第11話:騎士爵になりましたが、初出勤から全力でサボり場を探しています
国家式典での衝撃的な【王妃の座への外堀埋め連行】から、数日。
私は晴れて、アスラ王国建国以来初の『女性騎士爵』となり、王宮騎士団へと配属されていた。
贈られた純白の特製軽装甲冑は、私の体型(元自衛官の筋肉の付き方)に完璧にフィットしており、動きやすさは抜群だ。
……まあ、業務内容が「皇太子ルファード殿下の直属護衛」なので、実質的にはあの肉食獣上司の監視下に置かれたままであることに変わりはないのだけれど。
(……よし、状況把握完了。この騎士団本部の演習場、北側の武具倉庫の裏手にちょうどいい日陰があるね。あそこに偽装網の代わりに余った布でも被せておけば、午前中の訓練時間をまるごと睡眠に充てられるな)
私は初出勤の足で、まずは演習場の構造をスキャンし、新たな『絶対防衛サボりライン』を脳内で構築していた。
階級が上がろうが、周囲の見る目が変わろうが、私の「隙あらば寝る」というものぐさな基本方針は一ミリもブレない。
しかし、私の平穏への道は、やはりそう簡単には開かないらしい。
「おいおい、そこのお嬢ちゃんが、噂の『救国の英雄』様か?」
品定めするような下卑た笑い声と共に、私の前に三人の大男が立ち塞がった。
いずれも、鍛え上げられた体躯に傷だらけの甲冑を纏った、叩き上げのベテラン騎士たちだ。その瞳には、ぽっと出の伯爵令嬢(しかも女)が自分たちを差し置いて騎士爵を賜り、皇太子の婚約者に内定したことへの、強烈な嫉妬と侮蔑が渦巻いていた。
(……ハァ、状況把握完了。軍隊組織には必ず一人はいる、新兵いびりが大好きな脳筋の先輩たちだね。めんどくさ……)
前世の駐屯地でもよく見かけた光景に、私は脳内で深い深いため息をついた。
「夜会で暗殺者を数人片付けたくらいで調子に乗るなよ、令嬢。俺たちの戦場(演習)は、おままごとじゃねえんだ。大人しく実家に帰って、刺繍でもしてたらどうだ?」
先頭の髭面の男が、挑発的に大剣の柄を叩く。
周囲の騎士たちも、遠巻きにニヤニヤしながらこちらの様子を伺っていた。ここで私が泣き寝入りすれば、明日からの私の職場環境(サボりの快適さ)は最悪になる。
何度も突っかかってこられて、私の休憩時間をこれ以上削られるのが、一番コスパが悪い。
なら、やるべきことは一つ。
「……そちらの髭面のご先輩。売られた喧嘩の買い方としては、少々お粗末ですよ」
私は腰の訓練用木剣に手をかけ、一歩前に出た。
「ほう、やる気か? 怪我しても泣くなよ!」
髭面の男が、凄まじい風切り音を立てて木剣を大上段から振り下ろす。
常人なら腰を抜かすような一撃。――だが、遅い。
(重心が前に偏りすぎ。右足の踏み込みが甘い。……隙だらけ)
私は半歩だけ横にスライドし、大剣の軌道から紙一重で身体をそらした。
男の剣が空を切り、体勢が前のめりになったその一瞬。私は懐へと一瞬で潜り込み、男の右手首を下から叩き上げて武器を叩き落とすと同時に、その顎へと手のひらの付け根(掌底)を容赦なく突き上げた。
ガカァン! と、男の頭が跳ね上がる。
そのまま私は、男の巨体を背負い投げの要領で前方に叩きつけた。
「がはっ……!?」
激しい衝撃音と共に、砂埃を上げて沈む髭面の男。
残りの二人が驚愕に目を見開くより早く、私は地面を蹴り、二人の足元へ同時にスライディング(ローキック)を見舞った。
「ぶふっ!?」
「うわっと!?」
綺麗に足をすくわれた二人が、綺麗に背中からひっくり返る。
わずか五秒。
先輩騎士の三人組は、一度も私の身体に触れることすらできず、地面に転がって白目を剥いていた。
「状況、終了。……お怪我はありませんか、ご先輩方?」
私は乱れた前髪をふぅっと息で吹き上げ、何事もなかったかのように木剣を収めた。
周囲の演習場は、水を打ったように静まり返っている。騎士たちの目は、もはや侮蔑ではなく、本物の『怪物』を見る畏怖の色に変わっていた。
「素晴らしい身のこなしだ、アルティナ。初日から部下の規律を叩き直してくれるとは、流石は俺の婚約者だな」
パチ、パチ、パチ、と聞き慣れた、そして一番聞きたくない甘い拍手が響く。
振り返ると、演習場の特等席から、ルファード殿下が嬉しそうにこちらを見下ろしていた。
「殿下……。わざわざ騎士団の演習場まで、職務執行の監視に来られたのですか?」
「いや? 可愛いフィアンセの初出勤だからね、お弁当(手作り)を持って応援にきたんだ」
(だから、その公私混同アプローチが私の職場での立場を一番危うくするんですよ……!)
脳筋の先輩たちを秒で黙らせたものの、背後に控える超エリート上司(愛が重い)の存在のせいで、私の「騎士団でのサボりライフ」は初日から前途多難を極めるのだった。




