第67話:お腹の赤ちゃんへの定時報告。……殿下、毎晩私のへそに向かって国家の機密事項を囁きかけるのは規律違反です!
「状況把握、開始。時刻は午後十時。懐妊五ヶ月、いわゆる安定期。私は今、王宮の寝室でパジャマ姿のままベッドに横たわっているのだけれど。……私のすぐ隣で、我が夫が私の膨らみ始めたお腹に耳をぴったりと密着させ、幸せそうに目を閉じている。状況、天才皇太子が完全に『親バカという名の最高位デレモード』にシャットダウン(機能停止)しているわね」
お腹の中の新兵(赤ちゃん)は、私の高性能レーダー(母体)の予測通り、順調かつミリタリースペック並みに健康に成長していた。
少し丸みを帯びてきた私のお腹は、ルファード殿下にとって「世界で最も重要な最高機密防衛区域」に指定されている。毎晩、公務を最大戦速で片付けた殿下は、寝室に飛び込んでくるなり、私のお腹にへばりついて我が子への定時連絡(お喋り)を執行するのが日課になっていた。
「……おーい、俺の可愛い天使(赤ちゃん)。今日も俺の最愛のヒーロー(お母さん)を困らせたり、お腹を痛くさせたりしなかったかい? 早くお前に会いたいけれど、お母さんの防衛体力(HP)を削らないように、優しくゆっくり育つんだよ。お前が生まれたら、この国のすべてをご褒美としてプレゼントしてあげるからね」
「で、殿下! まだお腹の中の赤ちゃんに、国家の最高権力(すべてを譲る契約)をフルインフレさせて吹き込むのはやめてください! 気が早すぎて、教育規律違反です……っ!」
夫の綺麗な銀髪を引っ張ろうとするが、殿下はお腹に耳を当てたまま、宝石のような紫の瞳をうっとりと細めて私を見上げてきた。
「バカ言え、気が早くなんてないさ。俺とお前の子だ、お腹の中にいる今この瞬間から、世界一幸せになる権利を有している。……それにしてもアルティナ、お腹が少しふっくらとして、ますます愛おしくて堪らないよ。お前を丸ごと抱きしめていると、俺の独占欲の全戦線が、幸福感だけで完全に満たされていくのが分かるんだ」
そう言って、殿下はお腹を愛おしそうに撫でた後、私の唇に、触れるだけの優しく甘い口づけを落とした。
いつもなら強引にベッド監禁(夜間残業)へ連れ込む肉食獣上司が、今はただ、私とお腹の子の安全を第一に考え、壊れ物を扱うように、どこまでも愛おしそうに私を抱きしめてくれている。
その切実なほどの労りと深い溺愛に、私の高性能レーダーは、胸の奥から甘く蕩かされるような特大アラート(大バクバク)を叩き出した。
「ん、む……殿下、その優しすぎるバックアップ(甘やかし)は、私の自衛官精神を完全に武装解除させにかかっています……っ。このままだと、本当にただの引きこもり令嬢(駄目人間)に……」
「いいじゃないか、俺の前だけで駄目になればいい。お前が俺の腕の中でサボっていられるように、俺が一生をかけてこの国の治安と、お前たちの平穏を最大戦速で防衛し続けるからね」
耳元で囁かれる、極上の生涯契約(プロポーズの続き)。
(おのれ肉食獣上司ーーー!! 激しい夜の総攻撃も困るけれど、この『包み込むような過保護マタニティいちゃいちゃ』の方が、私の精神的防衛基準がミリ単位で溶かされて逃げ場がなくなっちゃうじゃないのよーーー!?)
私は嬉しさと羞恥心のインフレで顔を真っ赤に染めながら、お腹の中で微かに動いたような気がした新しい命の息吹と、夫の逞しい腕の温もりに包まれて、世界で一番甘い絶対安静に突入するのだった。
こうして、アルティナの安定期ライフは、デレ度が天元突破した皇太子殿下の「お腹への愛の囁き総攻撃」により、毎晩逃げ場のない激甘防衛戦を迎えるのだった。元自衛官令嬢アルティナの、静かに引きこもりたい戦線は、愛する夫と未来の我が子という、世界最強の二大新兵によって、どこまでも優しく、甘く、永久に包囲され続けていく。




