嫉妬と羨望と失意の果てに
読みに来て下さって、ありがとうございます。
さて、今回は時間を少し巻き戻して、グレイザーの視点でお送りします。
聖騎士予定グレイザー side
グレイザー・バックレイ、又の名を青の剣鬼の息子と人は俺を呼ぶ。そう、息子。近衛騎士団長ローレンス・バックレイ侯爵の三男坊。
長兄は近衛騎士で隊長を勤めており、次兄は王都騎士団の副隊長。じゃあ、三男の俺は、親父、おっと、父上や兄上達と比べられない辺境騎士団にでも行くかと、考えていた。
何しろ三男。継ぐ爵位もないので、婚約者もいない。学園では令嬢達に黄色い声で持て囃されていたが、座学の成績は中程度。使える魔法は基本は身体強化と少しばかりの聖魔法。後は、剣を振るうしか能がない。
そんな俺に、千載一遇の幸運が舞い込んできた。
「バックレイ侯爵令息。聖騎士にならないか?」
少しばかりの聖魔法が効いたらしい。学園長に呼び出されて何事かと思ったら、これだ。
「品行方正、容姿端麗、真面目でストイック、先祖代々騎士の家柄で血筋も良し。実技の成績もずば抜けており、座学の成績は、まあ、可もなく不可もないが問題ないだろう。しかも、令嬢達からは、『優しげな爽やかさが素敵』との好評価。
で、どうだ?聖騎士、君はまだ学生だから正しくは聖騎士見習いだが、どうかね?バックレイ君」
聖騎士って、あれだよな。子供の絵本とかに出てくる、聖女様をお守りする騎士。え?実際に存在するのか?
ニコニコと私に話をしていた学園長は、徐に座っていた椅子から立ち上がり窓際に行くと、窓枠に手を置いて空を見上げた。
「先程、聖女が誕生されたとの教会からの連絡が入り、急遽、聖騎士団が作られる事となった。学園からも聖騎士見習いを1人推薦して欲しいと。
ああ、畜生!私が若ければ!私が喜び勇んで馳せ参じたのに」
力一杯、俺の方に振り向いた学園長の目には、怒りの涙が流れ落ちている。
いや、俺に言われても。そして、恨みがましい目が、かなり怖いんだが。
「聖騎士だぞ、聖騎士。見習いだけど、聖騎士。行くよな?な?な?」
スゴい勢いで学園長は私に近付き、『くっそー』と言いつつ、俺の肩を揺さぶり続けた。
すげー、聖女様、現れたんだ。聖騎士かー。俺が、聖騎士かー。うん。三男で良かったなー。何か、得した気分。
涙を流しながら時折目を擦る学園長に手を引っ張られて連れて行かれた先の修道院には、枢機卿と大神官様、大修道院長、大修道女様が揃っていた。
「良くやった学園長。先ずは、1人目の聖騎士だな」
枢機卿は、老いた身体をシャンと伸ばし、持っていた杖をダンッと床についた。
1人目って、見習いが1人目でいいのか?
「良し!グレイザー・バックレイ。そなたを聖騎士に……って、え?ああ、見習いか、ああそうだな学生だからな。
良し。聖騎士見習いに任命する。ほら、私の前に跪け」
慌てて俺が枢機卿の前に跪くと、枢機卿は片手を祈るかの様に身構え、杖を自分の頭上高く掲げる。
そして、俺の肩に、杖をトンと落とした。
「これで、そなたはたった今から聖騎士見習いだ」
枢機卿は、俺の事を何故か泣きそうな顔で見つめた。
「「羨ましいっ!」」
学園長と、そして枢機卿までもが叫んだ。
何か、すいません?
「女神様の御告げにより、馳せ参じましたっ!」
バンッと勢い良く開いたドアから現れたのは、俺のよく見知った顔だった。
「おう、メルグレン神父。よく来てくれた」
「だって、聖騎士ですよ、聖騎士!この私が、かの聖騎士に!!引退しても、鍛練をサボらずにいて良かったー」
父上の友人の1人、前騎士団長のメルグレン様が、剣を掲げて、息を切らせて枢機卿の足元に崩れ落ちた。
「「「羨ましすぎる」」」
気のせいか、大神官までもが血の涙を流している様に見えた。
「跪け、メルグレン神父。聖女様の代わりに私が仮に聖騎士の任命をする。後日、聖騎士が揃い踏みしたら聖女様に聖騎士として誓うことになろう。腹立たしいが、今のところ、貴殿が聖騎士団長だ」
「私が、聖騎士団長」
メルグレン様が雄叫びを上げた。
メルグレン聖騎士団長(仮)が任命されると、続いて、息せききって同じく剣を持ち、胸に下げた女神教会のクロスを握りしめて駆け込んだのは、こちらも見知った顔だった。
「お、遅くなりもうした。ああ、既に先んじられてしまったか。せっかく、女神様の御任命でしたのに」
鞘に入った剣を床に立ててすがり、崩れ落ちたのは、親父の前の近衛騎士団長時代の副団長、ジルベール様だ。
「ふふん。ジルベールよ、私の方が速かったな」
「メルグレン神父に遅れを取ったか。無念。我が愛しのグレイスが生きていれば、この様な失態は」
グレイス。確かに葦毛の素晴らしい駿馬だったそうですね。父からもよく聞かされました。聞いた話によると、グレイスが亡くなったので失意の元にジルベール様は退団し、教会に入ったんだそうな。
「女神様の元で穏やかに暮らしているであろうグレイスの為にも、このジルベール、もう一度剣を取りましょうぞ」
キッと決意も新たな表情で、ジルベール様はメルグレン様を睨み付け、枢機卿達を見回した。
「あ、因みに聖騎士団長は、私だそうだ」
「何だと!?メルグレン神父が、聖騎士団長か!……まあ、確かに私は団長には不向きであるな。仕方がない」
「ジルベール神父には、聖騎士団副団長を務めていただきたい」
そう言うと、枢機卿は涙を我慢するかの様に眉根を摘まみ、天を仰いだ。
「「「「畜生、3人共、羨まし過ぎて目も開けれぬ」」」」
とうとう、大修道院長までもが俺達を睨み付けた。
「いいから、早く任命して、騎士服の採寸に向かわせな」
普段は慈愛の表情を顔に張り付けている大修道女様が、呆れた顔で皆に言い渡した。
「グレイザー。お前、聖騎士見習いになったらしいな」
「はい、父上って、何するんですか。ギブ、ギブ。このクソ親父、いきなり関節技掛けんじゃねえよ。お前、デカいんだからな」
「父上、次は私にも回して下さい。聖騎士団、ないと思って諦めてたのに。クソーっ!」
「うおーっ、兄貴、頬っぺた引っ張りゅにゃ。いちゃい、いちゃい、やみぇろおぉ」
「次男じゃなくて、三男が良かったーっ。聖騎士なんて道があるとは、思わんかったぞーっ!これでも食らえ」
「うぎゃーっ、ブーツ脱がして足の裏グリグリすんじゃねぇよ。痛すぎるわーっ!!」
皆の憧れ聖騎士団。聖騎士団長と副団長は自分の教会に帰ってお祝いされました。グレイザーは家で待ち構えていた父親と2人の兄に力一杯、これまたお祝いされました。
次回こそ、第三次審査ですかね。f(^^;




