第八十七章『君のためなら』
吹雪の夜空。
黒い災厄。
その中心へ向かって、
ガブリエラとノクスは飛ぶ。
繋いだ手は、
離れない。
下では騎士たちが戦っている。
レオンハルトの蒼い剣閃。
セレフィナの白い術式。
だが。
巨大な“目”は止まらなかった。
ぎょろりと動き、
再びガブリエラを捉える。
瞬間。
無数の黒い槍が空中へ放たれた。
「っ!」
ノクスが翼を広げる。
黒炎。
槍を焼き払う。
だが。
数が多い。
一つがガブリエラへ迫った。
「危ない!」
ノクスが身体を捻る。
次の瞬間。
黒い槍が、
彼の肩を貫いた。
「ノクス!!」
鮮血が散る。
ガブリエラの顔が青ざめた。
だが。
ノクスは眉一つ動かさない。
むしろ、
苛立ったように舌打ちした。
「チッ……
うぜぇ」
そのまま槍を引き抜く。
傷口から黒炎が漏れる。
異常な光景だった。
ガブリエラは震える声を出す。
「怪我……!」
「これくらい平気」
「平気じゃない!」
ノクスは少しだけ目を丸くする。
ガブリエラは泣きそうだった。
自分を庇った。
迷いなく。
その事実が、
胸を締め付ける。
ノクスは困ったように笑う。
「そんな顔すんな」
彼の指が、
ガブリエラの頬へ触れる。
血のついた手。
それでも優しかった。
「お前守れたなら、
安い傷だ」
ガブリエラの胸が痛くなる。
好き。
その気持ちが、
どんどん大きくなる。
失いたくない。
絶対に。
ガブリエラは涙を堪えながら、
彼の傷へ手を当てた。
銀黒の光。
治癒魔法。
ノクスが目を見開く。
「……お前、
そんなのまで」
「黙って」
ガブリエラは真剣だった。
傷がゆっくり塞がっていく。
ノクスはしばらく黙っていた。
やがて。
ぽつりと呟く。
「ほんと、
俺ばっか好きになる」
「え……」
ノクスが苦笑する。
「そんな必死にされたら、
もっと離せなくなるだろ」
ガブリエラの顔が熱くなる。
だが。
その時。
巨大な目が咆哮した。
空間が震える。
同時に。
村中の裂け目が広がり始める。
セレフィナが叫んだ。
「まずい!!」
レオンハルトも顔色を変える。
「空間崩壊か……!」
ガブリエラの記憶が警鐘を鳴らす。
これを止めなければ、
村ごと飲み込まれる。
ノクスも理解したらしい。
赤い瞳が鋭くなる。
「一気に核を潰す」
ガブリエラは頷いた。
二人は手を繋いだまま、
さらに加速する。
巨大な目が、
真っ赤に光った。
次の瞬間。
黒い光が、
二人へ放たれる。
だが。
ノクスは笑った。
「怖ぇ?」
ガブリエラは彼を見た。
そして。
小さく笑い返す。
「……ノクスと一緒なら平気」
その瞬間。
ノクスの顔が、
驚くほど優しく崩れた。
「……好きすぎて死ぬ」
こんな状況なのに。
ガブリエラは思わず笑ってしまった。
そして。
二人は同時に、
災厄の核へ手を伸ばす。




