第九十一章『二人きりの時間』
皇宮へ戻った頃には、
すっかり夜になっていた。
騎士たちは後処理に追われ、
城内も慌ただしい。
だが。
ノクスはそんな空気など気にせず、
ずっとガブリエラの隣にいた。
というより。
離れない。
廊下を歩けば手を繋ぎ。
階段では腰を支え。
少しでもふらつけば、
即座に抱き寄せる。
「ノクス……」
「ん?」
「さすがに過保護すぎる」
ノクスは真顔だった。
「今日お前、
消えかけたんだけど」
「消えてないよ!?」
「俺の中ではかなり危なかった」
ガブリエラは言葉に詰まる。
確かに、
あの封印は危険だった。
でも。
ここまでされると恥ずかしい。
廊下の侍女たちも、
完全にニヤニヤしていた。
「仲良しですねぇ……」
「きゃー……」
ガブリエラは顔を覆いたくなる。
一方ノクスは、
むしろ堂々としていた。
そして。
部屋の前へ到着した瞬間。
ノクスが当然のように一緒に入ろうとする。
「待って」
ガブリエラが慌てて止めた。
ノクスが不思議そうに振り返る。
「何で」
「何でじゃないの!」
「恋人だろ?」
またそれ。
万能の言葉みたいに使う。
ガブリエラは真っ赤になる。
「そ、それとこれとは別!」
ノクスは少し考える顔をした。
だが。
数秒後。
さらっと爆弾を落とした。
「じゃあ、
二人きりになりたくない?」
「っ!!」
ガブリエラの思考が止まる。
ノクスは完全に確信犯だった。
赤い瞳が楽しそうに細められる。
「顔に出てる」
「出てない!!」
「出てる」
押し問答。
その時。
背後から呆れた声がした。
「お前ら、
廊下で何してる」
レオンハルトだった。
ガブリエラは勢いよく振り返る。
救世主。
だが。
レオンハルトは二人を見るなり、
深いため息を吐いた。
「……駄目だなこれは」
「何が」
「ノクスが完全に浮かれてる」
ノクスは否定しない。
むしろ。
「当然だろ」
真顔だった。
レオンハルトが頭を押さえる。
ガブリエラは羞恥で死にそうだった。
その時。
ノクスが突然、
ガブリエラの耳元へ顔を寄せた。
「あとで迎え来る」
「え」
低い声。
甘い囁き。
ガブリエラの心臓が跳ねる。
「ちょ……」
ノクスは満足そうに笑うと、
そのまま去っていった。
黒い外套が翻る。
ガブリエラは真っ赤なまま固まった。
レオンハルトが静かに言う。
「……大変だな」
「他人事みたいに言わないで……」
レオンハルトは苦笑する。
そして。
少しだけ優しい目をした。
「でも、
お前が嬉しそうで安心した」
ガブリエラは目を瞬く。
レオンハルトは窓の外を見る。
雪が降っていた。
「ようやく、
心から笑えてる」
その言葉に。
ガブリエラの胸が、
じんわり温かくなった。




