第12話:隣国からの軍事使節団。……嫌な予感(残業の気配)しかありません
脳筋の先輩騎士たちを5秒で返り討ちにしてから数日。
演習場の武具倉庫の裏手は、私の目論見(防衛計画)通り、誰も近づかない完璧な『絶対聖域(サボり場)』と化していた。
先輩たちは私と目が合うたびに「あ、アルティナ閣下、お疲れ様です!」と直立不動で敬礼してくるし、おかげで午前中の二度寝のクオリティは劇的に向上した。
これぞ、命がけで勝ち取った平和(有給休暇)。
このまま何事もなく、穏やかな騎士ライフ(実質ニート)を謳歌するはずだった。
――しかし。
王宮の正門から入ってきた、黒い軍馬の列を目にした瞬間、私の『危機管理レーダー』が最大音量でアラートを鳴らし始めた。
「……うん、状況把握完了。あれが噂の、隣国バルカ帝国の『軍事使節団』ね。うん、最悪だわ」
私は詰所の窓から、彼らの行軍を凝視していた。
表向きは「新国王(予定)となるルファード殿下への祝賀と、今後の軍事協定の締結」となっている。
だが、バルカ帝国の騎士たちの目が違う。
祝賀にきたにしては、全員が鎧の下に「実戦用」の暗器を仕込んでいる歩き方だし、何より、使節団の中央にいる男――。
バルカ帝国第3皇子、ガイル・バルカ。
彼の、周囲の地形や王宮の警備配置を「値踏み」するような冷徹な視線は、ただの観光客のそれではない。完全に、事前の威力偵察
(ロケハン)を行う指揮官の目だ。
(あの歩幅、あの視線の動かし方……前世で見た、敵地の制圧シミュレーションを繰り返すガチの職業軍人のそれじゃん。……あーあ、また特大の残業案件が向こうから歩いてきたよ)
ハァ……、と私は窓ガラスに額を押し当てて、盛大に毒突いた。
第二王子派のクズどもを片付けたら、今度は隣国の軍事大国が相手か。
このままだと、国家間の紛争に巻き込まれて、私の「一日十六時間睡眠計画」が永遠に消し飛んでしまう。
「……よし、状況把握完了。今回は『完全スルー』を決め込もう」
そう。私は一介の新人騎士(婚約者内定(仮)だけど)。
こんな国家規模の外交問題は、有能すぎる我が上司、ルファード殿下が一人で残業して片付ければいいのだ。私は全力で気配を消して、倉庫の裏で寝る。それが一番コスパが良い。
そう決意して、私がサボり場へ戦略的撤退(お昼寝)を決め込もうとした、その時。
「アルティナ・フォン・アスラン騎士爵! ルファード殿下より緊急の招集命令です!」
詰所のドアを勢いよく開けて、息を切らした伝令の騎士が飛び込んできた。
「バルカ帝国の使節団を迎える今夜の『歓迎晩餐会』にて、殿下の【公認のパートナー(婚約者)】として、アルティナ様にも同席せよとのことです! 殿下からは『バルカの狐どもを黙らせるには、我が国最強の盾が必要だ』とお言葉を預かっております!」
「……は?」
私の思考が、一瞬、完全にフリーズした。
(あの肉食獣上司ーーーー!! 自分が残業するのが嫌だからって、私を外交の最前線(盾)として駆り出そうとしてるじゃん!! しかも『公認のパートナー』って何!? 外堀を埋めるスピードが音速を超えてるんだけど!?)
隣国の軍事プレッシャーに立ち向かうのと、ルファード殿下の強引すぎる公私混同アプローチを切り抜けるの、どちらが私の精神衛生(睡眠時間)にとって有害か。
「……状況把握、完了しました。伝令、殿下に伝えて」
私は本日何度目か分からないため息をつくと、拳をみしり、と鳴らした。
「『今回の残業代は、一週間の完全有給休暇(引きこもり権)で支払っていただきます』、とね」
「は、はいぃっ!?」
バルカ帝国の陰謀の気配、そしてルファード殿下の逃がさない執着。
二つの巨大な嵐に挟まれた元自衛官令嬢アルティナの、新たな防衛戦(残業)が、今夜の晩餐会から幕を開けようとしていた。




