第52話:出張前夜の最終防衛線。……殿下、一ヶ月会えないからって、私の身体にそんな契約魔術(マーキング)を刻まないでください!
「……はぁ。状況把握、開始。時刻は午後十一時。単独出張、前夜。私は今、荷造りをすべて侍女に丸投げ(戦略的サボり)して就寝しようとしたところを、衣服をパージした夫に背後からガッチリとホールドされている。状況、出張前の『最後の物資回収(朝までコース)』が確定した瞬間ね」
明日から丸一ヶ月、ルファード殿下の重すぎる溺愛から解放される。
そう思って心の中で最大戦速のガッツポーズを決めていた私だったが、天才皇太子がその神ルートを指をくわえて見ているはずがなかった。
背中から押し寄せる、心臓が痛くなるほどの熱い体温。
ルファード殿下は私の首筋に深く歯を立てるように甘噛みすると、宝石のような紫の瞳をこれまでにないほど潤ませて、低く掠れた声で 囁いた。
「アルティナ……本当に俺を置いていくんだね? キリアンの奴を同行させて、一ヶ月も俺の目の届かない場所へ行くなんて……。ああ、今すぐその細い足首に金の鎖を繋いで、このベッドから一歩も出られないように監禁(職権乱用)してしまいたい……っ」
「で、殿下……状況把握を……っ! 国王陛下の御命令を無視して皇太子妃を監禁するなど、国家レベルの規律違反です! そもそも、キリアン団長が同行するのは純粋な防衛任務(護衛)であって、殿下がそんなに嫉妬ゲージをフルインフレさせる必要はどこにも――」
「大ありだ。あの男はお前にガチ惚れしている」
余裕の笑みを完全にシャットダウンさせた殿下の指先が、私のパジャマのボタンを容赦なく戦略的パージ(解除)していく。
至近距離から放たれる、一人の男としての剥き出しの飢餓感と色気に、私の高性能な自衛官レーダーは一瞬でオーバーヒート(大バクバク)を記録した。
「だから……お前が向こうで他の男に視線をくれないよう、今から朝が来るまで、俺の愛をその身体の隅々まで刻み込んであげるからね」
「んむ……っ、ん、ふゃ……あ……っ」
抗議の声を上げる唇は、逃げる隙を一切与えない深さで完全に塞がれた。
今夜の殿下の総攻撃は、過去最大の高負荷な実技演習。一ヶ月分の「待て」を強いられる肉食獣の執着は凄まじく、何度もシーツの海へと沈められ、私の防衛体力は秒でマイナス域へと叩き落とされる。
さらに、熱い快感の中で意識が朦朧とする私に向かって、殿下は妖艶に目を細め、信じられない特大のハメ手(作戦)を告げた。
「安心するといい、アルティナ。お前の護衛として、キリアンの『第一騎士団』だけでなく、俺の直属の『暗部』を百名、お前の影に潜ませて24時間体制で監視させることにした。キリアンがお前に一歩近付くたびに、上空から威嚇射撃をさせるからね」
(国家権力と軍事力の無駄遣いにも程があるでしょうが、この嫉妬の化身ーーー!! 護衛の周りをさらに暗部で包囲してどうするのよーーー!?)
頭が良すぎる私は、出張先でも殿下の重すぎる愛の包囲網(24時間監視ルート)から一歩も脱出できない未来を看破し、絶頂の心地よさの中で涙目になるのだった。
こうして、出張前夜の最終防衛線は、嫉妬で完全に暴走した皇太子殿下の「一ヶ月分の過剰労働(無限第2ラウンド)」によって、朝の光が差し込むまで跡形もなくとろかされ続けるのだった。元自衛官令嬢アルティナの、束の間のスローライフへの戦線は、出発前から夫の底なしの独占欲によって、完膚なきまでに侵略され尽くしている。




