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悪役令嬢予定だったので、修道院に駆け込みました  作者: Hatsuenya


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悪役未満聖女は、想い出エピソードに浸れない

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 推しと食べ物に釣られて、ヒロインのミンティアは修道院へ押し掛け修道女になりました。



 修道院の朝は早い。


「あぁ!私、ヒロインとの想い出スチル見逃してしまったわ」


 私は、慌てて飛び起きた。


 ヒロインとジョルジオ殿下、お兄様の出会いの想い出。3人で仲良く小さな籠を作るシーン。

 2人の間に座り、優しく教えてくれる少女ミンティア。ふと顔を上げると、ジョルジオ殿下とミンティアの顔が近くなっており、赤面してしまい、慌てて離れる。


 一方、お兄様の場合は、お兄様が一心不乱に籠を編み上げ顔を上げると、そこには自分の籠を見つめる少女ミンティアの姿があった。


『素晴らしい出来映えですね。初めてなのに、こんなに美しく編み上げるなんて。あなたの集中力に完敗です』


 両親には、どれだけ努力しても、『出来て当たり前』と言われ、誉められる事のなかったお兄様にとって、その言葉は少女の笑顔と共に心に染みる想い出となる。


 ジョルジオ殿下とお兄様の手には、各々自分達が編み上げた小さな四角い籠があり、ミンティアは今日の想い出にと、2人各々に自分が編み上げた蓋を手渡す。


 かくして2人は、淡い恋の想い出をその籠に閉じ込め、辛い時、悲しい時、部屋に飾られたその籠を眺め、手に取って想い出に浸……。


「カット!カット!」


「あら、おはようミンティア。今、ジョルジオ殿下とお兄様の想い出のスチルを噛みしめて」


「あ・り・ま・せ・ん・でした。そんな妄想スチルは、まったくもって、欠片すら、ありませんでした」


 私の洗顔用の水の入った洗面器を持ったまま、プルプルと震え出した。

 タオルを持ったエルダがミンティアに無言で合図すると、ミンティアは洗面器をサイドテーブルに置き、エルダからタオルを受け取り捧げ持つ。

 一方、エルダは私の髪を持ち押さえててくれる。


 フフフ。修道女となった事を機に、自分で顔を洗わせて貰えるようになったのだ。

 そして、普段の着替えも、自分でさせて貰える事になった。何しろ、修道女の服は、コルセット無し!1人で着れる普通の服なのだ。


 普通の服、万歳!


 楽チン服、万歳!


「で、ミンティア。想い出スチルがないって、どう言うこと?」


「どうもこうも。私に籠の編み方を教わったお二方は、競う様に一心不乱に編み続け、ジョルジオ殿下は籠本体を、マーチン様は殿下の籠の蓋を、『マルガレーテに自分の作った物を贈りたい』が為に作ってらしたので、そんな妄想シーンは、欠片もありませんでした」


 そう言いながら、ミンティアはチロッと鏡台の前に飾ってある小さな竹籠を見た。


 あれかあ、そうか、あれねえ。うんうん。




 昨日、肉まんを食べた後、前世の同郷のよしみで何とか修道女にしてくれと、ミンティアに泣き付かれ、私に縋るミンティアを伴って大叔母様の修道院へ、ジョルジオ殿下に王家の馬車で送ってもらった。

 もちろん、ミンティアはクレア達が乗るもう一台の馬車に詰め込まれた。


 馬車が修道院に着くと、私に手を貸し、共に馬車から降りたジョルジオ殿下は、私の手の中にそっと、小さな四角い竹籠を置いた。


「マルガレーテ。これを、貰って欲しい。私が君の為に編んだ籠だ。これを見る度に、私の事を思い出して欲しい」


「そして、これが、お兄様が編んだマルガレーテへの愛だよ」


 カポっと、ジョルジオ殿下の作った籠に、お兄様が蓋を被せた。

 これは、殿下の気持ちを封印する……と言う事で良いのだろうか。


「お前は、どうして、マルガレーテの事に関して、そんなに狭量なんだ。不敬って言葉を知ってるか?」


「狭量!初対面で、人の妹をいきなり囲った殿下に言われたくありませんね。

 とにかく、これを見て、いつでも私の事を思い出してくれ。マルガレーテ。

 さあ、行きますよ。殿下。取り急ぎ王城に戻って、マルガレーテの奇跡を報告せねばなりません」


「ここは、別れの抱擁を……マルガレーテぇ~~~」


 お兄様はポイっとジョルジオ殿下を馬車に放り込んで、自分もさっさと馬車に乗り込み、殿下はドップラー効果の様に私の名前を叫んだまま、馬車は走り去ってしまった。




 想い出のスチル……とんでもねぇコメディになってるんですけど。


「ゲームの中の13歳のジョルジオ殿下とマーチンお兄様って、こんな感じだったっけ?ミンティア」


「今のままだと、ゲーム開始の2年後に、麗しの腹黒完璧王子のジョルジオ殿下と、冷静沈着ツンデレ貴公子マーチンには、ならない気しかしないわよ。

 まあ、私の推しじゃないからいいけど。

 でも、このままだとちょっと、この国の将来が危ぶまれる気がするなぁ」


 ミンティアが一足先に孤児院を出て修道女になってしまったので、後の攻略者達の想い出スチルは、どうなるのかと、私は、ふと思ってしまった。



 



「ちょっと、エルダ。それをどうするつもり?」


「聖女様の初めての奇跡の記念ハンカチですから、額に入れました」


「で?それを、どうするの」


「聖女様のお部屋に飾ろうかと」


「や~め~て~!血だらけなの思い出すから、痛そうなの思い出すから、絶対、止めてちょうだい」


「えぇ~せっかく、孤児院の院長が孤児院の教会に飾りたいって言うの無視して持って帰って来たのに。じゃあ、やはり、ここは大修道女様の仰る通り、ここの教会の女神像の横に飾って貰います?」


「それも、嫌~っ!」





『聖女様の奇跡の場所』……それは、観光名所の予感。


 って、孤児院の台所!?



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