第九十五章『近づく距離』
夜風が静かに吹き抜ける。
塔の上。
ガブリエラはノクスの肩へ寄りかかったまま、
星空を見上げていた。
こんなに穏やかな時間は、
久しぶりだった。
戦いも。
不安も。
今だけは少し遠い。
ノクスは繋いだ手を軽く握る。
「……眠そう」
ガブリエラは小さく笑った。
「ちょっとだけ」
魔力をたくさん使ったせいで、
身体が重い。
すると。
ノクスが静かに肩を貸した。
「寝てもいいぞ」
「そんなわけには……」
「いいから」
低くて優しい声。
ガブリエラは少し迷ったあと、
そっと頭を預ける。
ノクスの体温が伝わる。
温かい。
安心する。
ノクスはそんな彼女を見て、
穏やかに目を細めた。
「……ほんと、
お前といると落ち着く」
ガブリエラはくすっと笑う。
「ノクスでもそういうことあるんだ」
「失礼だな」
ノクスは笑いながら、
ガブリエラの前髪を軽く撫でた。
その仕草が優しくて、
胸がくすぐったくなる。
しばらく沈黙が続く。
嫌な沈黙じゃない。
むしろ、
心地いい。
ノクスはふいに呟いた。
「これから先も、
こうして隣にいてくれる?」
真っ直ぐな声だった。
ガブリエラは少し驚いて、
彼を見る。
赤い瞳は、
どこか不安そうに揺れていた。
ガブリエラはそっと微笑む。
「……うん」
その返事を聞いた瞬間、
ノクスの表情が柔らかくなる。
まるで、
本当に安心したみたいに。
そして。
「よかった」
小さく笑って、
ガブリエラの額へそっと口づけた。
優しくて、
大切にするようなキス。
ガブリエラの頬が熱くなる。
ノクスはそんな彼女を見て、
満足そうに笑った。
「また赤くなった」
「ノクスのせい……」
「知ってる」
楽しそうに返されて、
ガブリエラは困ったように笑う。
夜空には星が輝いていた。
二人の距離は、
少しずつ、
でも確かに近づいていた。




