第50話:新婚十四日目の朝。……ちょっと待ってください、窓の外の騎士様、謹慎処分(サボり)の意味を国語辞典で調べてきてください!
「……はぁ。状況把握、開始。時刻は午前八時。新婚十四日目の朝。一晩中続いた、嫉太子(嫉妬した殿下)による苛烈な物資回収(独占マーキング)がようやく終了。私は今、夫の腕の中に完全捕獲されているのだけれど……。状況、それ以上に窓の外の景色が『完全なバグ(怪奇現象)』を検知しているわ」
やってくれたわ、あの嫉妬に狂った天才皇太子。
昨夜のルファード殿下は、側近に私の戦闘力がバレたのがよほど気に入らなかったらしく、私の防衛体力がマイナス域に突入してもなお、「まだキリアンの視線がお前に残っている気がする」と、朝が来るまで何度も何度もシーツの海へと溺れさせてきたのだ。おかげで全身が甘い気だるさで動かない。
よし、状況把握完了。今日も大破した死体になりすまして、殿下の腕の中で一日中サボ――。
――トントン。
静まり返る主寝室のガラス窓を、外から軽く叩く謎の規則的な音が響いた。
ここは王宮の三階である。不審に思った私が、寝返りを打って窓の方へと視線を向けた、その瞬間。
「……っ!? 状況把握! 窓の外、地上約十メートルに位置する外壁。そこに、忍びの如きロープワークで天井から『逆さ吊り』になり、真剣な顔でこちらを見つめている不審者1名。……って、キリアン団長、何やってるのよーーー!?」
なんとそこには、煤を綺麗に洗い流し、ビシッと正装の騎士服を纏ったキリアンが、窓ガラス越しに直立(※逆さまだが)して敬礼を捧げていた。
灰色の瞳には、一点の曇りもない『狂信的な忠誠心(ガチ惚れ)』の光が宿っており、口元が「アルティナ様、自主警護に参りました」と動いている。
「……朝から随分と、不敬な羽虫が我が家の窓にへばりついているね?」
スッ……と私の背後から立ち上がった、冷気(殺気)を100%に纏ったルファード殿下。
シャツの胸元を大きくはだけた、朝の妖艶な男の色気など一瞬で霧散し、その宝石のような紫の瞳は、昨日以上の国家崩壊レベルの不機嫌さでギラギラと輝いていた。
殿下はガタッと音を立てて窓を開けると、逆さ吊りの側近に向かって、見たこともないほど冷徹な声を突き刺した。
「キリアン。お前には昨日、3日間の自宅謹慎を言い渡したはずだが? なぜ皇太子妃の寝室の窓をストーキングしている」
「はっ! ルファード殿下、状況把握を! 謹慎とは『自宅にて行動を慎むこと』。すなわち、この王宮全体が我が家である私にとって、敷地内での自主警護は規律の範囲内です! 昨夜、殿下がアルティナ様に夜の強行軍(過剰労働)を強いると予見したため、防衛線のバックアップに――」
「お前のその減り口を今すぐ物理的にシャットダウン(強制排除)してやろうか?」
朝の八時から、三階の窓を挟んで火花を散らす天才皇太子と狂信的騎士団長。
頭が良すぎる私は、この男たちの不毛なキャットファイトのせいで、私の「朝の二度寝権」がリアルタイムで秒単位で侵略(遅延)されていることを看破した。
「状況把握、完了しましたお二人とも! キリアン団長、そのアクロバティックな規律違反(逆さ吊り)は今すぐ中止して兵舎へ戦略的撤退を! そして殿下、側近と窓際でバトル(実技演習)を始める前に、冷気で私のHPがさらに削られているので、今すぐ窓を閉めて私を温めて(ハグして)ください……っ!」
私が真っ赤な顔で、毛布を頭から被りながら涙目で叫ぶ。
その瞬間、ルファード殿下は「……っ! しまった、アルティナの保温(抱っこ)が最優先だった!」と顔色を変え、窓をバシィィン!!と乱暴に閉めて鍵をロック。
キリアンを外に置き去りにしたままベッドに飛び込んできうと、私を毛布ごとガッチリと腕の中に閉じ込めた。
「アルティナ、お前が俺をおねだり(ハグを要求)するなんて……! ああ、可愛いな。もうあの羽虫のことは忘れて、今日は一日、俺の体温で完全に溶かされておいで」
(だから、窓の外の男に嫉妬した勢いのまま、朝の第2ラウンドへ確定ルート(ロックオン)を繋げるのをやめてください、この肉食獣上司ーーー!!)
こうして、新婚十四日目の朝は、ストーカー化した側近の襲来から、殿下の「独占欲インフレ・朝の総攻撃」へと直行するのだった。元自衛官令嬢アルティナの、週休六日のスローライフへの戦線は、男たちのカオスな攻防戦により、今日もベッドの上で甘く激しく包囲され続けるのだった。




