第九十四章『触れる温度』
月明かりの下。
唇が離れたあとも、
ノクスはガブリエラを見つめていた。
近い。
吐息が触れそうな距離。
ガブリエラは恥ずかしさで視線を逸らす。
「……そんな見ないで」
「無理」
即答だった。
ノクスは少し困ったように笑う。
「好きな奴が可愛い顔してたら見るだろ」
「っ……!」
またさらっと言う。
ガブリエラの顔が熱くなる。
ノクスはそんな彼女の髪を、
優しく指で梳いた。
まるで大事な宝物に触れるみたいに。
「今日、
頑張ったな」
低い声。
その言葉だけで、
胸がじんわり温かくなる。
ガブリエラは小さく笑った。
「ノクスもね」
すると。
ノクスがふっと目を細める。
「お前に褒められると、
何か全部報われる」
ガブリエラの心臓がまた跳ねた。
静かな夜。
遠くで雪が降っている。
ノクスはそっと、
ガブリエラの肩を抱き寄せた。
今度は甘えるみたいに。
ガブリエラも自然に、
彼へ寄りかかる。
鼓動が聞こえる。
安心する音。
ノクスは髪へ軽く口づけると、
小さく呟いた。
「……このまま時間止まればいいのに」
ガブリエラは少し笑う。
「それは困るかも」
「何で」
「みんな心配するから」
ノクスは不満そうだった。
「今くらい、
二人きりでもいいだろ」
その声音が少し拗ねていて、
ガブリエラは思わず笑ってしまう。
ノクスはそんな彼女を見て、
また優しく笑った。
そして。
指先を絡めながら、
静かに囁く。
「もっと、
お前のこと知りたい」
その言葉は甘かったけれど、
どこか大切に確かめるようでもあった。
ガブリエラは少し照れながら、
小さく頷く。
「……私も」
月明かりの下。
二人は寄り添ったまま、
静かな時間を過ごしていた。




