第58話:激怒の皇太子、国境へ強行軍。……殿下、愛馬を乗り潰す勢いで親征(ストーキング)してくるのは国家予算の枠外ですよ!?
「……っ、状況把握、開始。時刻は午後二時。単独出張、四日目の午後。私は今、襲撃のあった宿のロビーで、これからの防衛作戦を練っていたのだけれど。……地平線の彼方から、我が国の国家予算が物凄い勢いで消費されていく音が聞こえるわ。状況、想定を遥かに超越した『最大戦速のお迎え(夫)』ね」
早朝の暗殺者襲撃イベントから、わずか数時間。
現地に潜伏していた殿下の「暗部」が、私の格闘戦データを王宮へリアルタイム通信(緊急入電)した瞬間から、私の高性能レーダーは最悪の予感を検知していた。
あの愛が重すぎる天才夫が「アルティナが危ない(俺のいないところで触られた)」という事実に対し、理性を100%シャットダウンさせて暴走する未来を秒で看破していたのだ。
――そしてその予測は、ミリタリースペック(狂いなく)通りに的中した。
地響きのような蹄の音が宿場町に鳴り響いたかと思うと、宿の正面扉が爆風でも受けたかのようにバァン!! と左右に吹き飛んだ。
「アルティナァァァーーーッ!!! 無事か、怪我はないか、どこか痛むところはないかい!?」
そこに立っていたのは、通常なら馬車で三日はかかる距離を、伝説の魔導馬を最大戦速で乗り潰してわずか数時間で走破してきた我が夫・ルファード殿下だった。
シルクの公務服は風に煽られてボロボロ、宝石のような紫の瞳は怒りと焦燥感で完全に血走り、周囲の大気抵抗がガクンと下がるほどの圧倒的な覇王の殺気(独占欲)を撒き散らしている。
「で、殿下……状況把握を……っ! なぜ王宮で居残り公務(お留守番)をしているはずの皇太子が、国境の最前線に単騎で強行軍(不法侵入)してきているのですか!? 規律違反にも程があります!」
私が真っ赤な顔でピシッと敬礼しながら叫ぶ。
しかし、ルファード殿下は私の抗議を完全スルーすると、弾丸のような速さで突進してきて、私の華奢な腰をガッチリとホールド(抱獲)。壊れるほどの力強さでその逞しい胸の中に私を監禁した。
「うるさい、規律なんて知るか! お前が暗殺者に喉元を狙われたと聞いた瞬間、俺の理性の全戦線が完全崩壊したんだ! ああ、アルティナ……無事でよかった……っ。お前を傷つけようとした奴らは、俺が国家権力をフルインフレさせて一族郎党すべて物理的にパージ(処刑)してあげるからね……!」
首筋に狂ったように顔を埋め、ハァハァと激しい呼吸を繰り返す夫。
至近距離から押し寄せる、一人の男としての剥き出しの執着と、失う恐怖に震える熱量に、私の心臓は大パクバクのアラートを叩き出す。
「ルファード殿下! アルティナ様から離れてください! 警護の失敗は私の責任、殿下がここで職権乱用されるのはお門違いです!」
そこへ、背後に控えていたキリアン団長が剣の柄に手をかけながら割り込んでくる。
だが、ルファード殿下は私を抱きしめたまま、キリアンに向かって絶対零度の紫の瞳を向けた。
「黙れキリアン。24時間密着護衛と言っておきながら、アルティナの寝室に虫(暗殺者)を通したお前の罪は重い。……アルティナ、出張はこれで作戦終了(強制打ち切り)だ。今すぐ王宮の寝室へ連れ戻し、一ヶ月間ベッドの上で俺の監視下(愛の監禁)に置く契約を執行する!」
(だから、治安の乱れを口実に、私のサボり旅を『朝まで終わらない強制居残り残業』へと強行改変するのをやめてください、この超ド級肉食獣上司ーーー!!)
こうして、暗殺騒動は、心配と嫉妬が限界突破した皇太子の「電撃親征(お持ち帰り総攻撃)」により、国境地帯全体を巻き込む特大の甘々修羅場へと発展するのだった。元自衛官令嬢アルティナの、静かに引きこもりたいスローライフへの戦線は、夫の本気の奪還作戦によって、今度こそ逃げ場のないベッド(戦場)へと引きずり戻されようとしていた。




