第51話:皇太子妃、まさかの単独出張命令。……殿下、1ヶ月の離別(サボり)は、国家最高機密の作戦計画です!
「……っ、状況把握、開始。時刻は午後二時。新婚十四日目の午後、緊急閣議の直後。私は今、国王陛下より直々に下された『隣国との親善儀礼、および地方視察の全権名代』の辞令を手にしている。期間は一ヶ月。状況、新婚二週間目にして、まさかの単独長期出張(ベッドからの戦略的解放)ね!」
窓の外に逆さ吊りになっていたキリアンを近衛兵に強制撤去(防衛排除)させた直後、王宮に緊急のアラート(早馬)が鳴り響いた。
何事かと正装に着替えて謁見の間へ向かった私を待っていたのは、国王陛下からの直々の特命だった。元自衛官としての圧倒的な危機管理能力と、先の賊を8秒で一本背負いした武勇が評価され、「荒れる隣国国境の視察には、アルティナしか適任がいない」という、まさかの大抜擢である。
頭が良すぎる私は、これで「夜の居残り残業(底なしの溺愛)」から丸一ヶ月も合法的にサボれるという神ルートを秒で看破し、心の中でガッツポーズ(最大戦速)を決めていた。
――だが、この作戦計画に、この国で最も愛の重い男が黙っているはずがなかった。
「認めない……! 認めないぞ、そんな作戦計画(人事異動)は絶対に承認しない! アルティナと一ヶ月も離れるなんて、俺の精神防衛線が三日で完全崩壊してしまう! カイゼル、今すぐ俺の全公務を隣国の国境へ移転(職権乱用)する手続きをしろ!!」
宝石のような紫の瞳をかつてないほど血走らせ、机を叩いて大パニックを起こしている我が夫・ルファード殿下。
いつもなら15手先を読んで不敵に笑う天才皇太子が、完全に「置いていかれる仔犬」と化して理性を暴走させている。
「殿下、状況把握を……っ! 皇太子が私情で公務を放棄して同行するなど、明確な規律違反です。これは国王陛下からの絶対命令。私は皇太子妃としての任務を全うする義務があります。大人しくお留守番(休戦)してください!」
私が真っ赤な顔でピシッと敬礼をしながら諭すが、殿下はなりふり構わず私に飛びかかってくると、その逞しい腕で私の腰をガッチリとホールド(捕獲)。引き離されまいと、私の首筋に狂ったように顔を埋めてきた。
「嫌だ! 誰がなんと言おうと俺も行く! お前がいない一ヶ月なんて、終わりのない遠征訓練より地獄だ……っ。どうしても行くというなら、今から出発までの三日間、ベッドの中に完全監禁してお前を俺の愛で満たすしかない……!」
(だから、出張前の嫌がらせみたいな超高負荷な残業(朝までコース)を発注するのをやめてください、この肉食獣上司ーーー!!)
至近距離から押し寄せる、殿下の本気の焦燥感と執着の熱量に、私の心臓は大パクバクのアラートを叩き出す。
ルートを完全に塞がれ、出張前に私が大破させられそうになった、その時――。
バァン!!と執務室の扉が開いた。
「ルファード殿下、状況把握を! 殿下の同行は私が騎士団長として断固阻止いたします!」
そこに立っていたのは、謹慎処分を自ら踏み倒して復帰したキリアンだった。灰色の瞳に「狂信的なリスペクト」の炎を宿した彼は、私の前にサッと進み出ると、これ以上ないほど堂々と胸を張った。
「アルティナ皇太子妃殿下の単独出張……! 素晴らしい、これぞ我が第一騎士団が総力を挙げてお護りすべき至高の任務! 殿下、留守中の王宮(国政)はあなたがお守りください。アルティナ様の『一番槍(護衛の盾)』として、このキリアンが丸一ヶ月、24時間体制でピッタリと影のようにお供いたします!」
「キリアン……お前、今すぐ死刑(国家逆賊罪)になりたいのか?」
ピキキ……と音を立てて、ルファード殿下から放たれる殺気が絶対零度まで急降下する。
(いや、キリアン団長、あなたのその24時間密着バックアップ(ガチ惚れ同行)のせいで、殿下の嫉妬ゲージがフルインフレを起こして私の出張前夜の生存確率がゼロになったんだけどーーー!?)
こうして、新婚二週間目にして発生した「皇太子妃の一ヶ月単独出張ミッション」は、留守番を拒否する夫の暴走と、同行を志願する側近の参入により、出発前からベッドの上を最大の戦場へと変貌させるのだった。元自衛官令嬢アルティナの、サボりとお出かけを賭けた戦線は、男たちの重すぎる愛の激突によって、過去最大のインフレ修羅場へと突入していく。




