第九十二章『迎えに来た恋人』
夜。
部屋へ戻ったガブリエラは、
ベッドへ倒れ込んだ。
「……無理」
顔が熱い。
思い出すのは、
今日のことばかり。
ノクスの言葉。
抱き締められた感触。
耳元で囁かれた、
“あとで迎え来る”。
ガブリエラは枕へ顔を埋めた。
心臓がうるさい。
恋人になってから、
ノクスが甘すぎる。
しかも。
本人は全然恥ずかしがらない。
「ずるい……」
ガブリエラだけ、
毎回振り回されている。
その時。
コンコン。
窓が軽く叩かれた。
「……え?」
ガブリエラが顔を上げる。
窓の外。
そこには。
黒い翼を広げたノクスがいた。
月明かり。
夜風。
その姿は、
ずるいくらい綺麗だった。
ノクスは窓越しに笑う。
「迎え来た」
本当に来た。
ガブリエラの顔が一気に熱くなる。
慌てて窓を開ける。
「な、何してるの!?」
「デート」
即答だった。
ガブリエラは固まる。
「今!?」
「約束しただろ」
確かにした。
でも。
まさかこんなすぐとは思わない。
ノクスは少し首を傾げた。
「嫌?」
その顔はずるい。
断れるわけない。
ガブリエラは観念したようにため息を吐く。
「……少しだけだからね」
瞬間。
ノクスの表情が柔らかくなった。
「ん」
そして。
当然のように、
ガブリエラへ手を差し出す。
ガブリエラは少し迷ってから、
その手を取った。
温かい。
次の瞬間。
ふわりと身体が浮く。
「きゃっ」
ノクスがガブリエラを抱き上げたのだ。
「ノクス!?」
「落ちたら困る」
「自分で飛べるよ!?」
「でも抱きたい」
さらっと言う。
ガブリエラの顔が真っ赤になる。
ノクスは楽しそうに笑いながら、
夜空へ飛び立った。
眼下に広がる皇都。
雪景色。
星空。
冷たい風。
でも。
ノクスの腕の中は温かかった。
ガブリエラはそっと、
彼の服を掴む。
ノクスが視線を向ける。
「寒いか」
「ううん」
むしろ安心する。
そう思ってしまう自分が、
少し悔しい。
ノクスはそんな彼女を見て、
優しく目を細めた。
やがて。
二人は城の塔の上へ降り立つ。
誰もいない場所。
静かな夜。
ノクスはガブリエラを降ろすと、
隣へ座った。
距離が近い。
だが。
今はそれが嫌じゃなかった。
しばらく、
二人で星空を見る。
静かな時間。
その後。
ノクスがぽつりと呟いた。
「今日、
マジで怖かった」
ガブリエラが彼を見る。
赤い瞳は、
夜空を見上げていた。
「お前が戻ってこなかったらって、
ずっと考えてた」
低い声。
本音だった。
ガブリエラの胸が締め付けられる。
ノクスは笑う。
でも。
少し寂しそうだった。
「だからさ」
彼はそっと、
ガブリエラの手を握る。
指を絡めるように。
「もっと、
お前との時間欲しい」
ガブリエラの心臓が跳ねる。
ノクスは真っ直ぐ彼女を見た。
「好きだから」




