第63話:完全治癒の宣告。……殿下、今の痛みの訴えは、純粋な安静を求めた戦略的防衛行為(サボり)です!
「状況把握、開始。時刻は午前八時。ドラゴンの肉スープを二日間摂取した結果、私の背中の傷は、王宮の魔導師たちが『これ、本当に昨日まで焼けていたのか?』と顔を見合わせるレベルで綺麗に塞がっている。……問題は、この回復速度を私が把握していることが、夫にバレているかどうかね」
ルファード殿下は、いつも以上に妖艶な手つきで私の背中のガーゼを剥がした。
そこに残っているのは、傷痕というにはあまりに薄い、白い筋のような跡だけだ。
「……随分と綺麗になったね、アルティナ。これなら、今日からリハビリ(公務復帰)を開始しても問題ないんじゃないかな?」
殿下は私の背中を指先で優しくなぞりながら、紫の瞳で私の逃げ場を塞ぐように見つめてくる。
その視線には、『お前がもう全快していることは、俺の戦術レベルでとっくに看破済みだ』という無言の圧力が込められていた。
「い、いえ、それは早計です! まだ神経系に微細なダメージが残っているような……っ。ほら、ここ、ちょっとピリッとした気が」
「ここかい?」
殿下が、私の脇腹の敏感なポイントを、ごく自然な動作で、けれど逃げ場のない正確さで愛撫する。
「ひゃうっ……!? 殿下、それは神経の検査と関係が……っ!」
「反応を見る限り、神経伝達速度(反射神経)はミリタリースペック通り、極めて良好だね。……アルティナ、お前は本当に可愛い嘘つきだ。傷が癒えても俺のそばにいたい、そう素直に言えば、一週間でも二週間でも俺は公務をパージして、ここを二人だけの楽園(引きこもり空間)にしてやったのに」
逃げ場を完全に塞がれ、私はベッドのシーツを掴んで真っ赤になる。
やはり、全て見抜かれていた。この天才皇太子相手に、『怪我の痛み』という物理的な偽装工作でサボりを継続しようとした私の作戦は、開始一秒で敗北していたらしい。
「殿下、今の私の戦術的遅延行動は、国家の軍備増強と私の精神的安定のための重要事項……っ!」
「言い訳は夜にするよ。今は、お前の体が完全に全快したことを祝して、俺がもっと深い意味で『全身の健康チェック(スキンシップ)』を執行してあげるからね」
ずるりと、殿下が毛布の中に滑り込んでくる。
全快した私の身体は、殿下の圧倒的な包容力と、隠しきれない独占欲の熱気に、サボりどころか一歩も外に出られない状態へと強制変換されていく。
「さあ、まずはどこから治療(溺愛)を始めようか。公務復帰の準備は、お前が俺の腕の中で完全に蕩けきった後に考えればいい」
こうして、アルティナの『合法的なサボり作戦』は、殿下のあまりに手慣れた嘘暴きと、それ以上に甘く濃厚な愛情表現によって、完膚なきまでに粉砕された。回復したはずのアルティナは、結局ベッドから出られないまま、皇太子の腕の中で甘い戦火の渦に飲まれていく。




