第68話:運命の最終防衛戦(お産)。……殿下、陣痛に苦しむ私の横で、国家予算の使い道を遺言のように叫ぶのは規律違反です!
「状況把握、開始。時刻は午前三時。予定日ぴったりの深夜。私は今、王宮の特設産室で、人生最大級の周期的な衝撃(陣痛)と絶賛交戦中なのだけれど。……私の手を握る夫の顔面が、恐怖で完全にミリタリースペック(真っ白)に大破している。状況、産婦の私より、付き添いの皇太子の方が精神的バイタル低下(気絶寸前)ね」
ついに、お腹の中の新兵(赤ちゃん)が「出撃の刻」を告げた。
数分おきに襲いかかる凄まじい衝撃波に、元自衛官の私もさすがに「くっ……!」と奥歯を噛み締める。
しかし、私の防衛体力(HP)より先に限界を迎えたのは、隣にいるルファード殿下だった。
普段なら15手先を読んで不敵に微笑む天才が、私の手を握りしめたまま、宝石のような紫の瞳を涙で濡らして激しく取り乱している。
「アルティナ! アルティナ……っ! すまない、俺がお前にこんな激痛(試練)を強いてしまった……っ! 痛むかい!? どこが痛むんだい!? ああ、神よ、身代わりになれる魔術はないのか……っ! おい、侍医! 国家予算をフルインフレさせていいから、今すぐアルティナの痛みを100%パージ(無痛化)しろ!」
「で、殿下! お医者様を国家権力で威圧するのを停止してください! 私は……ふぅ、はぁ……前世の訓練(呼吸法)で耐えられますから、殿下が私の隣で酸欠になって倒れるのだけは戦略的規律違反(大迷惑)です……っ!」
「ヒッヒッフー!」とミリタリースペック通りの完璧なラマーズ法を執行する私。
その時、開け放たれた窓の外から「アルティナ殿下ーーーッ!」「頑張ってくださいーーーッ!」という、大地を揺るがすような怒号が響いてきた。
状況把握のために窓の外を一瞬レーダー検知(目視)すると、王宮の前庭で、キリアン団長率いる第一騎士団の面々が、大粒の涙を流しながら「安産の祈り」を込めた限界突破の高速スクワットを執行していた。
(……うん、状況把握。私が陣痛と戦っている間、あの忠犬騎士たちは筋肉の収縮によって私にエール(聖なるパワー)を送る作戦に出たのね。状況、王宮の治安が別の意味でレッドゾーンだわ)
「うるさいぞキリアン! アルティナの集中力を乱す奴らは一族郎党処刑――いや、今はそれどころじゃない! アルティナ、頑張れ、頑張ってくれ……っ! お前が俺の腕の中に、無事に還ってきてくれるなら、俺はもう一生お前をベッドから出さない(究極の過保護監禁)と誓うからね……っ!」
「あ、ふゃ……最後の一言が……っ、不穏すぎ、ます……っ! でも、産みます! 出撃許可、開始ーーーッ!!」
最後の衝撃波に合わせて、私は全残存体力を解放した。
直後、産室の中に、世界で一番力強く、愛おしい「未確認新兵の産声」が最大戦速で響き渡った。
「あうあー!」
「……はぁ、はぁ。新兵の完全着陸(誕生)、確認。バイタル、双方良好。……殿下に似た綺麗な、紫の瞳の……可愛い赤ちゃん、ですよ……っ」
私が疲れ果てた身体で、胸元に抱かれた小さな命を見つめて微笑む。
ルファード殿下は、生まれたばかりの我が子と、汗に濡れた私の顔を交互に見つめ、ついに決壊したように大粒の涙をボロボロと流しながら、私たち二人を壊れ物を扱うように 強く、激しく、この世の何よりも愛おしそうに抱きしめてきた。
「ありがとう、アルティナ……。俺の最愛の、世界で一番勇敢なヒーロー。お前たち二人は、俺が命に懸けて、一生甘やかし尽くしてみせるからね……っ」
(おのれ肉食獣上司ーーー!! これからはパパ上司として、私とこの子の二人をまとめて『過保護包囲網』に叩き込む気満々じゃないのよーーー!?)
こうして、王宮の長きにわたる最終防衛戦は、新たな家族という「最強の超ド級新兵」の誕生により、これまでにない最高のハッピーエンドを迎えるのだった。元自衛官令嬢アルティナの、静かに引きこもりたい戦線は、愛する夫と愛しい我が子の二大溺愛勢力によって、これからも一生、甘く激しく包囲され続けていく。




