第55話:出張二日目の防衛砦。……騎士様、私の過去の戦闘データ(一本背負い)を現地で勝手にプレゼンしないでください!
「……ふぅ。状況把握、開始。時刻は午前十時。単独出張、二日目の午前。私は今、国境を守る最前線の防衛砦の演習場に立っている。……のだけれど、現地の堅物な大隊長たちが、私を見るなり一斉に震え上がって戦略的後退(ドン引き)している。状況、明らかに事前情報の汚染(風評被害)ね」
出張二日目、私は皇太子妃としての公式任務である「国境防衛線の視察」を執行していた。
前世の自衛官としての血が騒ぐ広大な砦、機能的な木製デスク。これなら夜の居残り残業(溺愛)から離れ、健全に公務をサボりつつスローライフの計画を練られる――そう思った私が甘かった。
原因のプロファイリング(分析)なんてするまでもない。私の隣で、頼んでもいないのに胸を張ってフンスと鼻を鳴らしている第一騎士団長・キリアンだ。
「諸君、刮目せよ! こちらが我が国の至宝、アルティナ皇太子妃殿下だ! 殿下は先の王宮襲撃の際、ドレス姿のまま賊5名をわずか8秒で一本背負い(完全粉砕)し、地下迷宮の崩落からは私を『お姫様抱っこ』で救出された、当代最強の戦術機動の持ち主である!」
「ちょっとキリアン団長、状況把握を……っ! なぜ公式な視察の冒頭で、私の隠しておきたいゴリゴリの野生(チート戦闘力)を100%開示してマウントをとっているのですか!? 現地の騎士たちが、私のことを『戦場を駆ける生肉食獣』みたいな目で見てるじゃないですか!」
私が真っ赤な顔で、小声で猛抗議する。
しかし、キリアンは宝石のような灰色の瞳に「狂信的なリスペクト(ガチ惚れ)」をギラギラと輝かせ、一歩近付いて声を潜めた。
「何を仰いますかアルティナ様! 貴女の美しさと強さは国益そのもの。私はあの肉食獣上司(ルファード殿下)に『お前には一ミリも譲らん』と脅されましたが、そのお留守番中の夫に、貴女がいかに前線で神格化されているかをリアルタイム報告(見せつけ)してやるのです!」
バサササッ!!
その瞬間、砦の監視塔の影から、カラスのフリをしてカモフラージュしていた殿下の「暗部」が、通信魔術のスクロールを握り締めて慌ただしく飛び立っていった。
(……うん、状況把握。キリアンが私に一歩接近(ルート侵略)するたびに、暗部が『現在、側近が前線で妃殿下の武勇伝を熱弁中。現地の男たちが惚れる兆候あり』と王宮へ最大戦速で緊急入電しているわね。状況、これ絶対に明日の朝あたり、嫉妬で理性をシャットダウンさせた殿下から『国境に前倒しで親征(職権乱用)する』って公文書が届くやつだわ)
頭が良すぎる私は、このままでは遠隔での嫉妬ゲージがフルインフレを起こし、出張から帰った後の私のベッド残業が朝までコースどころか『一ヶ月連続不眠不休コース』に強制確定する未来を秒で看破した。私の心臓は別の恐怖で最大戦速(大バクバク)のアラートを叩き出す。
「状況把握、完了しました! キリアン団長、その過剰なバックアップ(自慢)は規律違反につき即座に禁止します! 私はこれより、静かに砦の兵糧の検分という名の『完全なサボり』に入ります!」
私が涙目で叫びながら訓練場を戦略的脱出すると、現地の騎士たちは「やはり本物の強者は背中で語るのか……っ!」と、なぜかさらにリスペクトの眼差しを熱くするのだった。
(違うのよーーー!! 私はただ静かに引きこもってクッキーを食べたいだけなのに、なんで旅先でも私の包囲網がカオスにインフレしていくのよーーー!?)
こうして、出張二日目の防衛砦は、忠犬騎士のバグった誇張宣伝と、それを遠隔で監視する夫の「代理包囲網」によって、早くも私の胃袋と精神的防衛体力をすり潰していくのだった。元自衛官令嬢アルティナの、ものぐさスローライフへの戦線は、最前線の砦でも男たちの重すぎる執着によって甘く激しく侵略され続けている。




