第13話:歓迎晩餐会。……私の隣の席、重圧(愛)が強すぎませんか?
きらびやかなシャンデリアが輝く、王宮の大晩餐会会場。
私は今、前世の過酷なサバイバル訓練すら生ぬるく思えるほどの、凄まじい『精神的重圧』のど真ん中に立たされていた。
理由は明白。私の座る席だ。
第一皇太子ルファード殿下のすぐ右隣。
まだ正式発表前だというのに、完全に『未来の王妃』としての席次に配置されている。周囲の貴族たちからの視線が、嫉妬と好奇心で物理的に痛い。
(……はぁ、状況把握完了。殿下、わざとこの席に私を座らせて、国内外に『この女は俺のものだ』って既成事実をアピールしてるね。外堀を埋めるどころか、すでに城壁まで築かれてるわ)
私が冷ややかな仮面の下で遠い目をしていると、正面に座るバルカ帝国の第3皇子ガイルが、値踏みするような鋭い視線を投げかけてきた。
「ふむ……。ルファード殿下、その隣にいらっしゃる美しい方が、我が国の工作員を夜闇で一網打尽にしたという、噂の『令嬢騎士』ですか。てっきり鉄血の猛者かと思えば、随分と華奢な令嬢だ。おままごとの飾り付けには丁度いい」
ガイル皇子は不敵に笑い、ワイングラスを傾けた。
言葉の裏にあるのは、あからさまな挑発と、アスラ王国の防衛力を軽視する不遜な態度。会場の空気が一瞬でピキリと凍りつく。
(……うん、状況把握完了。バルカの皇子、私の実力を測るために、わざと煽ってボロを出させようとしてるね。めんどくさ……)
私は一ミリも動じず、ただ「早く終わって帰って寝たい」という一心で、優雅に微笑み返そうとした。
筋肉をピクリとも動かさずに相手の挑発をスルーする。これが一番省エネな大人の対応(サボり技術)だ。
――しかし。
私の隣に座る、我が最恐の上司(婚約者内定)が、それを許さなかった。
「ガイル皇子。我が国の至宝に対して、随分と無礼な物言いだな」
ルファード殿下の声が、低く、地を這うような冷徹さを帯びて響いた。
その瞬間、殿下から放たれた圧倒的な『覇気』に、百戦錬磨であるはずのバルカ帝国の騎士たちが、一斉にビクッと肩を震わせる。
「彼女はただの飾りではない。俺の命を救い、この国の平穏を守った、俺の唯一無二の『盾』であり――俺のすべてを捧げて娶ると決めた、最愛の婚約者だ」
殿下はそう言い放つと、テーブルの下で、私の手をぎゅっと力強く握りしめた。
その手の熱さと、有無を言わせない独占欲の強さに、私の心臓がドクンと不自然な鼓動を打つ。
「もし、これ以上彼女を侮辱するならば……我がアスラ王国は、バルカ帝国とのすべての軍事協定を白紙に戻し、相応の『対応』をとる用意があるが?」
(で、殿下!? たかが新人の陰口一つで、国家間の外交問題を戦争一歩手前までエスカレートさせないでください!! 残業が増える!!)
殿下のガチすぎる脅し(愛の重さ)に、さっきまで余裕ぶっていたガイル皇子の顔が、わずかに引きつった。
ルファード殿下が、私一人のために国力を揺るがす覚悟を持っている。その「本気度」を状況把握してしまったバルカ帝国側は、これ以上アルティナを突っつくのは危険だと一瞬で理解したらしい。
「……クッ、これは失礼した。ルファード殿下の、婚約者殿への深い愛に免じて、今の無礼は忘れていただきたい」
ガイル皇子は冷や汗を流しながら、渋々といった様子でグラスを掲げた。
ひとまず、第一ラウンドは我が上司の「圧倒的勝利(過保護)」で幕を閉じた。
「ふぅ……。状況、終了……」
私は胸の内で息を吐き、握られたままの殿下の手を、こっそり振りほどこうとした。
だが、殿下はさらに力を込めて、私の指を絡めてくる。そして、私にだけ見える角度で、いたずらっぽく、けれど酷く艶然と微笑んだ。
「よく耐えてくれたね、アルティナ。ご褒美に、今夜は俺の部屋で、朝までゆっくり『特別残業(甘いお説教)』をしようか?」
「殿下、私は定時で戦略的撤退(自室へ直帰)させていただきます。絶対に拒否します」
隣国の陰謀を言葉一つで黙らせたものの、隣にいる男の執着という名の『最大警戒対象』から、私は今夜も一歩も逃げられないのだった。




