第九十三章『月の下の本音』
「好きだから」
真っ直ぐな言葉だった。
飾りもなく。
誤魔化しもなく。
ただ、
ノクスの本音。
ガブリエラの胸が熱くなる。
こんなふうに、
何度も好きだと言ってくれる人を、
彼女は知らなかった。
しかも。
その度に、
ノクスは本当に大切そうな顔をする。
ガブリエラは少し照れながら、
小さく笑った。
「……知ってる」
ノクスが目を瞬く。
「何それ」
「だって、
すごく伝わってくるから」
ノクスは数秒黙ったあと、
ふっと笑った。
「やばい、
今のかなり嬉しい」
ガブリエラの顔がまた熱くなる。
すると。
ノクスが少し身体を寄せた。
肩が触れる。
温かい。
夜風は冷たいのに、
隣だけ熱かった。
ノクスは空を見上げながら呟く。
「昔さ、
こんな未来想像してなかった」
「未来?」
「誰かと一緒にいるとか」
ガブリエラは静かに彼を見る。
ノクスはどこか遠い目をしていた。
「俺、
ずっと一人でいいと思ってた」
その言葉に、
胸が痛くなる。
ノクスは強い。
でも。
その強さの裏で、
ずっと孤独だったのかもしれない。
ガブリエラはそっと、
彼の手を握り返した。
「……今は?」
ノクスがこちらを見る。
赤い瞳。
優しく揺れていた。
そして。
迷いなく答える。
「お前がいないの無理」
ガブリエラの呼吸が止まりそうになる。
ノクスは本当に、
恥ずかしいことを平然と言う。
だが。
その声は真剣だった。
冗談じゃない。
本気でそう思っている。
ガブリエラは胸の奥が、
じんわり温かくなるのを感じた。
「私も……」
小さな声。
でも。
ノクスはちゃんと聞き取ったらしい。
赤い瞳が柔らかく細められる。
「もう一回」
「えっ」
「ちゃんと聞きたい」
ずるい。
そんなふうに見つめられたら、
断れない。
ガブリエラは恥ずかしさに耐えながら、
小さく息を吸う。
そして。
「……私も、
ノクスがいないの嫌」
言った瞬間、
顔が熱くなる。
だが。
ノクスは驚いたように目を見開いたあと、
急に顔を覆った。
「ノクス?」
「無理」
「え!?」
「可愛すぎて心臓痛い」
ガブリエラは思わず吹き出す。
ノクスがこんな反応をするなんて、
少し意外だった。
すると。
ノクスは彼女を見る。
赤い瞳が甘く細められる。
「……キスしていい?」
ガブリエラの心臓が跳ねた。
月明かり。
静かな塔の上。
近づく距離。
ガブリエラは真っ赤になりながら、
小さく頷く。
その瞬間。
ノクスは優しく彼女の頬へ触れた。
壊れ物みたいに。
そして。
そっと唇を重ねる。
今度は、
少し長い口づけだった。
甘くて。
優しくて。
離れたあとも、
ガブリエラの胸は苦しいくらい高鳴っていた。
ノクスは額を寄せ、
低く笑う。
「……好きすぎる」




