第九十六章『朝焼けの約束』
気づけば、
空が少しずつ明るくなり始めていた。
深い夜色だった空に、
淡い朝焼けが混ざっていく。
「……朝だ」
ガブリエラが小さく呟く。
ノクスは隣で、
静かに笑った。
「結構長くいたな」
塔の上は冷えるはずなのに、
不思議と寒くなかった。
繋いだ手が温かいから。
ガブリエラは少し名残惜しくなりながら、
空を見上げる。
「綺麗……」
朝焼けに照らされた雪景色は、
まるで別世界みたいだった。
ノクスはそんな景色より、
ガブリエラを見ていた。
「ノクス?」
「いや」
赤い瞳が優しく細められる。
「景色より、
お前見てる方が好きだなって」
「っ……!」
また自然に言う。
ガブリエラは顔を赤くして視線を逸らした。
ノクスは楽しそうに笑う。
「慣れねぇな」
「慣れないでいい……!」
恥ずかしすぎる。
だが。
ノクスが嬉しそうだから、
強く言い返せない。
その時。
遠くから鐘の音が響いた。
朝を知らせる鐘。
皇宮が少しずつ動き始める時間。
ノクスは小さくため息を吐く。
「……戻るか」
どこか残念そうだった。
ガブリエラは少し笑う。
「そんな顔しないの」
「まだ一緒にいたい」
真顔だった。
ガブリエラの胸がまた熱くなる。
ノクスは本当に、
隠さない。
好きだと思ったことを、
全部言葉にする。
ガブリエラは照れながらも、
そっと彼の手を握った。
「また来ればいいでしょ?」
ノクスが目を瞬く。
そして。
ふっと笑った。
「……それいいな」
彼は立ち上がると、
ガブリエラへ手を差し出す。
「送る」
「お姫様扱いしすぎじゃない?」
「恋人だからな」
またその言葉。
でも。
前より少しだけ、
嬉しいと思ってしまう。
ガブリエラは小さく笑って、
その手を取った。
朝焼けの中。
二人の影が並んで伸びる。
その距離は、
もう離れる気がしなかった。




