聖女なので、後始末はキチンと最後までしました
読みに来て下さって、ありがとうございます。
お馬さん、まだ活躍中です。
皆が、魔猪の血抜きをしている間に、すっかり元気になった神父さんに、魔素溜まりまで案内して貰う事になった。
「聖女様方を差し置いて、私がハンブンに乗るわけには、まいりません」
例の賢いお馬さんの名前は、ハンブンだった。ハンブンは名前じゃなくて通称らしい。何と、魔馬と村の雌馬のハーフなんだそうだ。
いや、だって、先程まで疲労と怪我でフラフラだった人が、馬に乗るべきでしょう。いや、確かに元気そうだけれど。
元はこの村出身の近衛騎士で、足の怪我で引退し、神聖魔法が多少使える為に神官を兼ねた神父として、教会からこちらへ派遣されたんだって。
私のピカッパーンで足の古傷まで癒えて元気になった神父のゴーダ様は、中々に鍛えられたイケジジである。どうやら女神様は私やミンティアのモチベーションを上げる為に、要所要所にイケメンを配置されているらしい。
「このゲームは、ちょい役の登場人物までイケメン揃いで売れてたけれど、回想シーンで一言しか出て来ない人物までイケメンとは、恐れ入ったわ」
どーぞどーぞと、譲合いの末、馬に乗せられたミンティアは、頷きながらそう言う。
聖女のくせにクレア達や村の女達が用意し始めたぼたん鍋の匂いにつられて魔素溜まり行きを拒否したミンティアを、私が問答無用でハンブンの上に放り上げて乗せたのだ。
覚えたばかりだけれど、この光魔法の身体強化魔術は、中々、使えるわね。うん。
「ぼたん鍋が出来るまでに、戻れるのよね?」
皆が私の方を一瞬だけ振り向き、足を速める。
当たり前じゃない。皆も私も、それまでに戻りたいわよ。ぼたん鍋~。
村の外れの背の高い草むらに、奴は居た。折しも、魔猪がもう1頭、産まれた所だった。
モフモフで小さな……コボルトか。
コボルトは、キャンキャン言って棒で魔猪のお尻を叩き、私達の方へと焚き付けた。
私達は、双手に分かれて魔猪を避け、普通の猪よりは大きいが他の魔猪よりは小さめのそいつは、私達の後ろにあった木にぶつかって止まった。
急にハンブンが動いたのでバランスを崩し、ハンブンの背から落ちかけたミンティアは、クツワを取っていたグレイザー様に抱き止められる。
これは、初めてミンティアが馬に乗った時のグレイザー様とのスチル。
ああっ!やっと、ゲームの1場面を拝む事が出来たっ!
これよ、これなのよ。
グレイザー様の胸に抱き止められたヒロインのミンティアは、顔を赤らめてグレイザーを見上げる……、ごめん!ミンティア。でも、それ所じゃないのよ。
「ミンティア、光の網を魔猪にぶん投げて」
私はミンティアに指示を出すと、元辺境騎士だったゴーダ、聖騎士団長と共に駆け出した。
食らえ、正義の鉄拳。
『光の鉄拳』
私達を無視して、ひたすら黒い靄の様な魔素が吹き出る地面のひび割れを棒でつついて拡げていたコボルトは、私の光る拳骨で、きゅうっと延びた。
「マルガレーテ様。聖女様が前線に出るのは、お控え下さい。危険ですので。その為の、我ら聖騎士です」
聖騎士団長が私を睨んで言った。
気絶したコボルトを手早くロープで縛りながら、ゴーダは呆れた顔をして、そんな私を横目で見る。
ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃったかな。すいません。
さて、この穴をどうしたものか。こうしている間にも、コボルトが拡げていたせいか、穴からどんどん黒い靄が吹き出てくる。
『マルガレーテちゃん。今なら、まだ簡単に押し返せるわ。穴の上に手を置いて、目一杯力を込めて、押し返してちょうだい』
私はコボルトが拡げていた穴の上に手を当てると、盛り上がりひび割れている地面を、ぐっと力一杯押し戻した。
「戻れ、戻れ、戻れ!元の場所に戻って、出てくるなっ!!」
黒い靄が霧散し、闇を覗かせ反発していた穴が、私の手から出る光に押され、ドンッと言う音と共に、私の手の下で平らな地面に変わった。
よっしゃあぁー!!
「「マルガレーテ様!」」
安心させる様に皆を振り向くと、視界が揺らぎ、身体中の力が抜けて行った。
ミンティアの側に居たグレイザー様が、こちらに駆け出すのが、見えた。
大きな手が私を支え、そのまま私は意識を手離した。
神聖力、使い切っちゃったかな。
リズミカルに身体が軽く上下に揺さぶられる。誰かががっしりとした片手で、私を抱き込んで抱えてくれていた。
ああ、この振動は、多分、馬かな。ハンブンだっけ?あの賢いお馬さんは。
うっすら目を開けると、グレイザー様の爽やかな癒し系の笑顔がそこにあった。ジョルジオ王子の時々見せる腹黒い笑顔とは、大違い。
「ああ、マルガレーテ様。目を覚まされましたか?もうすぐ着きますから」
グレイザー様が、顔に掛かっていた私の髪を優しく撫でて払い除けてくれる。こんなシーン、あったかな。
「グレイザー。何をしている。私のマルガレーテに手を出すな。
マルガレーテを私に寄越せ」
ジョルジオ殿下の静かな怒りの声が聞こえる。うーん。夢の中なんだから、そんなに怒らなくても、良いじゃない。
「はいはい、今、馬から降りますから。少々お待ち下さいね、殿下。
マルガレーテ様、馬から下りますから、俺の首にしっかり掴まっていて下さいね。ほら、しっかりとね」
クスッと笑うグレイザー様の声がした気がした。私はグレイザー様の首に両手を巻き付け、しっかりと抱き付いた。
グッと身体が持ち上げられ、馬から下ろされたのが判る。
「ほら、こっちに来い。マルガレーテ。
グレイザー、貴様、マルガレーテに何もしていないだろうな」
「何もしてませんよ。殿下。神聖魔法の使い過ぎで、お倒れになったマルガレーテ様をここまでお連れしただけです」
13歳のジョルジオ殿下は可愛いけれど、18歳のグレイザー様は、色気がマシマシで、これまた素敵よね~。
私の為に、争わないで~もう、眠いから~。
ちょっとばかり、お休みなさい~。
「殿下、マルガレーテ様をお渡ししても大丈夫ですか?殿下は、まだまだ身体が出来上がっておられませんから、心配です」
「失礼だな。惚れた女の1人位、楽々と運べる。この間も、ちゃんと抱き抱えて運んだからな」
「ですが、流石に少し安定感が不安ですね。筋肉量が少なすぎますからね」
「グレイザー、言わせておけば。騎士団長、明日から私の鍛練時間を増やせ。こいつには、敗けられん」
「おお、殿下。ようやく本気を出されましたか。では、明日から今の3倍のトレーニングを」
「え!?い、いや。3倍は、ちょっとな。そ、そうだ2倍にしておこう。うん。2倍だ」
ジョルジオ殿下、被った猫がどんどん剥がれ落ちています。




