聖遺物は屋根裏に放り込んでおけばいい。
何しろ、本物の生きた聖女がいるんだから。朽ち果てたベッドだの、破れたカーテンだのの過去の遺物は必要ないだろう」
まあ、確かにそうだけれど。大叔母様、言い方。
大叔母様は、益々、黒い笑顔を振り撒いて、声を大きくする。
人というモノは、自分が優位に立てるとなると、こうも変わるモノか……あ、マルガレーテの記憶によると、元々、大叔母様はこんな感じらしいわね。
ふむ、問題なし。
「カンタルナ公爵家に連絡して、聖女様の家具を寄付して貰おう。ついでに修道院の修繕費も。
そうだ、明日の王子の誕生会の聖女の衣装も作らなきゃね」
大叔母様は、ドンッと執務机を叩くと、大声を張り上げた。
「明日からは、この修道院も、『聖女がかつていた修道院』じゃない!
『聖女様の修道院』だ!気合い入れて行くよっ!」
「はっ!」
マーサ修道女は、姿勢を正し、何故か騎士の敬礼をした。
『やっちゃえ、やっちゃえ』
ファンファーレが鳴り、女神様の声がして、光の花びらが執務室に舞った。
何だか、とんでもない事に巻き込まれている気がするのは、私の気のせい?
修道院だけでなく、公爵家の全戦力をも導入し、王城からも魔術師の手伝いがやってきたとかで、てんやわんやの大騒ぎになっていた。
そんな中で、神聖国アルテアの聖女様も密かに王城からやってきて私を聖女と認めて下さった。
万々歳である。やった!
そして、先程からどっかんどっかんと響く音は、魔術師が頑張っている音らしい……何を?
「元聖女様の部屋と隣の部屋の間の壁をぶち抜いて、部屋を拡げるそうです。なるべく、公爵家のお嬢様の部屋と同じ様にしますからね。おっと、聖女様でした」
公爵家で私の侍女だったクレアは、修道女の服に身を包み、私付きの修道女になった。
「お嬢様が聖女様になられて、私も大出世。単なる公爵家の侍女から、聖女様の専属侍女に。行き遅れと言われた私が、大勢の麗しいイケメン神官にかしづかれ、イケてる筋肉の聖騎士様達に囲まれて。
オーホッホッホッ!ザマァ見さらせ、世の女共。私のお嬢様はこの国イチよ!」
いや、クレア。素が出てる、素が出てる。何か怖いから、恐いから。
一頻り高笑いをした後に、クレアは満足したのか、コホンと小さく咳をしていつもの笑顔で私の顔を見た。
「まあ、私、こんな調子ですので、お嬢様いえ聖女様は気にせずに、今まで通りクレアを頼って下さい。
今まで通り、妙な事を口走る前に、常識人のクレアにご相談下さいね」
そう言えば、今までも私は、妙な事を口走り、色んな事に口を出してきたらしい。
「良いですか、ここの料理番は、今までの聖女様が小さい頃から懇意にしていた料理長とは違うんですよ。
『シフォンケーキが、ないなんて!』とか『ザッハトルテのあの美味しさを知らないと言うの!?人生終わってるわよ』と、こちらの料理番に言う前に、先ずはこのクレアがこちらの料理番の修道女を支配下に置いて参りますので、それまでお待ち下さい」
掌握してくるのね。そうね、台所、大事よね。
そう、このクレア。私が小さい頃に料理長に前世のお菓子を作って貰っている時に味見当番を買って出て以来、当時の私の侍女を押し退け、無理やり私の専属侍女になった強者である。
おや?と言う事は、私は小さい頃から前世の記憶があったわけで、今日、思い出したのでは、ない?どう言う事?
「さあさあ、聖女様。お食事の時間の様ですよ。今日は、公爵家の料理長が出張して来ていますから大丈夫ですよ」
美味しいご飯の前に、私の小さな疑問は有耶無耶になった。ふむ。まあ、その内、考え付くかも知れないわね。
国で一番大きい大叔母の修道院と、カンタルナ公爵家、王家の画策により、私は修道院に聖女として収まり、翌日、私は磨きに磨かれて王城に送り出された。
元々用意してあったデビュタント用の白いドレスの上に、修道女達と公爵家御用達の仕立て屋の意地と誇りと徹夜の努力の結晶の聖女の印の刺繍入りの白いオーバードレス。
皆が張り切り過ぎたのか、刺繍が多くて少々重いが、美しい仕上がりである。
良いのかこれで?聖女とは、もう少し地味で清楚なイメージが、あるのだけれど。
そして、更に、デビュタントでは大トリをつとめ、大修道女の大叔母様と厳ついが光輝く正装の聖騎士団長を従えて、光を伴って(これは、女神様の仕業)入場する事になった。
まるで、ラスボスの入場である。
聖女なのに。
「聖女マルガレーテは、昨日、女神から加護を戴いた。今日のパーティーは、急遽、その御披露目も兼ねる事となった」
国王陛下と王妃様、第一王子が私の前に来て、陛下がわざわざ、私を皆に紹介してくれる。
私は、陛下達にカーテシーでお辞儀をし、顔を上げた。
顔を上げた先に見えたのは、金髪の美少年の第一王子が私をジッと見つめる姿だった。
この子が、私を婚約破棄し、断罪し、処刑し、極寒の地の修道院に送るのだ。
ああ、とうとう、この時がやってきた。
私を死に追いやる、死の狩人。
ジョルジオ王子は、私を見て少し顔を赤らめた。
こんなにも、可愛いのに!こんなにも……って、いつまでも見つめていられるわね。可愛くて美しすぎて、しかも何かちょっと色気があって。
あら、ちょっと、ゲームの中でマルガレーテが夢中になるのが、よく判るわ、これ。
うんうん。
ジョルジオ王子は、おもむろに私の手を取ると、スッと美しい所作で踊るかの様に、いきなり私の前に跪き、指先に口付けを落とした。
え?な、何?何?えーっ!?
「結婚して欲しい」
ジョルジオ王子の口から、そんな言葉がこぼれ落ちた。
「はあぁ!?」
シンと静まり返った会場に何故か光の花びらが舞う中、私の声が響いた。
な、何で!?
女神様、光の花びらで祝福してる場合じゃないわよ。
これ、これは、ひょっとして。
噂の、ゲームの強制力ってヤツですか!?
『きゃあー。プロポーズよ、プロポーズ。この国の王子ったら、中々やるじゃない。一目惚れ?一目惚れってヤツね』
「え!?何言ってるんですか、女神様。ヤバいんですよ、無茶苦茶ヤバい事態、発生中ですよ。
このままだと、私、処刑か、極寒の地の修道院送りですからね。うわ~」
「何、莫迦な事を言ってるんですかお嬢様、いえ、聖女様。既に聖女様は修道院に居ますからね」
「何だか判らないけれど、慌てず、どーんと構えておきな。聖女を裁けるのは、神聖国アルテアの聖女様だけだからね」
結局、また新たな策が必要って訳ですよ。ガンバれ(*゜▽゜)ノ




